何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来

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Chapter3

14-2

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何かを決意したような力強い瞳。

驚いて、言葉を失った私に隼也は微笑む。


「いきなりそんなこと言われても舞花が困るのもわかってる。俺たちだけの問題じゃないこともわかってる。隼輔の気持ちもあるし、いきなり現れた男が実は父親でした、なんて。子どもがすぐに受け入れられないことくらい、わかってる」

「……じゃあ、どうしていきなり……」


"これから"がある。それだけで嬉しかったのに、結婚?

頭が追いつかなくて、しどろもどろになってしまう。


「言ったろ?もう後悔したくないって」


目に涙が滲む私に、隼也は笑うのだ。


「舞花がいなくなって、もう会えないかもしれないって思って、たまんなく怖くなって。苦しくて。初めて気付いたんだよ。俺は舞花が好きだって」

「な、え、え?」

「舞花の優しさに甘えて今まで自分の気持ちを理解してなかった。俺は舞花のいない人生なんて考えられないし、いつでも手の届くところに舞花がいてほしい。舞花と一緒に隼輔の成長を見ていきたいし、一緒に育てたい」

「……」

「舞花、好きだ。大好きだ」


これは現実なのだろうか。都合の良い夢?私の願望?

だって、こんなことあるっ……?


「っ……なによっ、いまさらっ」

「あぁ。本当今更だよな。舞花のこと傷付けて、大変な思いさせて。都合の良い馬鹿な男だって笑えばいいよ。
でも俺はお前を諦めるつもりはさらさら無いから」

「……笑えないよっ、馬鹿っ!」


涙を拭うことも忘れて、その胸に飛び込む。

驚きつつも軽々と受け止めてくれたその大きな身体に、言葉にならない気持ちをぶつけ続ける。


「馬鹿っ……ほんと、馬鹿だよ隼也っ……」

「あぁ。俺は馬鹿だよ。こんな可愛くて魅力的な女がずっと隣にいたのに、気付かなかったんだから」

「っ……隼也のバカァ……」


隼也の胸を何度も叩く。服を握りしめ、溢れる涙を肩に押し付け、漏れる嗚咽を飲み込むように必死に堪えた。

本当に馬鹿なのは、隼也じゃなくて私だ。

自分の気持ちに気が付いてからずっと今日まで、告白すらもできなかった私が一番馬鹿なんだ。

自分にも周りにも嘘をついて、隼也とは仲の良い幼馴染をずっと続けてきて。

自分が傷付きたくないから逃げた臆病者だ。

そんな私には隼也を責める資格なんてないのに。


「ごめんな舞花。うん、ごめん」


何故か嬉しそうに謝る隼也の胸が、心地良くて。

その優しさに甘えて、しばらく泣き続けた。


「……落ち着いた?」

「うん」

「ははっ、目真っ赤」

「……うるさい」

「ちょっと待ってろ。何か冷やすもの持ってくるから。……舞花?どうした?」


泣き止んだ後、私の顔を覗き込んでから立ち上がろうとした隼也の服の裾を掴む。

不思議そうに首を傾げた隼也に、顔を真っ赤にしながら呟いた。


「……行かないで。一緒にいて」


囁くほどに小さな声だったものの、隼也には聞こえていたようで無言で再び隣に座ってくれる。


「……隼也」

「ん?」

「ぎゅってして」

「……ん。おいで」


恥ずかしくて顔を上げられない私に、隼也が小さく笑っているのがわかる。

広げられた両手にもう一度飛び込むと、今度はその首に両手を回した。

隼也の首筋に鼻を擦り寄せ、深呼吸を繰り返す。

今日も香るグレープフルーツに、目尻が下がる。


「隼也」

「どうした?」

「……馬鹿って言ってごめん。叩いてごめん」

「ははっ、気にしてねぇよ」


同じように私の首筋に鼻を寄せた隼也に、


「私も、隼也のことが好きだよ」


耳元にそう伝えると、


「……」


無言で身体を少しだけ離して、私の顔を凝視した。


「……舞花、今なんて」

「隼也のことが、好き」

「……まじ?」

「本当は、ずっと昔から。出会った頃から、私はずっと隼也だけが大好き」


信じられない。そんな表情に、今度は私が笑った。


「好きな人との子どもだから、迷いなく産むことに決めたんだよ」


あの日のことを。今までのことを。

ゆっくり、少しずつ語る。

明かされる事実に、隼也は一言も聞き逃さないように真剣に聞いてくれた。

そして。


「隼輔の気持ちを一番に考えたいから、今すぐに結婚はできない。……けど」

「うん」

「私、結婚するなら隼也としか考えてないから」


私も、隼也と一緒に人生を歩んでいきたいよ。

隼也のネクタイを掴んで、くっと引き寄せる。

自分から重ねた唇は、慣れていないからか不恰好なものになってしまったけれど。

目を見開いた隼也が


「待って、今のは反則……」


顔を真っ赤にして手で覆うから。

滅多に見られない隼也のそんな顔に笑っていると、仕返しとばかりに私の腕を引いて激しいキスを落とす。


「俺だって、やられっぱなしじゃねぇから」

「……ずるい」

「お前の方がずるいわ、あんま煽んなよ。歯止め効かなくなるから」

「っ、馬鹿っ!」


バシンと叩いて身体を離した。

今日は遅いから、そのまま隼也は帰って行くことになり、玄関まで見送る。

その途中に隼輔が寝ている寝室を少しだけ覗いて「……おやすみ、隼輔」と呟いていたのが嬉しくて、胸がいっぱいになった。
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