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5章
6話
しおりを挟む「大丈夫だから、言ってごらん。話したらきっと楽になる。一人で抱え込まないで……」
うんと優しい掌と唇。ゆっくりと躯の繋がりを解いて広い胸の中。漸く少しずつ現実に戻ってきたユキの耳元で魔法の呪文を唱えるように。
躯から余計な力が抜けてくたりとしたユキ。腕の中で永瀬に導かれるままに、話した。
「父がくも膜下出血で倒れたらしいんです」
話すと腕にぎゅっと力が込められた。永瀬の反応にきっと帰ってからユキの表情を見てある程度のことは予想されていたんだなと思った。込められた腕の力に励まされるように続けた。
「倒れて搬送されて……でも動脈瘤の位置がすごく悪くて搬送先では開頭は諦めたそうなんです。そこでカテーテルでの治療をしたそうなんですが完全に閉塞できなかったみたいで……処置後も微小出血が検知されたそうなんです。今は容態は落ち着いているんですが、血圧が上がってまた沢山出血したら……そのときは命は危ないってそれで……それで……」
「わかった。俺が診よう。明日には俺が連絡を取るから詳しいことや先方の連絡先を明日の出勤前に教えてくれ」
「え……?」
ユキが言い淀むと同時に永瀬が言ったので、ユキは驚いて永瀬の黒い瞳を見た。
「要するにカテーテルでの処置でなく手術でしっかり塞いでしまえばいいわけだが、手術することによってお父さんに大きい後遺症が残ると言われお母さんは踏み切れないでいる、と。後遺症が出来るだけ少なく済むように手術が出来る脳外の医者を探してユキに電話してきた」
すると永瀬はおかしそうに笑った。
「そういうことじゃないのか?高弥くんのときは勇ましく俺のところへ手術してくれと乗り込んできたじゃないか」
「高弥くんとは違いますよ……俺の両親がしたことで、先生にも迷惑かけちゃってるし……」
「あんなの、迷惑のうちに入らないさ」
「先生ともう親は居ないものとして生きていくって決めたし……」
うん、と永瀬はユキの頭を優しく撫でた。
「これでまた関わったら、今度こそ先生にすごく迷惑かけるかもしれないし……っ」
「それだけか?」
ユキの視線の先には優しく見守る瞳があって……
でもユキは優しい永瀬の瞳が見られなくなって、その胸に顔を伏せた。
「迷ってしまったのは、それだけじゃないんです………」
ユキの鼻の奥がツンと痛くなって我慢できなくなって涙が溢れる。どれくらいそうしていただろうか。
「お父さんが死にそうだって聞いて死なせたくないって思いました……っ……でもこわ……っ怖いんです……っ……また利用されるだけなのかもしれない……っ愛されてないと目の当たりにするのが怖いんです……」
絞り出すような声で涙でぐちゃぐちゃの顔。永瀬はそのユキの貌がとても可愛くて涙を指で拭ってやりながら、そっと口付けた。
「優しい君はここでお父さんを助けようとしなかったらきっと一生後悔する。君の心にそんな治せない瑕を残したくないんだ。だから、俺にやらせてくれ」
ちゅ、ちゅ、と優しいキスが目元に頬に唇に。
「もし例えご両親がまた君を傷つけるようなことがあったとしてもその傷はきっと治してやるから……」
君はもう一人じゃないだろう?
ユキの小さく震える腕が永瀬に回される。
「せん……せ……っ」
ユキの喉がひくひく震えて「ありがとう」と言いたいのに言葉にならなくて。それさえもわかってるというように背に回った腕がぽんぽん、と優しく背を叩く。
だから、ユキの涙は中々止まらなくて
「困ったな……」
永瀬が珍しく弱ったような声を上げる。
「なに…?」
聞き返したユキの掠れた声。
「ユキがあんまり可愛いから……」
こんなときに不謹慎だが、もう一回、イイか?
柔らかく唇を塞がれて、まだ柔らかく潤んでいる秘処にもう一度永瀬が潜り込んでくる。
そうして、もう一度抱かれて、また何もかもわからなくなってしまったあと、今度はそのままユキは永瀬の腕の中でぐっすりと眠ってしまった。
永瀬もユキの紅くなってしまった目元に唇を落とした後、ゆっくりと瞳を閉じた。
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