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第16章 -勇者 VS 魔王-
†第16章† -24話-[羊獣人の家族③]
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通常、孤児を引き取る人々は馬車でこの牧場に訪れる。
手続きを済ませたら、その日のうちに孤児を連れて牧場を離れるのが習わしだそうだ。
そんな養親たちとは異なり、宗八達の事情としては急いで引き取る必要は無かった。すぐに引き取るのであればアスペラルダ城で半年以上は生活する必要が出るうえ、親となる宗八やアルカンシェですら毎日一緒に行動する事は現状難しい。
なので、今引き取ったとしてもギュンター王やナデージュ妃が孫を可愛がり、淑女教育を受ける日々に寂しさを与えてしまうのではないか……、というのが宗八の懸念であった。
「一緒が良い!そうしたら何か月も会えないってことは無いんだよね?」
バタバタ準備をさせる寂しい目にあわせるくらいなら、屋敷が完成するのまでの間はこのまま共同牧場で過ごさせた方がちゃんとした別れをする事も出来るし心安らかに待てると思ったのだが……。メイフェルは宗八の親心など関係ないとばかりに宗八のチェックアウトと共にアスペラルダへ行く事を希望した。
「さっきも説明したけど、急がなくても屋敷が完成すればちゃんと迎えに来るぞ。いまアスペラルダに行ってもほとんどの時間は勉強だったりの時間になっちゃうし……」
「それでもいい。一緒が良い!」
可愛らしい事を言ってくれる。めっちゃ抱きしめてあげた。
とりあえずメイフェルの希望通りに連れ帰るとして、しばらくは今の生活に近い生活を送らせてあげたいのでクシャトラさんに時間割を書きだしてもらった。
「やっぱり、メイフェルの眼に狂いはありませんでしたね。孤児の都合なんて普通は考慮しませんから」
出会った時からの事を思い出しクシャトラは笑いながら時間割を手渡してくれた。
表には、勉強・仕事・自由時間と大まかに分けられた予定が書かれている。勉強はともかく、仕事や自由時間は同年代の子もおらず、どう過ごさせるべきかが悩みどころだ。
「ところで公爵家のお仕事って何をするんですか?」
「いまのところ確定は教導部隊を率いて兵士達を導く事。つまり——最強であれば良いってお仕事」
簡単そうに言う宗八を前に、エンハネとクシャトラは引き攣った表情を浮かべた。
時折、出張販売で護衛を頼む冒険者たちの事を思い出せば、そんな言葉を吐く人種を見たことが無い。強くなりたいという希望は冒険者共通の願いだろう。それを自身が最強を前提とした言葉を殊更簡単に口にした宗八がわからないだけだ。
宗八にとっては当然の事実。死線を潜り抜け、磨き上げてきた戦闘技術とステータスは兵士とは比べ物にならず、脅威と呼べるのは破滅《ヴィネア》関連の存在くらいだ。
だが、危機に晒される機会の少ない一般人である二人から見れば、その物言いは——あまりにも規格外すぎて、理解の範疇を超えていた。
「と、とりあえず、メイフェル次第ではありますが手伝える様に鍛えてあげればいいのではないでしょうか」
なるほど。視線を向ければ胸元に収まるメイフェルから同意を伝える頷きを得た。
「じゃあ……仕事の時間は地力を鍛えるか……。自由時間は自室で過ごしてもいいし、図書室で知識を得てもいい。メイフェル自身が恥ずかしくないよう、色々と整えていこう」
アスペラルダは優しい国だ。
貴族のパーティで失敗しても、咎められることはまずない。八歳であれば本来すでに淑女教育を受けている年頃だが、今回ばかりは事情も事情。周囲も理解を示してくれるだろう。
こうして、メイフェルの今後についての情報交換と話し合いは、ひとまずのまとまりを見せた。
宗八は深く息をつき、心を切り替える。ここからは別件だ。
「アルシェ姉様のところに行ってくるね」
元気よく言い残し、メイフェルは扉を開けて出ていく。その小さな背中が廊下の向こうに消えるまで、三人は無言で見送った。
そして宗八は、再び口を開いた。
* * * * *
「現在の俺達の活動をどの程度把握していますか?」
宗八の真剣な様子にエンハネとクシャトラも表情を改める。
「……関所に行った際にギルドで発行された新聞や情報屋がまとめた記事を見る機会があります」
「載っている名前はアルカンシェ様だけで水無月さんの名前は見たことがありませんが……。皆さんを知っている私達からすればなんとなくは察しています」
宗八がアルカンシェの影で何かをしている。ここまでは理解している様だ。
流石に破滅については知る人ぞ知る情報なので、何を相手にしているのかまでは掴んでいないらしい。
「詳細な時期はわかりませんが、おそらく数年以内に世界的な危険が発生します。その時、俺達はその対処で手が離せなくなりますので皆さんには避難を早急に避難してもらう必要があります」
クシャトラがすぐに問い返す。
「ここからだとマリーブパリアですか?」
確かに直近の町となればマリーブパリアが真っ先に候補に上がるだろう。しかし——。
「……いや」
宗八は首を振った。
「鍛えた兵士も冒険者も、すべての町を護れるほどの数はいない。包囲される可能性を考えれば、フォレストトーレで守りを期待できるのは二ヶ所だけだ」
そして、避難先をはっきりと告げる。
「現在の王都ハルカナムか、巨大牧場街テラフォーム。ここで働く皆さんの適性を考えれば……テラフォーム一択でしょう」
テラフォームはフォレストトーレ国が今最も力を入れている都市だ。すでに形を成しつつあり、それでもなお成長を続けている。
そして、その始まりは——宗八の何気ない一言からだった。彼は立ち上げ当初から、この町の急成長を陰で支えてきたのだ。
「ハルカナムは国王のラフィート陛下が居られるから当然、兵士も多く配されている。冒険者も多いから戦力はフォレストトーレで一番です。次にテラフォームは、俺が鍛えた冒険者クラン【狂狼の猛り】が滞在してるらしいから安全性が高いし、フォレストトーレの食糧事情を大きく支える為の一大事業だから兵士も多く配置されている」
あいつらは火の国ヴリドエンデ出身だったはずだが、何故風の国に滞在しているのだろう?と、宗八は一瞬気になったがすぐに頭の中から追い出した。
宗八の指摘を受けて、なるほど……と二人は頷く。
「避難先については納得です。しかし……片道だけでもかなり時間がかかります。それに孤児たち全員となれば馬車が足りません。水無月さんの支援なしでは、即応の避難は難しいでしょう」
ここまで二人は宗八が口にした『世界的な危機』について言及をしていない。
今までの付き合いと知り得た情報から「水無月さんが言うなら何かあるのだろう」と信頼を寄せてくれている証左だった。
「そこは——帰還魔法《エクソダス》で対応しようと思います」
エクソダスは、使用者を中心とした小範囲の仲間を登録済みの帰還塔へ一斉転送し、その場にワームホールを残す魔法だ。
帰還塔はギルドが管理しており、本来はダンジョンからの帰還用だが、遠征先からの帰還など用途は幅広い。今回の避難にも十分使えるはずだ。
「この宿泊の間に、皆さんの空き時間でゲートを開きます。あちらのギルドで帰還塔に登録しておけば、いざという時すぐ避難できます」
「……フォレストトーレ旧王都のような事になるのですか?」
巨大牧場街テラフォームへ行くには、旧王都の横を通らねばならない。その惨状を思い出したのだろう、二人は顔色を悪くしていた。
「いや……」
宗八は否定で一度話を切った。
その瞬間、二人の顔に薄い安堵の色が差す。——そのわずかな隙作ったのは宗八のミスだった。
建物は瓦礫と化し、地面は穴だらけ、王城は傾き原型を留めない。あれほどの惨状にはならない——そう錯覚させた直後、宗八は言葉を続ける。
「……どちらかと言えば、大陸全土で魔物群暴走《スタンピード》が起きる、という方が近いかな?」
続いた言葉が、まるで理解不能な冗談であればどれほど良かったか……。
しかし魔物群暴走の恐ろしさを知るこの世界の住人なら、大陸全土でそれが起こればどんな悲劇に見舞われるかなど、容易に——いや、あまりにもリアルに想像できてしまう。
先ほどまで笑みを浮かべていた二人の顔は、落差と共に絶望色へと変わり、やがて頭を垂れ、両手で覆った。
「そんなの……どこに居ても同じでは無いですか……」
残念ながら宗八にそんなつもりは無かったが、話の持って生き方が絶妙に悪かった。
それに抗う為に兵士や冒険者を鍛えたので、宗八が神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇を倒すまで時間を稼げれば何とかなる計算なのだが……。
「えっと……、守る場所を絞れば戦力を集中できますから、そこまで絶望する必要はないですよ? ヴリドエンデに冒険者が集められた話とか聞いてません? アレ、俺が主催したんですよ。凄いでしょ?」
二人はその噂を確かに耳にしていた。
ただし、鍛錬ダンジョンや集結の理由は伏せられ、各国をまたぐ一大事業の準備が進んでいる——そんな曖昧な話しか流れていなかった。
ちなみに、ここまで打ち解けた共同牧場の従業員たちだが、宿泊中——宗八やアルカンシェがどこまで戦えるのか《・》については、一切共有されていなかった。
宗八の話は、その強さを前提としたものだったが、エンハネやクシャトラの耳には、あくまで「アルカンシェと婚約して公爵になった、普通の青年」の言葉として届いていた。
冒険者や要人を集めた話も、参加は信じていたが——宗八が主催者だったとは夢にも思っていなかった。
そんな認識のまま話が進み、やがてアルカンシェも呼び寄せられる。
そして最終的に——皆の前で、宗八とアルカンシェが魔法禁止の模擬戦を行った。
開始の合図と同時に、空気が裂ける。踏み込み一つで砂煙が巻き上がり、打ち合う衝撃が地面を波打たせた。
わずか数合。剣を止めた瞬間、観衆は言葉を失い、互いの息遣いだけが静まり返った場を支配した。
ようやくその瞬間、共同牧場の面々は二人の“本当の強さ”を理解した。
その上で、事態が動いた時には宗八の指示に従うことを、誰も異を唱えずに承諾したのだった——。
手続きを済ませたら、その日のうちに孤児を連れて牧場を離れるのが習わしだそうだ。
そんな養親たちとは異なり、宗八達の事情としては急いで引き取る必要は無かった。すぐに引き取るのであればアスペラルダ城で半年以上は生活する必要が出るうえ、親となる宗八やアルカンシェですら毎日一緒に行動する事は現状難しい。
なので、今引き取ったとしてもギュンター王やナデージュ妃が孫を可愛がり、淑女教育を受ける日々に寂しさを与えてしまうのではないか……、というのが宗八の懸念であった。
「一緒が良い!そうしたら何か月も会えないってことは無いんだよね?」
バタバタ準備をさせる寂しい目にあわせるくらいなら、屋敷が完成するのまでの間はこのまま共同牧場で過ごさせた方がちゃんとした別れをする事も出来るし心安らかに待てると思ったのだが……。メイフェルは宗八の親心など関係ないとばかりに宗八のチェックアウトと共にアスペラルダへ行く事を希望した。
「さっきも説明したけど、急がなくても屋敷が完成すればちゃんと迎えに来るぞ。いまアスペラルダに行ってもほとんどの時間は勉強だったりの時間になっちゃうし……」
「それでもいい。一緒が良い!」
可愛らしい事を言ってくれる。めっちゃ抱きしめてあげた。
とりあえずメイフェルの希望通りに連れ帰るとして、しばらくは今の生活に近い生活を送らせてあげたいのでクシャトラさんに時間割を書きだしてもらった。
「やっぱり、メイフェルの眼に狂いはありませんでしたね。孤児の都合なんて普通は考慮しませんから」
出会った時からの事を思い出しクシャトラは笑いながら時間割を手渡してくれた。
表には、勉強・仕事・自由時間と大まかに分けられた予定が書かれている。勉強はともかく、仕事や自由時間は同年代の子もおらず、どう過ごさせるべきかが悩みどころだ。
「ところで公爵家のお仕事って何をするんですか?」
「いまのところ確定は教導部隊を率いて兵士達を導く事。つまり——最強であれば良いってお仕事」
簡単そうに言う宗八を前に、エンハネとクシャトラは引き攣った表情を浮かべた。
時折、出張販売で護衛を頼む冒険者たちの事を思い出せば、そんな言葉を吐く人種を見たことが無い。強くなりたいという希望は冒険者共通の願いだろう。それを自身が最強を前提とした言葉を殊更簡単に口にした宗八がわからないだけだ。
宗八にとっては当然の事実。死線を潜り抜け、磨き上げてきた戦闘技術とステータスは兵士とは比べ物にならず、脅威と呼べるのは破滅《ヴィネア》関連の存在くらいだ。
だが、危機に晒される機会の少ない一般人である二人から見れば、その物言いは——あまりにも規格外すぎて、理解の範疇を超えていた。
「と、とりあえず、メイフェル次第ではありますが手伝える様に鍛えてあげればいいのではないでしょうか」
なるほど。視線を向ければ胸元に収まるメイフェルから同意を伝える頷きを得た。
「じゃあ……仕事の時間は地力を鍛えるか……。自由時間は自室で過ごしてもいいし、図書室で知識を得てもいい。メイフェル自身が恥ずかしくないよう、色々と整えていこう」
アスペラルダは優しい国だ。
貴族のパーティで失敗しても、咎められることはまずない。八歳であれば本来すでに淑女教育を受けている年頃だが、今回ばかりは事情も事情。周囲も理解を示してくれるだろう。
こうして、メイフェルの今後についての情報交換と話し合いは、ひとまずのまとまりを見せた。
宗八は深く息をつき、心を切り替える。ここからは別件だ。
「アルシェ姉様のところに行ってくるね」
元気よく言い残し、メイフェルは扉を開けて出ていく。その小さな背中が廊下の向こうに消えるまで、三人は無言で見送った。
そして宗八は、再び口を開いた。
* * * * *
「現在の俺達の活動をどの程度把握していますか?」
宗八の真剣な様子にエンハネとクシャトラも表情を改める。
「……関所に行った際にギルドで発行された新聞や情報屋がまとめた記事を見る機会があります」
「載っている名前はアルカンシェ様だけで水無月さんの名前は見たことがありませんが……。皆さんを知っている私達からすればなんとなくは察しています」
宗八がアルカンシェの影で何かをしている。ここまでは理解している様だ。
流石に破滅については知る人ぞ知る情報なので、何を相手にしているのかまでは掴んでいないらしい。
「詳細な時期はわかりませんが、おそらく数年以内に世界的な危険が発生します。その時、俺達はその対処で手が離せなくなりますので皆さんには避難を早急に避難してもらう必要があります」
クシャトラがすぐに問い返す。
「ここからだとマリーブパリアですか?」
確かに直近の町となればマリーブパリアが真っ先に候補に上がるだろう。しかし——。
「……いや」
宗八は首を振った。
「鍛えた兵士も冒険者も、すべての町を護れるほどの数はいない。包囲される可能性を考えれば、フォレストトーレで守りを期待できるのは二ヶ所だけだ」
そして、避難先をはっきりと告げる。
「現在の王都ハルカナムか、巨大牧場街テラフォーム。ここで働く皆さんの適性を考えれば……テラフォーム一択でしょう」
テラフォームはフォレストトーレ国が今最も力を入れている都市だ。すでに形を成しつつあり、それでもなお成長を続けている。
そして、その始まりは——宗八の何気ない一言からだった。彼は立ち上げ当初から、この町の急成長を陰で支えてきたのだ。
「ハルカナムは国王のラフィート陛下が居られるから当然、兵士も多く配されている。冒険者も多いから戦力はフォレストトーレで一番です。次にテラフォームは、俺が鍛えた冒険者クラン【狂狼の猛り】が滞在してるらしいから安全性が高いし、フォレストトーレの食糧事情を大きく支える為の一大事業だから兵士も多く配置されている」
あいつらは火の国ヴリドエンデ出身だったはずだが、何故風の国に滞在しているのだろう?と、宗八は一瞬気になったがすぐに頭の中から追い出した。
宗八の指摘を受けて、なるほど……と二人は頷く。
「避難先については納得です。しかし……片道だけでもかなり時間がかかります。それに孤児たち全員となれば馬車が足りません。水無月さんの支援なしでは、即応の避難は難しいでしょう」
ここまで二人は宗八が口にした『世界的な危機』について言及をしていない。
今までの付き合いと知り得た情報から「水無月さんが言うなら何かあるのだろう」と信頼を寄せてくれている証左だった。
「そこは——帰還魔法《エクソダス》で対応しようと思います」
エクソダスは、使用者を中心とした小範囲の仲間を登録済みの帰還塔へ一斉転送し、その場にワームホールを残す魔法だ。
帰還塔はギルドが管理しており、本来はダンジョンからの帰還用だが、遠征先からの帰還など用途は幅広い。今回の避難にも十分使えるはずだ。
「この宿泊の間に、皆さんの空き時間でゲートを開きます。あちらのギルドで帰還塔に登録しておけば、いざという時すぐ避難できます」
「……フォレストトーレ旧王都のような事になるのですか?」
巨大牧場街テラフォームへ行くには、旧王都の横を通らねばならない。その惨状を思い出したのだろう、二人は顔色を悪くしていた。
「いや……」
宗八は否定で一度話を切った。
その瞬間、二人の顔に薄い安堵の色が差す。——そのわずかな隙作ったのは宗八のミスだった。
建物は瓦礫と化し、地面は穴だらけ、王城は傾き原型を留めない。あれほどの惨状にはならない——そう錯覚させた直後、宗八は言葉を続ける。
「……どちらかと言えば、大陸全土で魔物群暴走《スタンピード》が起きる、という方が近いかな?」
続いた言葉が、まるで理解不能な冗談であればどれほど良かったか……。
しかし魔物群暴走の恐ろしさを知るこの世界の住人なら、大陸全土でそれが起こればどんな悲劇に見舞われるかなど、容易に——いや、あまりにもリアルに想像できてしまう。
先ほどまで笑みを浮かべていた二人の顔は、落差と共に絶望色へと変わり、やがて頭を垂れ、両手で覆った。
「そんなの……どこに居ても同じでは無いですか……」
残念ながら宗八にそんなつもりは無かったが、話の持って生き方が絶妙に悪かった。
それに抗う為に兵士や冒険者を鍛えたので、宗八が神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇を倒すまで時間を稼げれば何とかなる計算なのだが……。
「えっと……、守る場所を絞れば戦力を集中できますから、そこまで絶望する必要はないですよ? ヴリドエンデに冒険者が集められた話とか聞いてません? アレ、俺が主催したんですよ。凄いでしょ?」
二人はその噂を確かに耳にしていた。
ただし、鍛錬ダンジョンや集結の理由は伏せられ、各国をまたぐ一大事業の準備が進んでいる——そんな曖昧な話しか流れていなかった。
ちなみに、ここまで打ち解けた共同牧場の従業員たちだが、宿泊中——宗八やアルカンシェがどこまで戦えるのか《・》については、一切共有されていなかった。
宗八の話は、その強さを前提としたものだったが、エンハネやクシャトラの耳には、あくまで「アルカンシェと婚約して公爵になった、普通の青年」の言葉として届いていた。
冒険者や要人を集めた話も、参加は信じていたが——宗八が主催者だったとは夢にも思っていなかった。
そんな認識のまま話が進み、やがてアルカンシェも呼び寄せられる。
そして最終的に——皆の前で、宗八とアルカンシェが魔法禁止の模擬戦を行った。
開始の合図と同時に、空気が裂ける。踏み込み一つで砂煙が巻き上がり、打ち合う衝撃が地面を波打たせた。
わずか数合。剣を止めた瞬間、観衆は言葉を失い、互いの息遣いだけが静まり返った場を支配した。
ようやくその瞬間、共同牧場の面々は二人の“本当の強さ”を理解した。
その上で、事態が動いた時には宗八の指示に従うことを、誰も異を唱えずに承諾したのだった——。
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