ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

碧流

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シャルルの手紙

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結局シャルルは明確な結論を下さなかった。
むっつり黙り込んだまま。

そのまま解散となり、マリーの側近のマーガレット夫人がマリーに囁いた。

「王が伝令に書簡を渡すとのこと。」
 
マリーはゆっくり頷いた。
マリーに隠れて命じたのであろう。

しかしこの王宮には全て母ヨランドの影が潜んでいる。

(…無駄なのよ、シャルル…)

シャルルがマリーに何も言わず書簡を出すのは初めてだった。

…何を命じるの?シャルル


マリーは不安だった。

シャルルが身代金を払って、どこかにジャンヌを囲うのではないか…
それとも…自らが交渉に行くのでは…


妊娠初期の情緒不安も相まって、不安が風船のように膨らんでいく。

目をつぶればシャルルにまとわりつく、ダークブラウンの髪の女性が瞼に浮かぶ。
手のひらにじんわり汗をかいた。

…シャルルは渡さない…聖女であろうと、誰であろうと。

叫び出しそうになって、慌てて扇で口元を隠す。マリーはマーガレット夫人に、伝令に褒美を取らせるから、出立前に王妃の間にくるように。と、伝えた。

そして、少し離れた場所にいるシャルルを見た。

その美しい顔からは、何も伺い知ることはできなかった。


翌日…

「お呼びと伺い参りました。」
伝令はマリーの前に平伏した。

「その方大義であった故、褒美を取らそうと思ってな。出立前にすまなんだ。」

マリーが鷹揚に言うと、ますます伝令は縮こまる。

「して、その方、王から何を預かった?」

「…はっ?」
伝令はキョトンとした顔をした。
「王からは書簡を預かっております。王妃様が望むなら見せるようにと…」
とうやうやしく書簡を差し出した。

…私に見せてもよい。ということ?
シャルルは隠したわけではなかった。

マリーの胸のもやもやがすーっと晴れる。

そうよ、私はシャルルの唯一無二の妃
それは誰にも脅かされないわ…

マリーは書簡を受け取り開いた。



書簡には、たった1行、シャルルの筆跡で

「神の御心のままに」

とだけ記されていた。

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