Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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フォレスタニア調査隊

閑話 虎ではありません

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これはルーク達が調査を開始する直前の出来事である。


「ルーク?朝からコソコソと何をしているのです?」
「っ!?シーッ!」

ドアの隙間から室内の様子を伺っているルークに声を掛けたスフィア。焦ったルークは瞬時にスフィアの口を塞ぎ、自身の口の前に人差し指を立てる。

そのまま視線を移したルークを訝しみながら、スフィアもその視線を追い掛ける。その先には見知った女性と、新たに加わった2人の姿があった。


「あれは・・・シノンとカノンにティナさんが勉強を教えているのですね?」
「あぁ。邪魔しないように見てたんだ。」
「参加しないのですか?」
「オレだと甘やかして勉強にならないだろうからさ。自主規制です。」
「なるほど・・・。」


ルークのシノンとカノンに対する溺愛っぷりは、嫁達全員が思っていた。ルーク自身も自覚する程である。初めは厳しい事を言うのだが、最終的には甘やかしてしまうのだ。だがこれは嫁達にも言える事であった。

何故かシノンとカノンが可愛くて堪らないのである。唯一ティナだけが、終始一貫した態度をとる事が可能だった。だからこそ2人の教育を任されている。ティナもシノンとカノンが可愛くて堪らないようだが、それとこれとは別らしい。何でもオレの面倒を見た、という経験が活かされているんだとか。


「次はカノンの番です。7足す5は?」
「いち、にー、さん・・・なな。いち、にー、さん・・・お姉ちゃん、ちょっとお指を貸してなの。」
「いいよ。」
「よん、ごー・・・ん~と、カノンが10でお姉ちゃんが2だから・・・12なの!」
「うふふ、良く出来ました。」

「「はぅ!!」」

10までは自分の指で数えられたが、それ以上の時は他人の指を使うとは。賢い、賢いぞ!カノン!!思わず声を出してしまった。同時に隣からも声が聞こえたが気のせいだろう。口を押さえてプルプルしてるスフィアなんて、オレの目には見えない。


ずっと見ていたいが、このままではマズイ。確実にバレるだろう。

「スフィア・・・移動しようか?」
「そうですね。私には耐えられそうにありません。仕事に戻ります。」


後ろ髪を引かれる思いだが、これ以上2人の声を耳にするのも限界だった。どうやらスフィアも同じだったらしく、2人揃って足早に立ち去る事となったのである。

スフィアと別れ、オレはどうするか考える。説明しておくと、これと言って仕事がある訳ではない。・・・ハッキリ言おう。暇だ。

「鍛冶は・・・暇潰しにするもんでもないんだよなぁ。かと言って外出は出来ないし。すぐ出来そうな事と言えば・・・オレの場合は料理だよな。地球の食材も手に入る事だし、あまり作らない物でも作ってみるか!」

あまり作らない物と言えば和食だろうか?でも昔の職業柄、和食はあまり得意じゃない。作れるけど洋食メインだったし。あまり作らない洋食か・・・何だろう?折角だし、頑張ってるシノンとカノンにご褒美でも作るか!!

「子供が喜ぶ物と言ったらアレだよな?なら足りないのは国旗か?そう言えば、自分の国なのに国旗なんて見た事無いな・・・。スフィアさ~ん?」
「・・・何ですか?」

執務室の前で考え事をしていたから、オレの声が聞こえていたらしい。ドアを開けたら嫌そうに返事をされてしまった。しかし2人の為だ。負ける訳にはいかない。

「この国の国旗ってどんなん?」
「今更どういう風の吹き回しです?」
「ちょっとね。」
「・・・まぁいいでしょう。私の後ろに掛かっているのが国旗になります。」
「これ、国旗だったんだ・・・知らなかった。」
「・・・・・。」

スフィアの視線が痛い。しょっちゅう目にしていたが、まさか国旗とは思わなかったな。盾の下に交差する剣と杖。シンプルだけど、如何にも帝国って感じがする。だが感想を言ってはいけない気がするのは何故だろう?

何となく自分の勘を信じて、無言のまま紙と色鉛筆を取り出す。あ、上質な紙と色鉛筆は神域との取引でゲットした。何の為かと言われれば、無論シノンとカノンのお絵かき用である。オレが持ってるのはその予備。

ソファーに座り、紙を小さく切って国旗を描く。爪楊枝に国旗を糊付けして、完成した1つをテーブルに置く。するとスフィアがオレの横に座り、小さな国旗を手に取った。


「色々と言いたい事はありますが、上手いものですね。因みにこれは何をする為の物です?」
「ん?料理の飾り付けかな。」
「飾り付け?」


盛り付け以外で料理を飾り付ける事の無い世界。スフィアの疑問を解消すべく説明しようとしたのだが、大した説明など出来るはずもない。だって、ただぶっ刺すだけなんだもん。頑張って説明してみたが、如何にも腑に落ちない顔をしていた。



スフィアを納得させられないまま説明を続けている間、誰もが驚愕する事態が進行しているとは知らず。



「・・・やれやれ。変な事に時間を食っちまったな。」

やっとの事で厨房に立つ事が出来たからか、思わず独り言を呟いてしまった。だがまぁ昼食までは時間がある。とりあえずはメニューを考えるとしよう。

とは言っても、ある意味定番となっている料理なのだから考える事は少ない。最も肝心なのは米を使うかどうか。試しに食べて貰った時は好評だったが、この世界には存在しない食材である。そういった意味では、麺料理の方が喜ばれるのかもしれない。

次に大切なのがエビフライ。海はあるのだが、海産物などまともに見た覚えが無い。直接買い付けに行かなければ手に入らないのだ。何故オレが今までチェックしなかったのかと言えば、ティナさんが肉食だから。

食べた事が無いから、という可能性もあるだろう。しかし100年以上冒険者をしているティナならば、1度くらいは海産物を口にしているかもしれない。そう思ってエビフライも試食して貰った。試食係は当然ティナさん。理由は2つある。

1つは、どうもこの世界の住人達は、海産物は決まった魚以外食べないらしいのだ。見た目で敬遠されたり、毒があると知らずに食した経緯があるのだとか。オレにしてみたら、魔物の方が余程アレだ。

もう1つは、単にティナが食いしん坊だから。他の人に試食を任せると機嫌を損ねる。必ずティナを含めての人選でなければならない。滅多に怒らない分、ティナを怒らせるとタチが悪い。


で、話をエビフライに戻そう。あまり特殊なエビを使うのもどうかと思い、ティナにはブラックタイガーのエビフライを出してみた。その時の反応がこちら。

「っ!?サクサクのプリプリ・・・こ、このエビフライという物は、何という魔物が使われているのですか!?」
「え?ブラックタイガー「ブラックタイガー?黒い虎ですね!?探しに行って来ます!」」

「は?え?あ、ちょっと・・・行っちゃったよ。」

山積みのエビフライを皿毎抱え、一目散に部屋から出て行った。あれは多分、カレンに食わせるつもりなのだろう。実食して貰い、カレンの気を引いて送迎させようって魂胆だ。

無論エビと言わなかったオレも悪い。けど、何という魔物?って聞かれたら、魔物っぽい名前の方で答えちゃうよね。


黒い虎なんてその辺にいるとは思えないから、帰って来たら訂正しておこう。実際に狩って来たら、それはそれで面白いし。因みに、こんな事でティナが怒ったりはしない。ティナが怒るのは、食べられなかった時の話。



そしてこの件でティナが怒る事は無かったが、今回のお子様ランチでは盛大にドンパチを繰り広げる事となる。

それは一先ず置いといて、あと必要なのはゼリーだろうか?これは特製のプリンで代用しよう。こうなると、全て地球の食材で賄った方がいいのかもしれないな。


この世界に電子レンジは無いが、アイテムボックスがある。料理を作る順番だとか、細かい心配は無用なのがいい。そう思ってまずは米を炊く。今後の課題は炊飯器だな。土鍋で炊く方がオレは好きだが、和食処じゃないから楽出来る所はしたいじゃないか。

その隙に下拵えを進めるのだが、ここで嫁さん達のメニューをどうするのか考える。お子様ランチを大人に振る舞うつもりは無い。だが1品くらいは同じメニューでもいいだろう。

「ハンバーグなら何時でも作れるからオムライス?いや、米が足りなくなる。スパゲッティかエビフライ・・・エビフライにしておくか。」


考えたらエビフライはティナにしか食わせていない。そろそろみんなにも食べさせた方が良いだろうと思い、何百匹か数えるのも面倒な量のエビを調理して行く。


そろそろお昼という時間になった頃、厨房に現れたのはシノンとカノン。珍しい来客に首を傾げていると、2人が頼み事をしてきた。

「お庭に晩御飯のおかずを置いてきたの!」
「お料理して欲しいの!」
「ん?あぁ、わかった。もうすぐお昼ご飯だから食堂で待ってて。」
「「はいなの!!」」

足早に厨房を後にする2人に微笑みながら、オレはふと思う。

「・・・中庭に置いて来た?」

誰もが厨房に持って来ない時点で察した事だろう。厨房に入らないのだろう、と。嫌な予感がする。否、嫌な予感しかしない。慌てて料理を仕上げ、急いで中庭に向かう。そこにはお世辞にも仲良しとは言えない2人の姿があった。

「スフィア、ルビア。あ~、やっぱりかぁ。」
「ルーク・・・さっきシノンとカノンが積んで行ったんだけど?」
「これ・・・ビッグボア、ですよね?」

中庭には今、ビッグボアが20頭以上積まれている。間違いなくティナが鍛えたのだろう。しかし数日前まで一切戦闘経験が無かった2人が、突然これだけの魔物を狩る事が出来るようになるとは思えない。

「ん~、やっぱりほとんどティナが仕留めてるな。」
「「・・・ほとんど?」」
「あぁ。武器のせいってのもあるだろうけど、まだ2人にはそこまでの実力が無い。正しくは筋力が足りてない。だから比較的浅い傷が多いんだろうな。仕留めたのは2頭だけみたいだし。」
「でもビッグボアってDランクよね?」
「はぁ!?」

スフィアは魔物を狩る事が無い為、魔物を見てもサッパリである。どの魔物が何ランクなのかわらない。ハッキリ言って、シノンとカノンの凄さが理解出来ないのだ。だがルビアの言葉で異常に気付く。

「ティナのフォローあっての事だけど、ハッキリ言って普通じゃない。あの2人の将来が怖いよ。協力し合っての成果だとは思うけど、獣人だから・・・で片付ける訳にはいかないな。」
「「・・・・・。」」


これだけで判断するのは早いかもしれないが、天才の部類に入る可能性がある。とにかく様子を見る必要があるので、今は話題を変える事にした。

「これは晩御飯に使うよう頼まれたから仕舞わせて貰う。昼食の準備が整ったけど、2人はどうする?」
「行きます。」
「行かないはずないでしょ。」

時々仕事優先で昼食を抜く事があるから聞いたんだけど、ルビアの癇に障ったようだった。


本来であれば使用人に頼むのだが、今回は地球食材のオンパレードという事でオレが配膳を行う。きちんと説明すると、1人前は各々の前に並べる。それ以上食べたい人は、横のテーブルに自分で取りに行く事になっているのだ。わんこそばみたいなペースで食べられたら、こっちの体力が保たない。


端に座るのはティナ。本来なら反対側に座るオレの近くに居て欲しいのだが、彼女の希望で最も遠い位置となっている。理由は単純、お代わりの為である。移動距離のほぼ無い、今の位置がベストらしい。

そのティナの前へ最初に料理を置くのだが、今回はティナを衝撃が襲った。ガタンという音をたて、椅子から立ち上がる。

「ブ、ブラックタイガー!?」
「「「「「?」」」」」
「ここ数日、私とティナが探している・・・幻の虎です。」

嫁さん達が揃って首を傾げると、カレンが説明してくれた。いや、ちっとも説明になってない。勿体つけてタメたみたいだけど、虎じゃねぇからな?しかも幻って何だよ。しかも今回は半額のバナメイエビですから。

「サックサクのプリップリで・・・お代わりはありますか!?」
「あるけど少しは遠慮してよ?」

オレ自身も初体験となるが、お代わり用のテーブルには高さ1メートルに及ぶエビフライのピラミッドを3つ用意した。さながらギザの3大ピラミッドである。そして今晩オレはエビの夢を見る事だろう。・・・そんなのはどうでもいい。

カレン達は放っといて、全員に料理が行き渡った段階で最後に今回の主役。シノンとカノンの前に料理を置く。

「頑張ってるシノンとカノンには特別なご飯、『お子様ランチ』だ。」
「「わぁぁぁ!!」」
「ハンバーグ!?」
「オムライスも!」
「プリンまであるわよ!!」

晩御飯に出しても良かったが、一応ランチなので昼食として出しておきたかった。シノンとカノンの表情を見るに、喜んでくれているのがわかる。問題なのは嫁さん達。

「ルーク!何故シノンとカノンだけ違う料理なのですか!?」
「そうよ!ズルいわ!!」
「私もプリンが食べたいです!」

全員が寄って集ってオレを責める。しかし料理人として、ここで譲る訳にはいかない。

「言っただろ?『お子様』ランチって。これは子供限定の特別な料理なんだ。」
「「「「「なっ!?」」」」」
「横暴よ!」
「不公平だわ!!」
「大人ランチを求めます!」
「却下。」
「「「「「っ!?」」」」」

大人ランチって、そりゃ普通のランチでしょ。

「でしたらハンバーグとオムライスを出して下さい!」
「プリンも!!」
「みんなの分は無い。」

全部乗っけて即席のお子様ランチを作ろうという魂胆だ。これは想定済みだったので、考える間も無く断る。だがそれが良くなかった。あまりにも想定通りだったせいで、馬鹿正直に答えてしまったのだ。

(((((みんなの分は!?)))))

そう、つまりシノンとカノンの分は存在していると暗に告げてしまったのだ。さらには2人が足りないと可哀想だと考え、こちらも馬鹿正直に問い掛ける。

「シノン、カノン。お代わりは?」
「大丈夫なの!」
「あそこにいっぱいあるの!!」
「「「「「はっ!?」」」」」

カノンの視線の先には、ティナによって切り崩されたピラミッドの姿があった。既にクフ王のピラミッドは跡形もなく、カフラー王のピラミッドも5分の1が消失している。あと少し不毛なやり取りを続けていたら、メンカウラー王のピラミッドにまで到達したかもしれない。

揚げ物なんですけど・・・ティナさん恐ろしい子。


口から5本の尻尾を出しながら、ティナが声を上げる。

「ふぃふぉんふぉふぁふぉんふぁ「あげません!」んんっ!?」

シノンとカノンが、と言った所で遮ってやったら驚いていた。2人がお代わりしないなら貰ってやろうというのだろうが、そういう問題ではない。だがティナも必死である。5匹を飲み込んで叫ぶ。

「アイテムボックスを渡して下さい!」
「ふざけんな!贅沢言うな!!」

ティナはお子様ランチが入ったオレのアイテムボックスに目をつけたらしい。ティナに奪われまいとしてカフラー王のピラミッドを攻略中だった嫁達が一斉に此方を向く。全員の口から尻尾がはみ出た光景には色々と言いたいが、今はそれどころじゃない。


アイテムボックスを奪われないように逃走を開始したオレを、行儀の悪い嫁達が追い掛ける。必死に城内を駆け回るオレ達を他所に、幸せそうに食事を楽しむシノンとカノンの姿があった。


「お姉ちゃん、虎さん美味しいね!」
「まだまだ沢山いるの!」


息を切らして戻った嫁達が悲鳴を上げたのは言うまでもない。最後に残ったメンカウラー王のピラミッドは、2人の幼女によって消し去られていたのだった。


後日、必死に教え直す皇帝の姿があったらしい。ブラックタイガーは虎ではないのだ、と。
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