何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来

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Chapter3

15-1

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*****

「じゃあ、隼輔のことよろしくね」

「まかせて。帰りは夜中になっちゃうのよね?」

「うん。ごめんね。隼輔が寝た後になっちゃうから、明日の朝に迎えに来るよ」

「そうね。でも接待なら夜中まででしょう?そんなに急ぐ必要ないからちゃんと寝てから来なさい。昼過ぎでいいから」

「……ありがと。あ、これ、隼輔のオムツとか着替えとか好きなおやつとか、いろいろ入ってるから」

「わかった。心配しなくても大丈夫よ。何かあったらすぐに連絡するから、行っておいで」

「……ありがとう、お母さん」


隼也と再会してプロポーズをされた日から、一ヶ月が経過していた。

私と隼輔の生活は相変わらずで、忙しい毎日の中でもできるだけ様々な経験をさせたくて、休みの日はなるべく遊びに出かけたりしている。

そんな日常の中に、最近は隼也と出掛ける機会も増えてきた。

隼輔が喜ぶかな、と動物園や水族館、隼輔が大好きなヒーローショーを遊園地まで見に行ったり。

会うたびに隼輔にプレゼントを持って行くようになった隼也。その甲斐あってか最近では「しゅーや!しゅーや!」と会う日を心待ちにしているよう。



そんな今日は、隼也とお出かけ、ではなく。

仕事の関係で、せっかくの金曜日なのに急遽業務後に取引先の重役との会食の予定が入ってしまい、帰りが遅くなってしまうため隼輔を実家に預けることになっていた。

今までにも何回か泊まりに行っているため、隼輔はおじいちゃんもおばあちゃんも大好き。

今もきゃっきゃっと喜んでお母さんに抱っこしてもらっている。

しかし隼輔だけでのお泊まりは初めてだったため、私の方が不安で寂しくなってしまっていた。

お母さんに隼輔が寂しがらないうちに早く行って!と急かされ、朝早く私は実家から外に出て会社に向かう。


「おはようございます」

「おはよう津田島さん。今日は本当に申し訳ないね。隼輔くん、大丈夫かい?」

「はい。母に預けてきました。明日に迎えに行く予定です」

「そうか、良かった。どうしても津田島さんに来て欲しいと先方に言われた時はどうしようかと思ったけれど、本当に助かったよ。ありがとう」


今日の会食は、古くからTOKIWAとの繋がりがある玩具メーカーである【エーデルワイス】の専務取締役と営業本部長とのもの。

TOKIWAの製品は元々三十代から四十代ほどの女性をメインターゲットにしているものの、二年ほど前に業務拡大のために若い女性をターゲットにした新レーベルを発表した。もっと若い顧客も取り込もうという作戦なのだろう。

その年代の女性たちが子どもだったころに人気があったキャラクターや、今ネットで人気を博しているキャラクターなどとコラボした新商品や季節限定のものをリーズナブルな価格で提供している。

今までデパートでしか買えなかった従来のTOKIWA製品とは違い、若い女性が行きやすいドラッグストアなどで買えるようになるのもウケ、今じわじわと売り上げが右肩上がりに推移してきているのだ。

今年はエーデルワイス社のゆるいうさぎのキャラクターが若い女性に大ヒットしたため、ぜひコラボさせていただけないかという商談を控えている。

今日の会食は、それに備えての下準備というわけだ。

まだ私が常務取締役付きの秘書だった頃に何度かお会いしたことがある二人で、私を大変気に入っていただけたらしく今回のお声がけとなった。それ自体はとてもありがたいことだ。

どうやって今私が副社長の元にいると知ったのかはわからないものの、「ぜひ津田島さんにもご挨拶したい」と言ってきかなかったらしい。

最初はお断りしようと思っていたものの、熱心な誘いと光栄なお話のため今回限りという条件付きで了承したのだ。


「津田島さん、久しぶりだね」

「ご無沙汰しております、真山専務、早瀬営業本部長。本日はお声がけいただきありがとうございます」

「いやいやこちらこそ。子どもができたんだって?そんな忙しい時に無理に誘ってしまってすまないね」

「恐縮です」


終業後。私は副社長の車に一緒に乗り込み、手配しておいた料亭に足を踏み入れ相手方を出迎えた。

久しぶりに会う重役二人と食事を交えながら世間話からこれからの会社の展望の話まで、幅広く話を振って情報を集める。

頃合いを見て帰りたいところではあったものの、さすがに取引先よりも先に帰るわけにはいかない。


「ほら、津田島さんも」


お酒も注がれてしまい、やはり帰れそうもなかった。

頭の中は隼輔のことでいっぱいで、ちゃんとご飯食べられたかな、とかちゃんと寝れたかな、とか。

お風呂で暴れなかったかな、とか歯磨き嫌がらなかったかな、とか。

そんなことばかり考えていると、無性に隼輔に会いたくなる。

ようやく会がお開きになった時には、すでに二十二時を回っていた。

日付を跨がなかっただけまだマシだろうか。

重役たちをハイヤーに乗せて、副社長の車で送ると言われたものの丁重にお断りした。

実は隼也が迎えにきてくれることになっていたからだ。

トイレに立った時、隼也から"終わったら迎えに行く"と連絡が来ていた。

元々今日の会食の予定は伝えてあったため、二つ返事でお願いすることにした。
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