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終焉②
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「ちちうえ」
と言いながら駆けてきたのは、天使と見紛わんばかりの美少女だった。
年は10ばかりか。
父上に抱きついて甘えている。
父上も目尻を下げて頭を撫でていた。
少女がやっと私に気がついたのかこちらを見て
「ごきげんよう」
と微笑んだ。
あまりに美しい笑顔を見て惚けていると、ふと誰かの顔に重なった。
ああ、そうだ…胸にむしゃぶりつく父上を優しく撫で微笑んでいた…
「…アニェス…」
気づいたら声に出していた。
父上はそれを聞いて面白そうに片眉をあげた。
「そう、アニェスの娘だ。」
「…ああ、やはりそうですか…どうりで良く似て…この子は私の異母妹になる…」
そこまで言って違和感を覚え、少女をじっと見つめた。
私が黙ったのが不思議だったのか、少女はこてん。と首をかしげた。
それすらも愛らしいがそれどころではなかった。
(いや、そんな…あり得ない、でも…)
暑くもないのに、汗が額から吹き出て来る。
「ち、父上…あの…」
父上は私が話すのを手で制した。
「ほぅ、気づいたか。流石よの。
…ジャンヌ、父上はこの人と話がある。いい子だからあっちに行っておいで。マーガレット夫人がビスキュイを焼いてくれとるぞ。」
ジャンヌと呼ばれた子は嬉しそうに微笑んで、私にバイバイと手を振るとまた駆けて行った。
ジャンヌ…マーガレット夫人…
気になる単語は山ほどあるが、今はそれどころではない。
「父上、あの子は…」
あの子の髪と瞳はダークブラウンだった。
父上はプラチナブロンドに青い瞳。
アニェスは金髪に青い瞳
ブラウンはまず生まれない。
「お前が思った通り、ジャンヌはおそらく我の子ではない。」
父上はきっぱり言った。
「…おそらく?」
首をかしげた私に父上は恐るべき事実を語った。
父上曰く、ジャネット(ジャンヌ)の面影を濃く引き継いだアニェスを見るうちに、どうしてももう一度ジャンヌに会いたくなったらしい。
「で、我はあらゆる手を使って濃いブラウンの髪と瞳を持つ護衛騎士を探し出した。」
白羽の矢が立った騎士は、偶然にも、ジャンヌの家系の一族だったらしい。
そのため、彼とアニェスはどこか顔立ちが似ていた。
その護衛騎士と閨を共にして、ブラウンの髪の子を産んで欲しい。とアニェスに頼んだところ、アニェスは泣いて嫌がったそうだ。
「…当たり前でしょう。」
私は眉間を押さえながら答えた。
父上はジャンヌのこととなると、狂人になる。
でも、あの子はブラウンの髪と瞳だった…アニェスは了承したのか…?
じりっ。嫉妬に胸が焦げ付く。
「しかしな、アニェスと我は20離れている。アニェスは女盛り。閨でアニェスを満足させることが難しくなってきてな。」
そういう経緯もあり、アニェスも最後は1回だけと渋々了承したらしい。
そうしたら、泣きながら他の男に抱かれるアニェスを見て非常に興奮し、3人とも止められなくなったそうだ。
「我がアニェスを本当に愛しているのかわからんのはそこよ。」
ジャンヌが他の男に抱かれていたら、嫉妬で狂っただろうな。と父上は薄暗い笑みを見せた。
聖女ジャンヌがイングランド軍の手に落ちた時、母上の暗躍により清いままでの救出が無理だと悟り、敵に汚されるよりはと、
「神の御心のままに」と別れの言葉を送ったそうだ。
その話をする時の父上は本当に辛そうだった。
私はふと気になったことを尋ねた。
「…アニェス殿が亡くなられた時身籠られていた子は…?」
「…わからぬ…」
父上はふぅと息を吐いた。
「わからぬままアニェスが亡くなったのは幸いかもしれぬ。お前もそうだったようにアニェスは多くの男が狙っていた。我の腕の中でアニェスが亡くなったのは我にとっても幸せであった。」
それだけはマリーに感謝せねばな。と父上は涙を流した。
私は心の中で呟いた。
自分より先に亡くなったことを喜ぶのは、誰にも盗られたくなかったからでしょう。
あなたはジャンヌの形代ではなく、アニェス自身も確かに愛していますよ。
…教えてはあげませんが…
死ぬまで後悔すればよい。
私は仄暗い笑みを見せた。
と言いながら駆けてきたのは、天使と見紛わんばかりの美少女だった。
年は10ばかりか。
父上に抱きついて甘えている。
父上も目尻を下げて頭を撫でていた。
少女がやっと私に気がついたのかこちらを見て
「ごきげんよう」
と微笑んだ。
あまりに美しい笑顔を見て惚けていると、ふと誰かの顔に重なった。
ああ、そうだ…胸にむしゃぶりつく父上を優しく撫で微笑んでいた…
「…アニェス…」
気づいたら声に出していた。
父上はそれを聞いて面白そうに片眉をあげた。
「そう、アニェスの娘だ。」
「…ああ、やはりそうですか…どうりで良く似て…この子は私の異母妹になる…」
そこまで言って違和感を覚え、少女をじっと見つめた。
私が黙ったのが不思議だったのか、少女はこてん。と首をかしげた。
それすらも愛らしいがそれどころではなかった。
(いや、そんな…あり得ない、でも…)
暑くもないのに、汗が額から吹き出て来る。
「ち、父上…あの…」
父上は私が話すのを手で制した。
「ほぅ、気づいたか。流石よの。
…ジャンヌ、父上はこの人と話がある。いい子だからあっちに行っておいで。マーガレット夫人がビスキュイを焼いてくれとるぞ。」
ジャンヌと呼ばれた子は嬉しそうに微笑んで、私にバイバイと手を振るとまた駆けて行った。
ジャンヌ…マーガレット夫人…
気になる単語は山ほどあるが、今はそれどころではない。
「父上、あの子は…」
あの子の髪と瞳はダークブラウンだった。
父上はプラチナブロンドに青い瞳。
アニェスは金髪に青い瞳
ブラウンはまず生まれない。
「お前が思った通り、ジャンヌはおそらく我の子ではない。」
父上はきっぱり言った。
「…おそらく?」
首をかしげた私に父上は恐るべき事実を語った。
父上曰く、ジャネット(ジャンヌ)の面影を濃く引き継いだアニェスを見るうちに、どうしてももう一度ジャンヌに会いたくなったらしい。
「で、我はあらゆる手を使って濃いブラウンの髪と瞳を持つ護衛騎士を探し出した。」
白羽の矢が立った騎士は、偶然にも、ジャンヌの家系の一族だったらしい。
そのため、彼とアニェスはどこか顔立ちが似ていた。
その護衛騎士と閨を共にして、ブラウンの髪の子を産んで欲しい。とアニェスに頼んだところ、アニェスは泣いて嫌がったそうだ。
「…当たり前でしょう。」
私は眉間を押さえながら答えた。
父上はジャンヌのこととなると、狂人になる。
でも、あの子はブラウンの髪と瞳だった…アニェスは了承したのか…?
じりっ。嫉妬に胸が焦げ付く。
「しかしな、アニェスと我は20離れている。アニェスは女盛り。閨でアニェスを満足させることが難しくなってきてな。」
そういう経緯もあり、アニェスも最後は1回だけと渋々了承したらしい。
そうしたら、泣きながら他の男に抱かれるアニェスを見て非常に興奮し、3人とも止められなくなったそうだ。
「我がアニェスを本当に愛しているのかわからんのはそこよ。」
ジャンヌが他の男に抱かれていたら、嫉妬で狂っただろうな。と父上は薄暗い笑みを見せた。
聖女ジャンヌがイングランド軍の手に落ちた時、母上の暗躍により清いままでの救出が無理だと悟り、敵に汚されるよりはと、
「神の御心のままに」と別れの言葉を送ったそうだ。
その話をする時の父上は本当に辛そうだった。
私はふと気になったことを尋ねた。
「…アニェス殿が亡くなられた時身籠られていた子は…?」
「…わからぬ…」
父上はふぅと息を吐いた。
「わからぬままアニェスが亡くなったのは幸いかもしれぬ。お前もそうだったようにアニェスは多くの男が狙っていた。我の腕の中でアニェスが亡くなったのは我にとっても幸せであった。」
それだけはマリーに感謝せねばな。と父上は涙を流した。
私は心の中で呟いた。
自分より先に亡くなったことを喜ぶのは、誰にも盗られたくなかったからでしょう。
あなたはジャンヌの形代ではなく、アニェス自身も確かに愛していますよ。
…教えてはあげませんが…
死ぬまで後悔すればよい。
私は仄暗い笑みを見せた。
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