とろけてまざる

ゆなな

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2章

4話

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二人の奇妙な同居生活が始まってから数日後、ユキの担当患者である松浦高弥の手術が行われた。
手術室はその一つ上の階に見学室が作られているタイプのものであり、上の階のガラス窓から手術の様子を見学することができた。
アメリカで飛び級を重ね、日本で医師になるより大分若くして医師になったという永瀬は不可能と言われた脳腫瘍を幾つも取り除いてきた所謂『神の手を持つ』と言われる天才外科医だ。

見学室には外科医や医学生が永瀬の手術の様子を見学しようと訪れていたが、その中にやはり高弥の家族がいないことを確認しユキは細く溜め息を吐いた。
ユキは本日非番であったが麻酔をかけられるギリギリまで高弥の傍にいてやりたくて出勤していた。
もちろん手術も見学していくつもりだ。

滅多に見舞いにも来ない両親。
さすがに本人の前では口にしなかったが、担当医であるユキに『オメガである息子にそんなに高い治療費を払いたくない』と告げてきた彼の両親。

(どうか手術が成功して、後遺症が少なくなるように……)
将来の夢のために病床に臥せながらも勉強をしていた高弥を思い、固唾を飲んで手術を見守った。

手術が開始されて2時間ほどすると見学者からおぉっと声が上がった。
永瀬が高弥に巣くう巨大な腫瘍を綺麗に取り出したのが目視できたからだ。
あまりに短い時間であることと小さな切開口から腫瘍を取り出す手法に称賛の声が上がる。
手術は通常の半分ほどの時間で終わったらしい。

永瀬の華麗に動く指先は確かに神がかっていた。
迷いのない素早い指示、外科手術を専門としなくてもわかる素晴らしいテクニック。

あの指先が熱をもって自分に触れたことも
あの痺れるほどに美しい瞳が欲情の炎に燃えて自分を見ていたのことも
どこか信じられないような思いでユキは永瀬の姿を見ていた。

*****

高弥の意識が回復するのを待ってからユキは帰路に着いた。
朦朧としていたが、視線の先にユキを見つけると高弥がほんの僅かにだが微笑んだのを見付けて、安堵の溜め息を吐いた。

家に帰ると、既に永瀬は帰宅していた。

「おかえり。ちょうど夕食を摂るところだった。ユキも今食べるか?」

コットンパンツにTシャツというラフな部屋着に着替えた永瀬の指先を思わず目で追ってしまいながら、ユキはこくりと頷いて
「あ、僕がやりますので先生休んでて下さい」
と言うと
「幸いにも短い時間で済んだからそんなに疲れてはいないさ。佳代さんが作って行ったものを温めるだけだから。」

と笑った。

永瀬の言うとおり温めるだけだったので、ダイニングテーブルにはあっという間に食事が並んだ。

「先生に高弥くんの手術をお願いする前、散々先生の論文や手術のVTRなどは見たんですが、やはり手術痕が小ささや手術時間の短さは素晴らしくて直接見れて良かったです」

ユキがそう切り出すと

「患者の負担が小さくなるように考えていったらああなっただけだ。頭切って脳を弄られるなんて考えただけでも凄く辛そうだからな」
と、ふと笑った。

面と向かってはっきり君に褒められると照れくさいなとも。

そう言って綺麗な指先を動かして食事をする永瀬をユキはずっと見ていたいような不思議な心持ちになってしまい
慌てて食事を済ませて部屋に駆け込んだ。
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