Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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フォレスタニア調査隊

託すべき者

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嫁さん達が慌ただしく里帰りの準備をする中、スフィアに案内されたオレはある場所へと足を向けていた。

「実際に会うのは初めてだな。」
「仕方ありませんよ。本来であれば処刑されているはずの者達ですから。」

スフィアの発言は物騒極まりないが、事実なので何も言わないでおく。一体誰の話なのかと言うと、旧帝国の皇后と皇女達である。城内に居たら殺していたかもしれないのだが、彼女達は城に居なかった。

欲望の限りを尽くす旦那と息子達に愛想を尽かし、城下に用意した小さい屋敷に移り住んでいたのだ。オレが彼女達の存在を知ったのは、皇帝になってすぐの事。スフィアによってその存在を告げられ、彼女達の人となりを聞いて保護する事に決めた経緯がある。

何故今頃になって元王妃達を訪ねようとしているのかと言うと、このタイミングしかないと思ったからだ。今まで放置していた位だ、この機会を逃せば2度と会う事はないだろう。

「スフィアはオレの決定に納得してるの?」
「えぇ。私もずっと悩んでいたのです。先日ルークの話を聞き、肩の荷が下りた気分がしましたよ。」
「まだ下ろして貰っちゃ困るんだけどな・・・。」
「あ、見えて来ました!あの屋敷です!!」

帝国の城は驚く程の大きさを誇るのだが、それは城以外にも言える事だった。今オレ達が居るのは城壁の内側。城の裏手に広がる林の中である。

その林の一画に、ひっそりと佇む邸宅があった。旧帝国の皇族用に建てられた屋敷。そこに元皇后達の身柄を移したのだ。実際には、知られたくない者を住まわせておく為の屋敷らしい。すぐに思い浮かぶのは、存在するはずのない王子や王女だろう。


オレ達は望んでいないが、勘違いした者達が旧帝国の皇族を討ち取ってオレに差し出す恐れがある。だからこそ彼女達を守る為にも、オレ達の手の届く範囲に置いておく必要があったのだ。


屋敷が見える位置まで近付くと、玄関の前に立つ少女の姿が目に入る。

「彼女が元第一皇女のアシュリーです。」
「幼く見えるのは?」
「まだ12歳ですからね。ですが話せばわかりますが、とても12歳とは思えません。」
「なるほどね。」

この世界の人々は総じて成長が早い。地球のように平和ではない為、より早く成長する必要がある。平均して能力が高い分、天才と呼ばれる者達の能力もまた高いのだ。彼女もその中の1人だろう。


「ようこそお越し下さいました。皇帝陛下、スフィア皇后陛下。」
「出迎えご苦労様です、アシュリー。ルージュさんはどうしました?」
「メアリー、妹が熱を出しまして・・・母はその看病をしております。不敬は重々承知しておりますが、何卒ご容赦頂きますようお願い申し上げます。」
「そんな事で罰したりしないさ。それよりメアリーだっけ?そこに案内してくれるかな?」
「えっ!?」
「別に取って食おうとは思ってない。単なるお見舞だよ。」
「それは・・・畏まりました。」

案内するのを躊躇ったようだが、すぐに観念したらしい。そもそもオレ達の言葉に逆らえる立場に無い。ましてや、オレが相手では抵抗するだけ無駄である。

アシュリーの後を付いて行くと、小さな部屋へと案内された。多分子供部屋なのだろう。ベッドに横たわる女の子と、側に寄り添う女性の姿が目に入る。

女性がオレ達に気付き、立ち上がろうとしたので手を出して制止する。そのまま自然な流れで鑑定魔法を使用する。


(・・・急性虫垂炎か。鑑定魔法便利だな。しかしオレが来るタイミングで発症するって事は、この中の誰かが持ってるんだろうな。多分アシュリーだろうけど。)

この世界には医療なんて呼べるものは無い。大別すると、傷を癒やす物と状態異常を治すポーションしかない。状態異常に至っては、原因が魔物由来の物しか治療出来ない。つまりは毒消しに分類される。石化も麻痺も、分類するなら毒となる。つまり病気によっては治療が出来ない。

メアリーの場合は炎症を起こしているから、ポーションか治癒魔法で治す事が出来る。だがパッと見、この屋敷にポーションは無さそうである。

オレが魔法で直しても良いのだが、それでは今後の対策にならない。

「これを飲ませてやるといい。」
「これは・・・ポーション?」
「そうだ。まぁ効かない場合もあるから、普通は低級の物で試すべきかもしれないがな。別に効かなくても問題は無いだろ?」
「それはそうですが・・・わかりました。」

医療と呼べる代物は無いが、ポーションと言う素晴らしい代物は有る。あっという間に傷や欠損が治り、副作用が一切無い。これも立派なチートだろう。

「お母様、これをメアリーに。」
「えぇ。・・・・・これは!?」
「「っ!?」」

アシュリーを通して渡した事で、全くの無警戒でメアリーに飲ませる元皇后。一口飲ませると、効果はすぐに現れた。熱にうなされていたメアリーが、穏やかな表情へと変化したのだ。これにはアシュリーだけでなく、スフィアも驚いたようだ。

「治ったみたいだな。」
「ルーク、これは一体?」
「病には効果が無いけど、肉体的な異常の場合はポーションが効くんだ。懐に余裕があれば、ダメ元で飲んでみるべきなんだよ。」
「・・・戻ったら常備させるよう手配します。」

常備薬代わりにポーションを用意する事を決めたスフィアに頷き返しておく。元皇后達だけでなく、臣下やその家族の為でもあるのだ。

「「ありがとうございました!」」
「別にいいよ。それより、少し時間を貰えるかな?」
「でしたらお茶の用意を・・・ここでは何ですので、応接室に移動しましょう。」
「いや、ここで構わない。メアリーの様子が気になるだろ?騒ぐつもりはないし、お茶ならすぐに用意出来る。」
「陛下がそうおっしゃられるのでしたら・・・。」


ここでいいと言ってみたが、ここにはテーブルもソファーも無い。いや、そもそも皇族用の屋敷ではあるが、家具はどれも年季が入っている。買い換えるべきだと感じたので、アイテムボックスから余っていたテーブルとソファーを取り出した。ついでに紅茶とクッキーを取り出して全員の前に並べる。

「さて、今回訪問したのはアシュリーに話があったからだ。」
「お母様ではなく私ですか?」
「?」
「誰かの下へ嫁がせるのかと思いました。」
「あぁ・・・オレはそんな事しない。結婚は好きな相手とするもんだし、嫌ならしなくていいと思ってる。」
「「えっ?」」

やはり元皇族だけあって、政略結婚が当たり前なのだろう。個人的にはどうかと思うが、貴族にとっては必要な事。だからこそオレはその仕組み自体に口を出していない。

「いい人がいるなら、好きなようにしてもいいんだぞ?まぁ、アシュリーはダメだけどな。」
「そうですか。・・・相手は何方です?」
「ダメってのはそういう意味じゃない。」
「「?」」

アシュリーを嫁がせると思ったのか、アシュリーとルージュが揃って首を傾げる。

「アシュリーは何歳だ?」
「12歳です。」
「君が成人する3年後・・・この国を返そうと思う。」
「・・・え?」

流石に理解が及ばなかったのだろう。呆けたままで聞き返して来た。

「成人と共に、アシュリーを次の皇帝に任命する。」
「な、何故です!?皇帝陛下は民の信頼も厚く、退かれる理由など無いはずです!」
「理由ならある。ここだけの話、オレは普通の人間じゃない。所謂長命種だ。」
「「っ!?」」
「オレが帝位に就くのは、数百年或いは千年に渡って変化が起こらない事を意味する。流石にそれは不味い。」
「いいえ、永きに渡り安泰だという事ではありませんか!」

この子、頭は良いのだろうが政治に関する知識は無いんだろうな。いや、政治と言うよりも人間が抱える闇の部分か。

「変化が無いのはいい事ばかりじゃない。オレの目が届かない場所は、ずっと目が届かないままになる。当然そこに巣食う闇はそのままとなる。いや、寧ろ大きくなる一方だ。上に立つ者が変わる事でより良い組織・・・この場合は国が作られる。偶に暴君もいるだろうけど。上がどうあれ、悪事を働く者が跡を絶たない以上変革は必要不可欠なんだよ。」
「良い者達もいるはずです!」
「それはそうだ。だからこそ現実を知って欲しい。政治を学んで欲しい。」
「・・・何故私なのです?」
「他にいないからだ。自分で言うのもアレだけど、家族以外に信用出来る知り合いがいない。いても国を任せられるような存在ではないだろう。だが君の場合は話が違う。国を任せるんじゃなくて、国を返すんだから。」

オレが奪う形になったが、本来の持ち主へ返すのだ。それはつまり、その後国がどうなろうと知った事ではないと言う意味だ。

「元の形に戻す為にも、ミリスは国に戻す。」
「拒否権は無いのですね?」
「いや、無理強いはしない。その場合は、誰に任せるかわからないけどな。」
「ほとんど脅しではありませんか・・・。」
「だが君達にとってはいい話だと思うぞ?このまま一生日陰の身で暮らすか?」
「それは・・・」

オレの意図を察したのだろう。アシュリーがルージュ、メアリーへと順に視線を向ける。今のままなら、彼女達は一生をこの屋敷で過ごさなければならない。アシュリーとメアリーは美人になるだろうが、結婚する事も出来ない可能性がある。言ってみれば、これは最後のチャンスなのだ。

無くなる自由もあるが、得られる自由は大きい。

「オレが与えられるのは3年間。君は自由を失うだろうが、メアリーが得られる物は多い。君が皇帝になれば、妹は大腕を振って学園に通う事も出来る。それに、君以上に適任だと思える者に国を任せられれば、君もまた自由を得られる。」
「・・・・・。」

言ってて思うが、どうにも胡散臭い。これは無理だとわかっているのだから。そうそう都合良く皇帝の器が現れるはずがない。

「今は限られた者達しか貴女方の存在を知りませんが、貴女がこの話を受けるのであれば全員で城に移って頂きます。」
「良いのですか!?」
「寧ろそうして頂かなければなりません。3年しか無いのですから・・・。」

スフィアが言うように、国のトップとなるには学ぶ時間が少ない。だからこそ、1日たりとも無駄には出来ないのだ。

「オレ達は暫く国を空ける。君には酷だが、今ここで決断して欲しいんだ。」
「アシュリー?私やメアリーの事を気にする必要はありません。貴女の人生は貴女だけのものですよ。」
「お母様・・・。決めました!陛下のお話、お受け致します!!」
「そうか。正直助かったよ。じゃあ後の事はスフィアに任せるから、スフィアから色々と学んでくれ。」
「はい!先生、宜しくお願い致します!!」
「せ、先生!?・・・わかりました。使いの者を寄越しますので、メアリーが回復したら全員で城へ来て下さい。」
「スフィア様・・・娘を宜しくお願い致します。」
「お任せ下さい。」



こうして次期皇帝に目処が立った事で、オレとスフィアは安心して自分達の課題と向き合う事が出来るのだった。
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