ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

碧流

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ジャンヌの捕縛

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「ジャ…ジャンヌ・ダルク様が…敵の手に落ちましてございます!」

ボロボロになって城へきた伝令は、息も絶え絶えにそう告げた。

「…なんと…」
マリーは思わず腰を浮かした。

隣のシャルルは黙ったままだ。

「…報告を続けよ…」宰相が告げた。

「はっ…ジャンヌ様はコンピエーニュ包囲戦の援軍としてコンピエーニュへ向かわれました。

ジャンヌ様が率いる軍がマルニーに陣取っていたブルゴーニュ公国軍を攻撃しましたが、敵の数が多く…ブルゴーニュ公国軍に6,000人の援軍が到着したことから、ジャンヌ様は兵士たちにコンピエーニュ城塞近くへの撤退を命じ、自らはしんがりとなって、皆を逃がしました。

全員が城塞に逃げ込んだ瞬間、誰かが裏切り、橋を引き上げたのでございます。退路を断たれてもジャンヌ様は勇敢に戦い抜き…最後は一筋の矢を受けて馬から転がり落ち、敵の手に落ちたのでございます!…誰かが橋を…なぜ…くっ」

伝令は泣き崩れた。

しん…広間が静まり返った。

隣にいるシャルルをそっと見た。

相変わらず美しい横顔は何を思っているかわからない。

でも、マリーは一つだけ、わかっていた。
橋を上げたのが誰なのかを。

…恐らく母の命を受けたものであろう。

シャルルの正当性を高めるため。
そして、イギリスを陥れる餌にするために。

「…して、ジャンヌは?」
ヨランドが静かに尋ねた。

「こう伝わっております。『ブルゴーニュ公がイングランドに売り渡す。』と。」

「…さようか…」

ヨランドは答えた。

「王よ、どうなさる?」
ヨランドはシャルルに尋ねた。

当時は敵の手に落ちた捕虜の身内が身代金を支払って、身柄の引き渡しを要求するのが普通だった。

本来であれば、シャルルが身代金を払えば、ジャンヌは助かるはずである。

ジャンヌはオレルアンの乙女
フランスの救世主

誰もが助けると思っていた。

だが、シャルルは黙ったままである。

「…マリー」
シャルルは掠れた声でマリーを呼んだ。

「…はい。」

青い透きとおる目がマリーを見つめる

「…君はどう思う?」

「…わたくしは…」
マリーは答えに詰まった。
母ヨランドがじっと自分を見ている。

母の意図はわかっている。
敵からジャンヌは魔女の疑いをかけられおり、シャルルの王としての正当性に影をさしていた。

助ければ、シャルルは魔女に頼っている

イングランドに渡せば、フランスの救国の聖女を殺めたとして、フランスが優位に立てる。

治世者としては、もちろん後者だ。
マリーがそういえば、シャルルはそうするだろう。

…でも、シャルル、あなた自身はどうなの?

マリーはシャルルをじっと見つめた。

ジャンヌ…いやジャネットが再びシャルルの前に現れてから、閨の激しさが増した。

果てる時、焦点の定まらない目でどこか見ているのも常だ。

しかし、それ以外は、妻をこよなく愛する夫だ。

…あなたはジャネットを切れるの?

マリーは愛する夫に無言で問いかけた。





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