何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来

文字の大きさ
15 / 26
Chapter3

14-1

しおりを挟む
十七時過ぎに、託児所に隼輔を迎えに行った後。

目の前の道路には、見覚えのあるセダンが一台停まっていた。

それは昼間に見た隼也の車で。


「舞花、乗って」

「いやだからチャイルドシート無いから……え?」

「用意した。ほら、早く」


つい先ほどまでは無かったのに、今は後部座席にチャイルドシートがついていた。

驚きつつも、ここまでしてくれていたら断るのも申し訳ない。


「家すぐそこなんだけど……」

「いいから」


隼也に言われるがままチャイルドシートに座らせてベルトを止めた。

そのまま後部座席に座るように促され、隼輔の隣に乗り込んだ。

一週間前と同じく、部屋に招き入れる。

違うことと言えば、隼輔が起きていることだろうか。


「ままぁ、このひとだあれ?」


前回と全く同じことを言って私の後ろに隠れている隼輔を見て、少し笑えてきた。

隼也は困ったように笑いながら、ネクタイを緩めてシャツの袖を捲り、隼輔と仲良くなろうと必死に喋っている。


「俺、隼也って言うんだ」

「しゅーや?」

「しゅ、ん、や」

「しゅーうーやー!」


何度教えてもシュウヤと言ってしまう隼輔は、


「ぼく、しゅんちゃん!」


とドヤ顔で自己紹介をして隼也を笑わせる。


「託児所でね、先生方がしゅんちゃんって呼んでくれてるの」

「確かに呼びやすいよな。俺も昔はそう呼ばれてたし」

「それもそうだね。そんなところまで一緒だ」

「ははっ、お前が似た名前にするからだろ」

「だって、なんとなくそうしたかったんだもん」


他にもたくさん候補はあったものの。

生まれてきた時の顔を見て、この名前に決めた。


「生まれた時からもう隼也にそっくりだったから」


当時のことを思い出して笑っていると、


「……俺もその場にいたかったな……」


となんとも切なそうな表情で隼輔を抱っこしていた。

隼輔は楽しそうにきゃっきゃっしていて、こうしてみると全く違和感が無くて、本当の親子にしか見えない。

その様子を見つめながら、私は寝室の棚の一番奥にある一冊のアルバムを取り出した。


「隼也」

「ん?」


隼輔を抱っこしたまま振り向いた隼也に、そのアルバムを渡す。


「これ、隼輔が生まれた時から今までの写真が入ってるの。隼輔もこれ見るの好きだからよく開くんだけど、良かったらご飯作ってる間、二人で一緒に見ててくれる?」

「おぉ。さんきゅ。……よし隼輔、一緒にアルバム見るか!」

「あうばむ?」

「アールーバーム!これ、写真!見ような!」

「うん!」


普段は人見知りが激しい隼輔だけれど、何故だか隼也には全く人見知りしない。

もしかしたら何か本能的に感じ取っているのだろうか。そう感じざるを得ないくらい、二人の距離感はとても近くまさに親子そのもの。

嬉しそうに笑う隼輔を見て、やはり私一人で母親も父親役もやるのは限界があったなあと感じた。

今日もすぐできる比較的簡単なメニューを作り、今日は三人でテーブルを囲んでご飯を食べる。

隼也には生姜焼き、隼輔には味付け前のお肉に生姜の代わりにりんごで作ったソースをかけて食べさせた。

私以外の人と一緒に家で食事をする機会が無いからか新鮮で楽しいらしく、隼輔は終始楽しそうに笑ったり頬張って食べたりと隼輔なりに満喫していた。

お風呂に入れてあがって、歯磨きをして寝かしつけをして。

ようやく一息ついて寝室からリビングに戻った頃には二十時をすぎていた。

隼也は私と隼輔がお風呂に入っている間に買い物に行っていたらしく、テーブルの上にはジュースが置いてあった。


「お待たせ」

「お疲れ。買ってきたから一緒に飲もう」

「ありがと」


もらったジュースで喉を潤すと、体に甘さが染み渡るような気がした。


「たった数時間一緒に遊ぶだけで結構体力消耗したよ。子どもってすげぇのな」

「うん。体力底無しかと思うよ。でもある時突然スイッチ切れたみたいに寝落ちしたりもするから面白いけどね」

「まじかよ。見てみてぇな」

「動画あるよ?見る?」

「見る!」


二人並んで肩を寄せ合い、私のスマートフォンを覗き込む。

そこにはご飯を食べながらカクン、カクン、と半分寝ている隼輔の動画が。

もうこんな動画を撮ることはできないだろうから、私の宝物になっている。

他にも隼輔の写真や動画を一緒に見て、隼也が知らない時間を埋めるように思い出話をした。

気が付けば一時間が経過していた。

テレビでは音楽番組が流れており、懐かしい曲の数々に目を細める。


「……昼間言ったことだけどさ」

「ん?」

「俺たちの、これからのこと」

「……うん」


テレビに向けられた視線が、ゆっくりと私に向く。

絡み合った視線は、熱を帯びているような気がした。


「俺と結婚してほしい」

「え……?」


私の手をぎゅっと握り、


「舞花、結婚しよう」


もう一度プロポーズの言葉を口にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。 ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。 落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。 「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」 「さぁ、、試してみる?」 クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー 【登場人物】 早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳 姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆他にエブリスタ様にも掲載してます。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

仮面夫婦のはずが執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
仮面夫婦のはずが執着溺愛されちゃいました

処理中です...