とろけてまざる

ゆなな

文字の大きさ
45 / 46
おまけのSS

永瀬和真の意外な一面~病院編~

しおりを挟む

 ざわり

 帝都大学付属病院の産婦人科は他の科と比べいつも賑やかではあったが、外来が終りかけ、静けさを取り戻しつつあった時間帯には相応しくないざわめきが起こった。
 その男は白衣に身を包み、コツコツと革靴を鳴らして産婦人科にやってきた。巨大な組織である帝都大学付属病院に於てさえも知らぬものは居ないほどの有名人。『神の手』とも評されるほどの腕を持つ天才外科医は、この病院の最年少の役員でもあった。彼の持つ社会的スペックについても目を瞠るものであったが、院内の看護師の間ではどちらかというと類い稀なる男の容姿が話題に登ることが多かった。
 この日もパリコレのモデルも斯くもや、と言わんばかりのすらりとした長身の体躯に羽織った白衣とシルバーフレームの眼鏡が麗しい男は、回りのざわめきをものともせずに産婦人科の中を進んで行った。
 だが、男の貌は何処か憂いを帯びていた。
 まだ僅かに残っていた診察を待つ患者の視線を完全にその身に全て集めた男は、看護師を一人捕まえると問うた。
「黒崎先生と話出来るかな?」
「は……はいっっ」
 声をかけられた看護師の声は完全に上擦っていた。
この時点で看護師一同は彼が此処にやってきた理由を察することが出来た。
 黒崎は実績と信頼が篤く、永瀬直々に指名を受け永瀬の番の担当医をしている医師だ。可愛らしい彼の番は現在絶賛妊娠中で、その身に何かあったのではと険しい永瀬の表情に、看護師達は一様に不安になる。
 看護師はいそいそと永瀬を黒崎の診察室に通す。

「ユキ先生に何かあったのかしら?」
 年齢不詳のαの女医である黒崎が悠然と診察室の椅子に腰かけていた。とても美しい女性だが正確な年齢は誰も知らない。噂によるとその見た目からは信じられないが50代らしい。
「心音ドップラーを一台買い取りたいのだが」
「は?」
 唐突に切り出した永瀬の言葉に、黒崎が美しくルージュの塗られた唇をぽかん、と開けて呟いた。
「だから、心音ドップラーを一台買い取りたい」
(やっぱり聞き間違えじゃなかった!!)
その場にいた誰もが思った。
黒崎は開けていた唇を漸く閉じ、こほんと咳ばらいすると
「健診のときにちゃんと心音の確認してますよ」
と説明した。
「それは分かっているが、今は月に一度の健診だろう?不安になったときいつでも家で確認できるようにしたいんだ」
「市販の買えば?」
 以前から永瀬と付き合いのあるらしい黒崎は、呆れて返した。
「市販のよりも医療用の方が聞きやすい。お腹の子はオメガの可能性もあるからな。オメガは体が弱い子も多いからマメに心音を確認したいんだ」
黒崎は永瀬の話を聞いて苦笑すると
「この前新型に買い換えたから旧型なら買い取らずとも貸してあげられるわ。持っていったら?」
「ありがとう、助かった」
 そう言って満面の笑みを浮かべた永瀬は今度はちらりと黒崎の診察室の奥にある大きな機械に視線を飛ばした。
「超音波診断装置はだめよ。ユキ先生は常識人だからそんなものまで持ち帰ったら叱られるわよ?」
 ユキの性格も熟知している黒崎に釘を刺されて、永瀬は超音波診断装置を持ち帰るのは諦めた。

 耳をそばだてていた看護師達は暫く開いた口が塞がらなかった。しかしそんなことはものともせず、悩みが解消され颯爽と自らの医局に戻って行く姿はとても美しかったという。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

処理中です...