とろけてまざる

ゆなな

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2章

3話

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「荷物はこれだけでいいのか?」
次の土曜日はこれでもかというくらい晴れていて、抜けるような青空が目に眩しい日であった。
永瀬の車の後部座席とトランクに積めてしまうくらいの量の荷物。

「マンション、親が買った分譲なんで勝手に処分できないんです。だから普段使わないものとか季節外れのものは置いておきます」

僕にすぐに飽きるかもしれないしね、というのは心の中で。

国道沿いのセキュリティがしっかりとした比較的新しいユキのマンションは地理的条件からいっても分譲ならば安いとは言いかねる価格であろう。

「親とは疎遠だと言っていたが随分いいところに住まわせてもらってたんだな」

「親がいくつか都内に所有してたものの一つがたまたま空いていたからってだけですよ。空き家にしておくよりは人が住んでいた方がいいんです。それに永瀬先生には言われたくありません」

ユキのマンションから近い永瀬の自宅は都心にありながらも閑静な住宅街の一角。
一人で住むにはかなりの広さの邸宅。
暖かな雰囲気の美しい家。
『まさか、ご家族と一緒に住んでるところに連れ込んだんですか?』
初めて泊まった翌日その部屋数の多さに思わず漏らした呟きに
『実家の家を継いだんだ。住んでるのは俺だけだ』と答えた。
実家の家に住んでいるべき両親は?ともたくさん部屋があることから兄弟も多かったのでは?とはユキは追及しなかった。

ユキの独り暮らしをしていたマンションからはそう距離もなかったので車はあっという間に永瀬の家のガレージに滑り込んだ。
定期的に業者が入っているのだろう。綺麗に整えられた庭を横目に広い家に入ると週に3日ほど通いで勤めている家政婦の佳代がユキの引っ越しに合わせて休日出勤をしていたため出迎えた。

「お帰りなさいませ。和真様がもうちょっと早めに雪也様をお迎えになるという話をして下さっていたらもっと色々と準備いたしましたのに……」

丁寧な言葉ではあるが雇い主に気安く恨み言を言えるのは、佳代が古くから永瀬の家に勤めていた家政婦であるからだ。
一緒に暮らすことを伝えたとき佳代はとうとう和真様が番を決められたと大喜びした。
番にはなっていない二人だが、ベータである佳代にはわからないだろうとそのまま否定はしていない。

少ない荷物はあっという間にユキの部屋に運ばれた。
二階の南向き。広めのクローゼット、寝心地の良さそうなシングルベッド。デスクトップのパソコンも置けそうなウッド製の大きなデスクは使い易そうだった。

荷物を片付けていると昼食にしようと永瀬が現れた。
佳代は揚げたての天ぷらがのった美味しそうな蕎麦を二人分ダイニングテーブルに並べると
「それでは今日はこれで暇をいただきますね。」
と心底嬉しそうな笑みを浮かべて帰って行った。

永瀬に番が出来たことが余程嬉しいと見える彼女の後ろ姿はもうすぐ60歳に手が届く年齢だが、嬉しそうに弾んでいた。

「……!美味しい……」

「佳代さんの料理は絶品だからな。基本的に食事をお願いしてるのは平日の夕食のみで、土日は自炊だが今日は引っ越しだから特別に用意してもらってある」

ユキは基本的に入院病棟も担当しているので土日出勤も当直もあるシフト制だが、
永瀬は予約制の外科手術を主に担当しているのでカレンダーどおりの勤務形態だ。

美味しい昼食を摂った後は永瀬が自室に入ったのでユキも自室で片付けを済ますといつもの休日のように勉強をして過ごした。
夕食のあと、寝室に誘われるかと緊張したが、そんなことはなくあっけなく二人で暮らし始めた一日は終わった。
その次の週はユキが当直が多く家に居ない夜もあったが、二人揃って早く帰れた夜でさえもベッドに誘われることがなかった。

(発情期以外はシないってことなのかな?まぁ確かに恋人ってわけでもないしな)

ぼんやりとユキはそんな風に思ったが、時おり家で顔を合わせたり何処か人の気配がする環境を居心地良くも感じていた。
人と暮らすのはちいさな互いの溝を埋めるのが大変だ。
産まれたときから共に過ごす家族でさえも大変なのに、それが他人なれば如何程のことであろうと危惧していたのだが、永瀬との暮らしは驚くほどに快適であった。

(これが、相性がいいということなのかも、しれない)
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