裏で国を支えていた令嬢「不純物だ」と追放されるも、強面辺境伯と共に辺境を改革する ~戻ってきてと嘆願されましたが、それに対する答えは……~、

水上

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第11話:祝砲の誤爆と、横領の証拠

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 ヴォルフラム辺境伯領に、王都からの急報が届いたのは、あの騒動から一週間後のことだった。
 伝令の騎士は馬から転げ落ちるようにして、真っ青な顔でルチアたちに告げた。

「お、王城で……、大爆発事故が発生しました! 多数の負傷者が出ており、現場は収拾がつかない状態です! 騎士団長が、どうしてもルチア様の知恵をお借りしたいと……!」

 ルチアとレオンハルトは顔を見合わせた。

 二人は頷き合うと、すぐさま最速の馬車を仕立て、王都へと向かった。
 個人的な感情はさておき、技術者として、そして領主として、国の危機を見過ごすわけにはいかなかったからだ。

 到着した王城の中庭は、黒煙と焦げ臭い匂いに包まれていた。
 かつて美しく手入れされていた芝生は無残にえぐれ、あちこちに金属片が散乱している。
 事故が起きたのは、ジュリアスの誕生日を祝うパーティーの最中だったという。

「……ひどいありさまですね」

 ルチアはハンカチで口元を覆いながら、現場の中心へと歩み寄った。
 そこには、飴細工のように無残に裂けた大砲の残骸が転がっていた。
 本来なら空に向かって放たれるはずの祝砲が、砲身の破裂によって暴発し、観覧席の貴族たちを襲ったのだ。

「ルチア嬢!」

 包帯を巻いた騎士団長が駆け寄ってきた。

「来てくれたか……! 殿下たちは『テロだ』『爆弾が仕掛けられた』と騒いでいるが、私はそうは思わん。これは……」

「ええ。人為的な工作ではありません。純粋な材料選定ミスによる自壊です」

 ルチアは煤けた砲身の断面を指でなぞった。

「見てください、この断面。典型的な脆性破壊の痕跡です。金属が粘ることなく、ガラスのように一気に割れています」

「脆性破壊……?」

「この大砲、鋳鉄製ですね。しかも、不純物のリンや硫黄が多い、安価な粗悪品です」

 ルチアの目は冷徹に事実を分析していく。

「大砲は連続発射すると砲身が高温になります。鋳鉄は熱膨張に弱く、急激な温度変化と火薬の圧力に耐えられません。本来なら、強靭な青銅か、私が指定していたニッケルクロム鋼を使うべきでした。……コストカットのために、材質を勝手に変えましたね?」

 騎士団長は苦渋の表情で頷いた。
 そこへ、騒ぎを聞きつけたジュリアスが、クロエを伴って現れた。
 彼はまだ首のコルセットが外れず、今度は右腕も吊っている。

「る、ルチア! 貴様、なぜここにいる! さては、この爆発もお前の仕業か!?」

「言いがかりはやめてください。私は、あなた方が作ったゴミの検分に来ただけです」

 ルチアは毅然と言い返した。
 ジュリアスの後ろでは、クロエが「キャッ、怖い顔~」と震えるフリをしているが、その顔色は悪い。

「だ、大砲が爆発したのは、運が悪かっただけだ! それに、騎士たちが不甲斐ないから被害が広がったのだ! 私の誕生日を祝うための号砲で、私が怪我をするなど……!」

「いいえ、殿下。騎士たちは不甲斐なくなどありません」

 ルチアは、近くに落ちていた一本の剣を拾い上げた。
 それは、爆発の混乱の中で瓦礫を避けようとした騎士が使い、無残にも真ん中から折れていた剣だった。

「この剣……、ミスリル製として、殿下が軍事予算を増額して導入されたものですよね?」

「あ、ああ、そうだ! 最高級のミスリルだぞ! それが折れたのは、使い手が未熟だからだ!」

 ジュリアスが声を張り上げる。
 ルチアはため息をつき、持参していた携帯用の拡大鏡を取り出した。
 そして、折れた断面を覗き込み、さらに試薬を滴らして反応を見た。

「……殿下。金属は嘘をつきません」

 ルチアは静かに、しかし会場全体に響く声で告げた。

「これはミスリルではありません。ただの高炭素鋼……、いえ、不純物を多く含んだ鉄くずです」

「な、なに……?」

「断面の結晶粒が粗大化しています。ミスリル特有の緻密なオーステナイト組織が見られません。代わりに、もろいセメント質の組織が網の目のように広がっています。これでは、少し衝撃を与えただけでポッキリ折れます」

 ルチアは、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
 それは、先ほど王都に来る途中でレオンハルトの手引きによって入手した、武器商人からの帳簿の写しだった。

「炭素含有量のグラフと、仕入れ値を照らし合わせました。……殿下は、軍事予算からミスリル代として巨額の資金を引き出しておきながら、実際にはその十分の一以下の価格のクズ鉄を納入させていますね?」

 会場がざわめいた。
 騎士たちが、信じられないものを見る目でジュリアスを見る。
 自分たちの命を預ける剣が、横領のために粗悪品にすり替えられていたのだ。

「そ、そんな……! 違う、私は騙されたのだ! 商人が勝手に……!」

「往生際が悪いぞ、ジュリアス」

 低い声が割り込んだ。
 レオンハルトが、一人の男を襟首を掴んで引きずってきた。
 それは、青ざめた顔の御用商人だった。

「こいつが全部吐いたぞ。浮いた金は、そこの女……、クロエへのプレゼント代や、純金の王冠代、そして夜会の遊興費に消えたとな」

「ひぃぃっ! お許しください! 王太子殿下に命令されて、断れなかったのです!」

 商人の自白が、決定打となった。

「嘘だ……。嘘だぁぁぁ!!」

 ジュリアスはその場に崩れ落ちた。
 クロエは「私、関係ないもん!」と叫んで逃げようとしたが、怒りに燃える騎士たちに取り囲まれた。

 ルチアは冷ややかに、折れた剣をジュリアスの足元に投げ捨てた。

「精神論で誤魔化そうとしても、物質は真実を語ります。……あなたの栄光は、この剣と同じ。中身のない、脆い偽物でしたね」

 爆発の煙が晴れていく中、王太子の権威もまた、完全に崩れ去ろうとしていた。
 ルチアによる論理的な断罪は、感情論で動く王宮の人々にとって、どんな刃物よりも鋭く、逃れようのない一撃となったのだった。
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