特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -26話-[勇者、ハイエルフの森に入る②]

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 プルメリオは人族領でエルフを見たことがある。森エルフと呼ばれるテレリ族だ。
 テレリ族の肌は白く、白金の頭髪は陽光を反射させていたのに対し、目の前にいる彼女たちは同じエルフでも褐色で、銀髪という容姿に違いがあった。

「それは”人魔大戦じんまたいせん”の末に行き来が出来なくなったことで、魔族領側に取り残されたエルフが空気中の濃度の高い魔素に耐性を付ける為、姿が変わったそうです。それ以外に違いはありません。いずれ人族領に居る同族と合流する事が我らの悲願でもあります」
 豊満な胸に手を当て語るシャリーナの姿からプルメリオは目を背け、宗八そうはちとの会話を思い出す。

 * * * * *
 勇者を旅に送り出したと言っても、情報共有の為に宗八そうはちはプルメリオに適度に連絡をするよう伝えていた。
 もちろん、諜報侍女隊が後方から彼らを追っており、情報収集は当然行っているのでプルメリオからの報告はWチェックの意味合いが強い。また、任せっきりにしていないと示す為の連絡でもあった。
〔そういえばパメラに聞いたんだけどな、ハイエルフは俺達が知るエルフらしい生活をしているらしいぞ〕
「———何ですって?」
 揺蕩う唄ウィルフラタを通じて会話する中で宗八そうはちから伝えられた情報にプルメリオは反応を見せる。
 宗八そうはちもプルメリオも元の世界のイメージをエルフに持っていた。
 森の奥で自然と共に暮らし、木の実を食べて生活している。そう幻想していた……。
 現実は異なり、エルフ曰く「あははは!木の実だけなんて栄養が足りるわけ無いじゃないですか。肉もしっかり狩猟して食べてますよぉ!町で買った魔道具も調味料も使いますし。」とのことだった。

「つまり……っ!木の実だけで生活しているって事ですか?」
 真剣な声音のプルメリオも宗八そうはちも真剣に向き合い返答する。
〔あぁ。だから栄養失調気味で発育が悪くて、身体も胸も……ゴホンゴホン〕
 人の身体的特徴を口にする非道を辛うじて回避した宗八そうはちだったが、八割言ってしまっていた。
 ともかく、ハイエルフは歳の割に小柄な体躯をしているという情報はプリメリオのエルフ像を再燃させるには十分な希望だった。

〔あっち着いたら連絡しろよ? 俺も合流して本物見てみたいし。絶対だぞ?〕
「浮気になるんじゃないですか? アルカンシェ様と正式に婚約したって聞きましたけど……」
 はぁ……と溜息に続いた宗八そうはちの言い訳はこうだった。

〔それはそれ、これはこれ——。アルシェもサーニャももちろん愛してるけど、ハイエルフは俺達にとっての”偶像アイドル”なんだからさ……わかるだろ?〕
 この理屈……分かるっ!
 好きな人とゲームの推しが違う様に、自分達にとってはハイエルフは希望なのだ!
「わかりました。出会えたらちゃんと連絡しますよ」
 互いは遥か遠くにいるはずなのに二人は心の中で固く、そして熱く握手を交わしたのだった。

 * * * * *
 黒エルフのシャリーナ達はハイエルフと交流があるらしく、自分達の目的もハイエルフであると伝えた。
「申し訳ありませんが、エルフ以外がこの森へ立ち入ると撃退されてしまいますよ?」
「親族からの手紙があってもか?」
 占い師をしているハイエルフの血を継ぐ者たちの手紙を見せてみる。
 第一目的は当然、この手紙をハイエルフに届ける事。第二にハイエルフに避難を呼びかける事。
 そして第三に———自分と水無月みなづきさんの夢の為に!
「それは……残念ながら私達では判断出来ませんね……。その手紙が本物なのかも含めてハイエルフ様に判断いただくしかないでしょう」
 結局のところ、黒エルフ達に案内される形で森を進むしかない様だ。
 黒エルフからすればハイエルフは上位存在であり、血が薄まったとしてもその血族は上位存在として扱われるらしい。

 この森に何か秘密があるのだろうか。
 奥に行くほどに空気中に含まれる魔力濃度が高まっていくのを感じる。
「最近はあれほど高かった魔族領の魔素濃度も何故か低くなっていまして、体調不良を訴える者が後を絶ちません。私達魔族は高い濃度に適用してきたというのにどうしたものかと、各地の魔王は頭を抱えている事でしょうね。私達エルフはこの地に足を踏み入れる事を許されているので、時折一時的に休ませていただいているのです」
 宗八そうはちからの報告で魔族領にもオベリスクが確認されている事を知っているプルメリオには原因が分かっていた。
 しかし、それを設置した敵の説明も難しいしオベリスクの実物が近くに無い以上、魔素濃度の低下について言及する事を意図的に避けざるを得なかった。
「メリオ、魔物がいる」
 プーカの言葉で全員が足を止める。
 視線の先を追っていけば確かにこちらに殺気を向ける大蛇が大樹の上に佇んでいた。

「手を出さないでくださいっ。ハイエルフが使役する大蛇ですので……」
 シャリーナの声掛けがなければ一戦交えていた所だった。
 通常あそこまで巨大な敵に対しては恐怖が上回り逃げ出す者が多い中で、共に行動をしている勇者PTは大蛇程度では恐怖しない程に心身ともに鍛えられている。身構えただけで声掛けが間に合った為、ひとまず戦闘態勢は解いたものの視線は交わったまま互いに微動だにしない。

「シャリーナ。この度は面白い者共を連れておるな」
 不思議と森に広がる声が聞こえた。
 索敵に優れているプーカだけはその存在に気付いていたようだが、プルメリオも含めて全員がその存在に気が付いておらず、声に反応してようやく大樹の根元に少女が居る事に意識が向いた。
「———ご無沙汰しております、パスカル様」
 名を呼ばれたシャリーナがひざまづき挨拶すると、仲間の黒エルフたちも合わせて跪いて頭を垂れる。
 その行動に満足したのか、パスカルと呼ばれた少女の視線がプルメリオ達に向かう。初手の行動を見ているのだろう。
『(膝をつく必要はありません。人として最上位の礼をすれば大丈夫です)』
 迷うプルメリオに念話で光精エクスがアドバイスを送る。
 その言葉に従い、腰を折った深いお辞儀をする。こちらも仲間達がそれに合わせて同様のお辞儀をした様子を見届けたパスカルが再び口を開いた。
「良い、頭を上げよ。その方らはその武力を持って攻めて来たのか?」
 パスカルの視線はそのままプルメリオに向いた鋭くなった。

「いえ、この森へは手紙を届けに参りました。ハイエルフの里へ攻めに来たわけではありません」
 プルメリオの回答を受けたパスカルが順々に勇者PTの顔を眺めていく。
 回答に逡巡しているのかゆっくりと眺め終わり際にやっと反応が発せられる。
「良いだろう。精霊にも好かれていると見える。お前は念の為ここで見張りを続けておくれ」
 精霊は姿を見せていないはずだが、ハイエルフだからなのか精霊の存在を認識しているようだった。
 後半の言葉は大樹に巻き付く大蛇へ向けたものだ。大蛇も理解を示す為か口を大きく開いてゆっくり閉じる。
「里へ案内あないしよう、付いて参れ」
 蛇の反応に満足したパスカルがプルメリオ達に声を掛けると踵を返し森の奥へと戻っていく。
 ここでようやく黒エルフ達が立ち上がったので、再び団体でパスカルの後を追って森深くへと足を進めた。

「シャリーナ。パスカル様は……ハイエルフなのか?」
 こそっと耳に寄せて質問した。
「そうですよ。先ほどの大蛇の他にも大型の魔物を使役しているので、森に住む魔物を間引く役割を担っている方です」
「へぇ~」
 冒険者の中にも魔物と行動を共にする者は居る。
 しかし、それは漏れなく小動物程度の人懐っこい魔物だけだ。戦闘に参加させれば真っ先に捕食されてしまう弱い魔物が自衛と食事の為に人に懐くだけで”使役”とまではいかない。なので、冒険者で魔物使いという職業は存在しないのだ。
 そんな常識に慣れていたプルメリオが驚くのだ。仲間の面々もその話を聞いて思わず背後を振り返って先の大蛇の姿を思い出す。
「あれってこっち…じゃないわね。人族領じゃ見ないけどAランクの威圧があったわよね」
「だな。本来はあそこまでの種じゃないだろうに、長く生きた個体の強さを感じた。まぁ……」
「今の俺達なら相手じゃない……ですね」
 ミリエステの言葉をクライヴが引き継ぎ、言いよどんだ言葉の続きをマクラインが声に出した。
 確かに少し前であれば、あの大蛇に冷や汗を掻いていたかもしれない。
 以前のステータスの数倍となった今となっては、片手間に倒せてしまうだろう。宗八そうはちが提言した「この世界の脅威に対しては過剰な強さ」の言葉が全員の胸に思い出され、結果的に自分達の強さに対する気を引き締める事となった。

 やがて、パスカルの案内に付いていった一同の前に現れたのは……。
「うわぁ……」
 鬱蒼と茂る森を歩けた先で開けた場所に辿り着いた。
 陽光が木々の隙間から零れ落ち、ひと際目を引く神秘的な大樹に降り注いでいる。
「あの樹が気になるか? あれは精霊樹という、精霊が住む大樹なのじゃ」
 パスカルが大樹の前でドヤ顔を決めながら振り返った。
 なんでも、ハイエルフが住処とする森の奥には必ず精霊樹が存在するらしい。
 占い師一同が示した三点の地点には精霊樹がそれぞれ存在している事が後々パスカルの言で判明している。

 精霊樹の周りを見渡せば木に飲み込まれた家々が目に入る。
 あれがハイエルフの家なのだろうか……。
「そういえば、外に出たハイエルフの子孫から手紙を預かっています。パスカルさんに任せて良いですか?」
「子孫? あー……誰の子達だろ。ひとまず、爺共に見せてくるから私が預かろう」
 見た目が中学生程度の女の子が尊厳ある言葉を使うのはなかなか慣れない。
 プルメリオの前に戻って来たパスカルに手紙を全て託すと、それを持って精霊樹に飲まれたひと際大きな建物へと持って行ってしまった。
 取り残された勇者PTは人口の少ないハイエルフ達から視線の集中砲火を受けて身の置き場に困ってしまい、唯一関わりのある黒エルフのシャリーナPTの下へ自然と身を寄せるのであった。
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