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第12話:崩れ落ちる虚飾
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横領の事実を暴かれ、騎士たちに取り囲まれたジュリアスとクロエだったが、王太子としてのプライドだけはまだ辛うじて残っていた。
ジュリアスは脂汗を流しながらも、震える指で王城の一角を指差した。
「ま、待て! まだだ! クロエとの永遠の愛を誓って建立した、あの愛の記念碑を見ろ!」
彼が指差した先――王城広場の中央には、巨大な像がそびえ立っていた。
ジュリアスとクロエが手を取り合う姿を模した、高さ五メートルにも及ぶ巨像だ。
全身が黄金色に輝き、台座には鉄の装飾が施されている。
ルチアが追放される直前に基礎工事だけ行い、その後はジュリアスたちがデザインを大幅に変更して完成させたものだ。
「あの輝きこそが正義だ! あれが立っている限り、私の権威は揺るがない!」
ジュリアスが叫んだ、その時だった。
――ギギギ、と不気味な音が広場に響き渡った。
「え?」
誰かが声を上げるのと同時に、巨像がゆっくりと傾き始めた。
まるでスローモーションのように、黄金のジュリアス像の足元が崩れ、膝から折れ曲がる。
地響きと共に、巨大な像は地面に激突し、バラバラに砕け散った。
土煙が舞い上がる。
あまりの出来事に、騎士たちも、そしてジュリアス本人も呆然と立ち尽くした。
「あ……、ああ……、私の、愛の像が……!」
ジュリアスは崩れ落ちた像の残骸に駆け寄った。
そして、真っ赤な顔でルチアを振り返った。
「き、貴様ぁぁ!! ルチア! これも貴様の仕業だな!?」
「はい?」
「基礎工事をしたのは貴様だ! 手抜き工事をしたに違いない! 私の愛を妬んで、呪いをかけたのだろう!」
もはや錯乱状態に近い。
ルチアはため息をつき、レオンハルトと共に残骸へと近づいた。
彼女は、像の折れた足元――台座との接合部分をしゃがみ込んで観察した。
「……なるほど。呪い、ですか。ある意味ではそうかもしれませんね」
ルチアは冷静に眼鏡を押し上げた。
「科学という名の、逃れられない呪いです」
「な、何を訳の分からないことを!」
「殿下。この像、黄金色に見えますが、表面に金メッキを施しているだけですね? そして、この台座との接続ボルト……、これは鉄製です」
ルチアはボロボロに朽ち果てたボルトを拾い上げた。
それは赤錆の塊のように膨れ上がり、原形をとどめていなかった。
「これはガルバニック腐食です」
「がる……、なんだと?」
「異なる種類の金属を、電解質のある環境で接触させると、特殊な回路が形成されます。電位の低い金属、つまりこの場合は鉄から、電位の高い金属である金へと電流が流れ、鉄の方が急速に腐食して溶け出すのです」
ルチアは、まるで講義をするように淡々と解説した。
雨ざらしの広場。
金と鉄の直接接触。
それは化学的に見れば、鉄を溶かすための装置を作ったのと同じことだ。
「私が設計した当初は、絶縁体を挟む仕様にしていました。それを『見栄えが悪い』と言って外したのは殿下、あなたたちです」
ルチアは錆びた鉄くずをジュリアスの前に突き出した。
「金を輝かせるために、鉄を犠牲にした結果がこれです。鉄は電気的に金を腐食させませんが、金は接触した鉄を一方的に食らい尽くしてボロボロにします」
その言葉に、クロエがビクリと震えた。
まるで、彼女がジュリアスの財産と権威を食いつぶしたことへの皮肉のように聞こえたからだ。
「あ……」
「あなたの愛の重みで壊れたのではありません。あなたの無知が、構造そのものを内側から蝕んだのです」
ルチアの決定的な一言が、ジュリアスの心臓を貫いた。
彼はガクリと膝をつき、砕けた自分の像の顔を見つめた。
金メッキが剥がれ、その下から覗くのは、醜く錆びついた鉄の地肌だった。
「虚飾は剥がれ落ちる、ということだな」
レオンハルトが冷ややかに言い放った。
「中身のない男が、見栄だけで巨大な像を建てればどうなるか。……物理法則が教えてくれたようだな。お前にはもう、立つための足場すら残っていないぞ」
ジュリアスは何も言い返せなかった。
反論しようにも、目の前に転がる無残な残骸が、ルチアの正しさを何よりも雄弁に物語っていたからだ。
騎士団長が静かに手を挙げた。
騎士たちがジュリアスとクロエを拘束する。
「アルゲン王太子殿下、およびクロエ嬢。横領、背任、そして国家資産の損壊の容疑で拘束します」
「は、離せ! 私は王太子だぞ! 父上! 父上に言いつけてやる!」
「いやぁぁ! 私は悪くないのぉ! 殿下が勝手にやったのよぉ!」
見苦しく喚き散らす二人だったが、もはや彼らを守る者は誰もいなかった。
かつて彼らが嘲笑い、切り捨てた地味な理屈と堅実な技術によって、その罪は白日の下に晒されたのだ。
連行されていく二人を見送りながら、ルチアはふと空を見上げた。
王都の空は、久しぶりに晴れ渡っていた。
まるで、長い間立ち込めていた不純物が、ようやく取り除かれたかのように。
「……終わりましたね」
「ああ。だが、本当の再建はこれからだ。腐った部分を切り取った後は、新しい材料で埋め合わせなきゃならん」
レオンハルトはルチアの肩を抱き寄せた。
「帰ろう、ルチア。俺たちの領地へ。あそこには、錆びない本物の仲間と、美味い飯が待っている」
「はい……! 閣下」
ルチアは清々しい笑顔で頷いた。
崩れ落ちた虚飾の像を背に、二人は力強く歩き出した。
その足取りは、計算された構造物のように安定し、揺るぎないものだった。
ジュリアスは脂汗を流しながらも、震える指で王城の一角を指差した。
「ま、待て! まだだ! クロエとの永遠の愛を誓って建立した、あの愛の記念碑を見ろ!」
彼が指差した先――王城広場の中央には、巨大な像がそびえ立っていた。
ジュリアスとクロエが手を取り合う姿を模した、高さ五メートルにも及ぶ巨像だ。
全身が黄金色に輝き、台座には鉄の装飾が施されている。
ルチアが追放される直前に基礎工事だけ行い、その後はジュリアスたちがデザインを大幅に変更して完成させたものだ。
「あの輝きこそが正義だ! あれが立っている限り、私の権威は揺るがない!」
ジュリアスが叫んだ、その時だった。
――ギギギ、と不気味な音が広場に響き渡った。
「え?」
誰かが声を上げるのと同時に、巨像がゆっくりと傾き始めた。
まるでスローモーションのように、黄金のジュリアス像の足元が崩れ、膝から折れ曲がる。
地響きと共に、巨大な像は地面に激突し、バラバラに砕け散った。
土煙が舞い上がる。
あまりの出来事に、騎士たちも、そしてジュリアス本人も呆然と立ち尽くした。
「あ……、ああ……、私の、愛の像が……!」
ジュリアスは崩れ落ちた像の残骸に駆け寄った。
そして、真っ赤な顔でルチアを振り返った。
「き、貴様ぁぁ!! ルチア! これも貴様の仕業だな!?」
「はい?」
「基礎工事をしたのは貴様だ! 手抜き工事をしたに違いない! 私の愛を妬んで、呪いをかけたのだろう!」
もはや錯乱状態に近い。
ルチアはため息をつき、レオンハルトと共に残骸へと近づいた。
彼女は、像の折れた足元――台座との接合部分をしゃがみ込んで観察した。
「……なるほど。呪い、ですか。ある意味ではそうかもしれませんね」
ルチアは冷静に眼鏡を押し上げた。
「科学という名の、逃れられない呪いです」
「な、何を訳の分からないことを!」
「殿下。この像、黄金色に見えますが、表面に金メッキを施しているだけですね? そして、この台座との接続ボルト……、これは鉄製です」
ルチアはボロボロに朽ち果てたボルトを拾い上げた。
それは赤錆の塊のように膨れ上がり、原形をとどめていなかった。
「これはガルバニック腐食です」
「がる……、なんだと?」
「異なる種類の金属を、電解質のある環境で接触させると、特殊な回路が形成されます。電位の低い金属、つまりこの場合は鉄から、電位の高い金属である金へと電流が流れ、鉄の方が急速に腐食して溶け出すのです」
ルチアは、まるで講義をするように淡々と解説した。
雨ざらしの広場。
金と鉄の直接接触。
それは化学的に見れば、鉄を溶かすための装置を作ったのと同じことだ。
「私が設計した当初は、絶縁体を挟む仕様にしていました。それを『見栄えが悪い』と言って外したのは殿下、あなたたちです」
ルチアは錆びた鉄くずをジュリアスの前に突き出した。
「金を輝かせるために、鉄を犠牲にした結果がこれです。鉄は電気的に金を腐食させませんが、金は接触した鉄を一方的に食らい尽くしてボロボロにします」
その言葉に、クロエがビクリと震えた。
まるで、彼女がジュリアスの財産と権威を食いつぶしたことへの皮肉のように聞こえたからだ。
「あ……」
「あなたの愛の重みで壊れたのではありません。あなたの無知が、構造そのものを内側から蝕んだのです」
ルチアの決定的な一言が、ジュリアスの心臓を貫いた。
彼はガクリと膝をつき、砕けた自分の像の顔を見つめた。
金メッキが剥がれ、その下から覗くのは、醜く錆びついた鉄の地肌だった。
「虚飾は剥がれ落ちる、ということだな」
レオンハルトが冷ややかに言い放った。
「中身のない男が、見栄だけで巨大な像を建てればどうなるか。……物理法則が教えてくれたようだな。お前にはもう、立つための足場すら残っていないぞ」
ジュリアスは何も言い返せなかった。
反論しようにも、目の前に転がる無残な残骸が、ルチアの正しさを何よりも雄弁に物語っていたからだ。
騎士団長が静かに手を挙げた。
騎士たちがジュリアスとクロエを拘束する。
「アルゲン王太子殿下、およびクロエ嬢。横領、背任、そして国家資産の損壊の容疑で拘束します」
「は、離せ! 私は王太子だぞ! 父上! 父上に言いつけてやる!」
「いやぁぁ! 私は悪くないのぉ! 殿下が勝手にやったのよぉ!」
見苦しく喚き散らす二人だったが、もはや彼らを守る者は誰もいなかった。
かつて彼らが嘲笑い、切り捨てた地味な理屈と堅実な技術によって、その罪は白日の下に晒されたのだ。
連行されていく二人を見送りながら、ルチアはふと空を見上げた。
王都の空は、久しぶりに晴れ渡っていた。
まるで、長い間立ち込めていた不純物が、ようやく取り除かれたかのように。
「……終わりましたね」
「ああ。だが、本当の再建はこれからだ。腐った部分を切り取った後は、新しい材料で埋め合わせなきゃならん」
レオンハルトはルチアの肩を抱き寄せた。
「帰ろう、ルチア。俺たちの領地へ。あそこには、錆びない本物の仲間と、美味い飯が待っている」
「はい……! 閣下」
ルチアは清々しい笑顔で頷いた。
崩れ落ちた虚飾の像を背に、二人は力強く歩き出した。
その足取りは、計算された構造物のように安定し、揺るぎないものだった。
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