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第16章 -勇者 VS 魔王-
†第16章† -25話-[勇者、ハイエルフの森に入る①]
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勇者プルメリオを魔族領の野に放ってから、二ヶ月後——。
勇者一行はとある森の入り口で禍津屍の群れと激しい戦闘を繰り広げていた。
腐臭をまとい、軋む骨を鳴らしながら迫る禍津屍の群れ。数は十や二十ではない。
「≪ヘビーボディ!≫【タウンティングシャウト!】」
盾騎士マクラインの咆哮が森を震わせる。魔法で重くなった身体は地面に根を張るように動かず、次々と叩きつけられる爪牙を受け止めた。盾にぶつかるたび、鈍い衝撃が周囲の空気を震わせる。
だが、一部の禍津屍は吠え声に惑わされず、横合いから突破を試みる。
「させるかよっ!≪天狗の羽団扇!≫」
拳闘士クライヴの拳が唸り、空気を裂く衝撃波となって群れを薙ぎ払った。吹き飛ばされた屍体が木々に激突し、乾いた破砕音を撒き散らす。
さらに反対側。
「貴方たちも、ここは通行止めよっ!≪フレアマイン!≫」
魔法使いミリエステの魔法陣が地面に刻まれ、直後、轟炎が爆ぜた。熱風と共に灰の雨が降り、進軍しかけた群れを再び押し戻す。
マクラインが足止めし、クライヴとミリエステが集団をまとめたその瞬間。
彼らの後方から光の奔流が空に上がる。その発生源には聖剣エクスカリバーを高く構えた——勇者プルメリオの姿があった。
「≪エクス……っ!≫」
プルメリオの声に反応する様に、まるで垂れ流しになっていた力を一点に集中させるように。
垂れ流されていた奔流の輝きが、一気に剣先へ吸い込まれる。腕が焼けるほどの熱。
周囲に浮かぶ魔力の光が剣に吸収され聖剣の輝きがまた一段と神々しくなった。
「≪……カリバアアアアァァァァァァァァっ!≫」
咆哮と同時に、光が奔流となって放たれた。
津波のような輝きが戦場を呑み込み、味方と闇に濁った屍を丸ごと押し流す。
世界は純白に塗りつぶされ——その中で動けるのは勇者ただ一人。
視界を奪われ硬直した禍津屍に、プルメリオは駆け込む。
聖剣の軌跡が幾重にも閃き、次々と影を断ち斬っていった。
何故プルメリオが簡単に複数体の禍津屍を倒せたのかと言えば、エクスカリバーの浄化力が非常に優秀な事に起因していた。
敵の体内で活動している瘴気ウイルスは心臓を中心に、脳・筋肉・骨・血液を支配下に置いて魔族の肉体を動かしていた。
だが、エクスカリバーの浄化が魔族の身体に出来た傷から体内を駆け巡り身体を動かしていた多くの瘴気ウイルスを浄化せしめた結果、心臓核や脳以外の活動が一時的に停止した為、棒立ちする禍津屍が複数生まれたのだった。
「マクライン!」
「分かってる!」
禍津屍の身体を覆う皮膜は打撃・斬撃・魔法の威力を減退させる。
その中でも魔法は特に効果が著しくダメージに繋がらない。
足に絡めて止めれば力任せに破壊されるし、目の前に壁を作ればそのまま前進して破壊するか軽々と飛び越えるかしてしまうのだが……。
禍津屍が動きを止めたのは一時的であった。
再起動の時間を体感で理解していたプルメリオが後退しながら大声を上げ、それにマクラインが応える。
前衛陣の勇者プルメリオ・騎士マクライン・拳士クライヴの視界の端から抜けて行こうとする集団にマクラインは魔法を発動させる。
「≪畳返し!≫」
冗談の様な魔法名が大音声で戦場に響く。
元ネタは宗八の世界の技術だ。当然魔法を組み上げたのは宗八と地精ノイティミルであり、その魔法を地精霊使いのマクラインが精霊を通じて使用しているに過ぎない。
禍津屍の集団が駆け抜ける進路の先に異変が起こる。
地面に賽の目状の切れ目が瞬く間に刻まれ、集団がその真上に来た瞬間——地面が一斉にひっくり返り、集団全員の身体が宙に浮く。
「≪ブレイズレイド!≫」
その無防備になった集団に前衛陣の後方から大きな火の玉が複数射出される。
魔法使いミリエステとマクラインのコンボ技だ。狙いすました魔法で禍津屍は大爆発と共に吹き飛ばされて行く。
ダメージは期待出来なくとも時間稼ぎの支援は出来る。しかし、後回しにしているだけなので前衛陣が頑張って数を減らさないとただただ苦しくなっていく。
「なんでこんな森に押し寄せてんだよぉ!」
クライヴがついに愚痴を溢した。
「そりゃ!?ハイエルフがここに居るってことじゃないんですか!?」
「二人とも!今はそんな事よりも目の前の敵に集中しろっ!」
律義に答えるプルメリオと愚痴を溢したクライヴをマクラインが叱りつけた。
一方、主戦場から少し離れた場所。
森を迂回して押し寄せてきた奇行種の群れを、ひとつの小隊が迎え撃っていた。
褐色の肌に煌めく銀髪。特徴的な尖った耳が彼女たちをエルフだと主張する。
彼女たちは冒険者を名乗り、その側に勇者一行から離れて軽戦士のプーカが加勢している。
「ご助力、感謝します!」
弓を射続けながら、息を切らしたエルフがプーカに礼を述べる。
「いえ。むしろ……巻き込んでしまったのはこちらかもしれませんのでお気になさらず……」
「???」
プーカは知っていた。
勇者プルメリオ一行の実践経験を積ませる為。また、魔族領での箔付けの為に水無月宗八の勢力が禍津屍を一掃していない事実に。
流石に一体が村や町に入るだけで確実に壊滅させる能力を持っているので、勇者が進む方向以外の禍津屍は片っ端から蹴散らしている。
「皮膜の隙間から心臓を攻撃してください。魔法は足止めや時間稼ぎにしかなりませんので、とにかく自衛を中心に動いてください」
そう言いながら”影縫”で一瞬足を止めた個体に一瞬で接敵し、一突きで心臓核を破壊して傍を離れた。
あまり近くで戦い続けると呼気からばら撒かれる瘴気ウイルスに侵される可能性があるからだ。
エルフたちも精一杯応戦しているが、ステータス不足でじりじりと傷を負い始めていた。
結局、エルフたちが死なない内にプーカが率先して動き、敵を一体。また一体と屠り続け、ようやく最後の一体を倒した頃には満身創痍のエルフたちが地面に倒れ伏していた。
「皆さん、生きていますか?」
一応、声を掛けた。視界内でも肩や胸が上下している事から生きているだろうとわかっていても、感染していれば返事もせずに唸り声を上げるかもしれないからだ。
「だ、だいじょうぶですぅ……」
「いきてまふぅ~……」
「らいりょうぶれふぅ~……ごっほごほ!」
三人は返事を返したが残る二人は荒い呼吸をしているだけで微動だにしない。
念の為プルメリオに浄化魔法を掛けてもらった方が良いと判断したプーカは戦い終わって早々に踵を返す。
「私の仲間が近くに居ますので呼んで来ます。皆さんは一応周囲の警戒だけして休んでいてください」
「あいあ~い」
PTリーダーのエルフがひらひらと手を動かして返事をしたのを確認して、プーカはその場を離れて仲間との合流に向かった。
* * * * *
万には届かなくとも凄まじい数の群れを相手に戦っていた形跡が、森の入り口に夥しい数の死骸を並べている。
その死骸を追ってプーカが到着した時には、こちらの戦闘も佳境に入っていた。
「【聖剣突きっ!】」
「【山岳斬っ!】」
「【オリハルコンブロウッ!】」
前衛の三人がほぼ同時に目の前の敵に止めを刺し、残るは後衛のミリエステが足止めしていた数体だけだ。
「≪ほうき星≫」
何度目かの爆発が禍津屍を吹き飛ばし宙を舞う。
構えた短剣に黒い魔力が渦となって纏わり付き、プーカごとその内の一体に突喊して心臓核に刃を突き立てる。
「≪短距離転移≫≪闇蟒蛇突き≫」
心臓核が音を立てて砕けたのを確認したプーカは、そのまま姿を消し、次に姿を見せたのは宙を舞う禍津屍の着地地点だった。
再び短剣が渦巻く闇を纏う。今度は突喊ではなく純粋な突きだった。
落下して来た個体の心臓核を的確に砕いたプーカの側に、一緒に宙を舞っていた三体が着地すると同時に赤い瞳が全てプーカに向かう。
「プーカ、良いタイミングだ!」
と、同時に駆け付けたプルメリオが通り抜け際に声を掛けて来る。
後に続いてマクラインとクライヴが駆けつけ、残った三体をそれぞれが相手取り始めた。
「プーカ!あちらはどうだった!?」
敵の数が前衛陣と同じになった時点で手隙となったミリエステがプーカに駆け寄って来た。
勇者PTの戦闘が始まった段階ではプーカも一緒に戦っていたのだが、早々に奇行種の動きとエルフPTの存在を感知したプーカが単独行動でサポートしたのだった。
「あちらも戦闘は無事に終わりました。ただ、念の為浄化をお願いしたくて……」
優しく頼りにもなり姉の様に慕うミリエステにそう答えながら視線は残る三体と三人の戦闘を追っている。
≪影踏索敵≫にも敵影の反応は無い。今まさに止めを刺された三体が最後の敵だった様だ。
念の為、プルメリオと光精エクスが仲間達に浄化を施してから、プーカの案内でエルフPTとの合流を果たした。
待っている間の短い時間だったが休息できたのか、エルフたちは皆立ち上がって待っていた。
幸い感染者はいなかったのか、変異している者は見当たらない。
「あ、あの!この度はっ!」
近寄って来る一行を視認したエルフたちが慌てて駆け寄って来た。
「あ、ごめんなさい。先に光魔法を掛けさせてください。≪浄化≫」
挨拶を止めたプルメリオが念の為魔法を掛ける。
エルフたちの身体がほのかに発光し、瘴気かウイルスかはわからないがジュッと音が聞こえて微かな煙が風に舞う。
問答を言わせぬ一連の流れにエルフ達は戸惑いながらも己が身に何が良くない物が付着していたのだろうと理解した。
「重ね重ねありがとうございました。改めて、PTのリーダを務めておりますシャリーナと申します」
「テリーナと言います」
「カリーナです」
「トリファーナ……」
「エスカリーナです」
エルフの名前は里や家族のルールを前提に決められる。その為近しい名前になりがちと聞いている。
そのことを思い出しながら勇者プルメリオは、シャリーナの名だけを覚え、他の者には申し訳ないが名を呼ばぬ様に会話しようと決意したのだった。
勇者一行はとある森の入り口で禍津屍の群れと激しい戦闘を繰り広げていた。
腐臭をまとい、軋む骨を鳴らしながら迫る禍津屍の群れ。数は十や二十ではない。
「≪ヘビーボディ!≫【タウンティングシャウト!】」
盾騎士マクラインの咆哮が森を震わせる。魔法で重くなった身体は地面に根を張るように動かず、次々と叩きつけられる爪牙を受け止めた。盾にぶつかるたび、鈍い衝撃が周囲の空気を震わせる。
だが、一部の禍津屍は吠え声に惑わされず、横合いから突破を試みる。
「させるかよっ!≪天狗の羽団扇!≫」
拳闘士クライヴの拳が唸り、空気を裂く衝撃波となって群れを薙ぎ払った。吹き飛ばされた屍体が木々に激突し、乾いた破砕音を撒き散らす。
さらに反対側。
「貴方たちも、ここは通行止めよっ!≪フレアマイン!≫」
魔法使いミリエステの魔法陣が地面に刻まれ、直後、轟炎が爆ぜた。熱風と共に灰の雨が降り、進軍しかけた群れを再び押し戻す。
マクラインが足止めし、クライヴとミリエステが集団をまとめたその瞬間。
彼らの後方から光の奔流が空に上がる。その発生源には聖剣エクスカリバーを高く構えた——勇者プルメリオの姿があった。
「≪エクス……っ!≫」
プルメリオの声に反応する様に、まるで垂れ流しになっていた力を一点に集中させるように。
垂れ流されていた奔流の輝きが、一気に剣先へ吸い込まれる。腕が焼けるほどの熱。
周囲に浮かぶ魔力の光が剣に吸収され聖剣の輝きがまた一段と神々しくなった。
「≪……カリバアアアアァァァァァァァァっ!≫」
咆哮と同時に、光が奔流となって放たれた。
津波のような輝きが戦場を呑み込み、味方と闇に濁った屍を丸ごと押し流す。
世界は純白に塗りつぶされ——その中で動けるのは勇者ただ一人。
視界を奪われ硬直した禍津屍に、プルメリオは駆け込む。
聖剣の軌跡が幾重にも閃き、次々と影を断ち斬っていった。
何故プルメリオが簡単に複数体の禍津屍を倒せたのかと言えば、エクスカリバーの浄化力が非常に優秀な事に起因していた。
敵の体内で活動している瘴気ウイルスは心臓を中心に、脳・筋肉・骨・血液を支配下に置いて魔族の肉体を動かしていた。
だが、エクスカリバーの浄化が魔族の身体に出来た傷から体内を駆け巡り身体を動かしていた多くの瘴気ウイルスを浄化せしめた結果、心臓核や脳以外の活動が一時的に停止した為、棒立ちする禍津屍が複数生まれたのだった。
「マクライン!」
「分かってる!」
禍津屍の身体を覆う皮膜は打撃・斬撃・魔法の威力を減退させる。
その中でも魔法は特に効果が著しくダメージに繋がらない。
足に絡めて止めれば力任せに破壊されるし、目の前に壁を作ればそのまま前進して破壊するか軽々と飛び越えるかしてしまうのだが……。
禍津屍が動きを止めたのは一時的であった。
再起動の時間を体感で理解していたプルメリオが後退しながら大声を上げ、それにマクラインが応える。
前衛陣の勇者プルメリオ・騎士マクライン・拳士クライヴの視界の端から抜けて行こうとする集団にマクラインは魔法を発動させる。
「≪畳返し!≫」
冗談の様な魔法名が大音声で戦場に響く。
元ネタは宗八の世界の技術だ。当然魔法を組み上げたのは宗八と地精ノイティミルであり、その魔法を地精霊使いのマクラインが精霊を通じて使用しているに過ぎない。
禍津屍の集団が駆け抜ける進路の先に異変が起こる。
地面に賽の目状の切れ目が瞬く間に刻まれ、集団がその真上に来た瞬間——地面が一斉にひっくり返り、集団全員の身体が宙に浮く。
「≪ブレイズレイド!≫」
その無防備になった集団に前衛陣の後方から大きな火の玉が複数射出される。
魔法使いミリエステとマクラインのコンボ技だ。狙いすました魔法で禍津屍は大爆発と共に吹き飛ばされて行く。
ダメージは期待出来なくとも時間稼ぎの支援は出来る。しかし、後回しにしているだけなので前衛陣が頑張って数を減らさないとただただ苦しくなっていく。
「なんでこんな森に押し寄せてんだよぉ!」
クライヴがついに愚痴を溢した。
「そりゃ!?ハイエルフがここに居るってことじゃないんですか!?」
「二人とも!今はそんな事よりも目の前の敵に集中しろっ!」
律義に答えるプルメリオと愚痴を溢したクライヴをマクラインが叱りつけた。
一方、主戦場から少し離れた場所。
森を迂回して押し寄せてきた奇行種の群れを、ひとつの小隊が迎え撃っていた。
褐色の肌に煌めく銀髪。特徴的な尖った耳が彼女たちをエルフだと主張する。
彼女たちは冒険者を名乗り、その側に勇者一行から離れて軽戦士のプーカが加勢している。
「ご助力、感謝します!」
弓を射続けながら、息を切らしたエルフがプーカに礼を述べる。
「いえ。むしろ……巻き込んでしまったのはこちらかもしれませんのでお気になさらず……」
「???」
プーカは知っていた。
勇者プルメリオ一行の実践経験を積ませる為。また、魔族領での箔付けの為に水無月宗八の勢力が禍津屍を一掃していない事実に。
流石に一体が村や町に入るだけで確実に壊滅させる能力を持っているので、勇者が進む方向以外の禍津屍は片っ端から蹴散らしている。
「皮膜の隙間から心臓を攻撃してください。魔法は足止めや時間稼ぎにしかなりませんので、とにかく自衛を中心に動いてください」
そう言いながら”影縫”で一瞬足を止めた個体に一瞬で接敵し、一突きで心臓核を破壊して傍を離れた。
あまり近くで戦い続けると呼気からばら撒かれる瘴気ウイルスに侵される可能性があるからだ。
エルフたちも精一杯応戦しているが、ステータス不足でじりじりと傷を負い始めていた。
結局、エルフたちが死なない内にプーカが率先して動き、敵を一体。また一体と屠り続け、ようやく最後の一体を倒した頃には満身創痍のエルフたちが地面に倒れ伏していた。
「皆さん、生きていますか?」
一応、声を掛けた。視界内でも肩や胸が上下している事から生きているだろうとわかっていても、感染していれば返事もせずに唸り声を上げるかもしれないからだ。
「だ、だいじょうぶですぅ……」
「いきてまふぅ~……」
「らいりょうぶれふぅ~……ごっほごほ!」
三人は返事を返したが残る二人は荒い呼吸をしているだけで微動だにしない。
念の為プルメリオに浄化魔法を掛けてもらった方が良いと判断したプーカは戦い終わって早々に踵を返す。
「私の仲間が近くに居ますので呼んで来ます。皆さんは一応周囲の警戒だけして休んでいてください」
「あいあ~い」
PTリーダーのエルフがひらひらと手を動かして返事をしたのを確認して、プーカはその場を離れて仲間との合流に向かった。
* * * * *
万には届かなくとも凄まじい数の群れを相手に戦っていた形跡が、森の入り口に夥しい数の死骸を並べている。
その死骸を追ってプーカが到着した時には、こちらの戦闘も佳境に入っていた。
「【聖剣突きっ!】」
「【山岳斬っ!】」
「【オリハルコンブロウッ!】」
前衛の三人がほぼ同時に目の前の敵に止めを刺し、残るは後衛のミリエステが足止めしていた数体だけだ。
「≪ほうき星≫」
何度目かの爆発が禍津屍を吹き飛ばし宙を舞う。
構えた短剣に黒い魔力が渦となって纏わり付き、プーカごとその内の一体に突喊して心臓核に刃を突き立てる。
「≪短距離転移≫≪闇蟒蛇突き≫」
心臓核が音を立てて砕けたのを確認したプーカは、そのまま姿を消し、次に姿を見せたのは宙を舞う禍津屍の着地地点だった。
再び短剣が渦巻く闇を纏う。今度は突喊ではなく純粋な突きだった。
落下して来た個体の心臓核を的確に砕いたプーカの側に、一緒に宙を舞っていた三体が着地すると同時に赤い瞳が全てプーカに向かう。
「プーカ、良いタイミングだ!」
と、同時に駆け付けたプルメリオが通り抜け際に声を掛けて来る。
後に続いてマクラインとクライヴが駆けつけ、残った三体をそれぞれが相手取り始めた。
「プーカ!あちらはどうだった!?」
敵の数が前衛陣と同じになった時点で手隙となったミリエステがプーカに駆け寄って来た。
勇者PTの戦闘が始まった段階ではプーカも一緒に戦っていたのだが、早々に奇行種の動きとエルフPTの存在を感知したプーカが単独行動でサポートしたのだった。
「あちらも戦闘は無事に終わりました。ただ、念の為浄化をお願いしたくて……」
優しく頼りにもなり姉の様に慕うミリエステにそう答えながら視線は残る三体と三人の戦闘を追っている。
≪影踏索敵≫にも敵影の反応は無い。今まさに止めを刺された三体が最後の敵だった様だ。
念の為、プルメリオと光精エクスが仲間達に浄化を施してから、プーカの案内でエルフPTとの合流を果たした。
待っている間の短い時間だったが休息できたのか、エルフたちは皆立ち上がって待っていた。
幸い感染者はいなかったのか、変異している者は見当たらない。
「あ、あの!この度はっ!」
近寄って来る一行を視認したエルフたちが慌てて駆け寄って来た。
「あ、ごめんなさい。先に光魔法を掛けさせてください。≪浄化≫」
挨拶を止めたプルメリオが念の為魔法を掛ける。
エルフたちの身体がほのかに発光し、瘴気かウイルスかはわからないがジュッと音が聞こえて微かな煙が風に舞う。
問答を言わせぬ一連の流れにエルフ達は戸惑いながらも己が身に何が良くない物が付着していたのだろうと理解した。
「重ね重ねありがとうございました。改めて、PTのリーダを務めておりますシャリーナと申します」
「テリーナと言います」
「カリーナです」
「トリファーナ……」
「エスカリーナです」
エルフの名前は里や家族のルールを前提に決められる。その為近しい名前になりがちと聞いている。
そのことを思い出しながら勇者プルメリオは、シャリーナの名だけを覚え、他の者には申し訳ないが名を呼ばぬ様に会話しようと決意したのだった。
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