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12話~ガーゴイル ~
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~ガーゴイル ~
《セレス、今、分かっていることだけ教えてくれ》
ネージュの声が響く。
「……本校舎の側面、旧礼拝堂側に設置されているガーゴイルが動いた。ここからは見えない」
旧礼拝堂は、かねてから耐震基準に適合していないとされ、今年の四月から正式に立入禁止となっていた。内部の調度品や資料はまだ運び出されておらず、長い年月をそのまま封じ込めた空間だ。
《ガーゴイル? 旧礼拝堂?》ネージュが急に声を潜める。《こんな事件……、出て来なかったよな?》
俺が彼の孵化に必要な魔力を卵に注いだことで、転生前の俺の記憶を共有しているネージュもまた、この異常事態が『物語には存在しない出来事』だと即座に察したようだ。
「ああ、まいったな。対処の方法が全く分からない……」
《セレス、慎重に動いてくれよ。気を付けろ! 絶対に無茶して怪我なんかするな! いいな! 絶対だぞ!》
「中身、オッサンかと思ったら、お父さんかよ」
《今夜、無事に帰って来たら、薄い絵本を読んで子守歌を歌ってやるからな》
「これは、やる気出て来るわー、カッコ、棒、カッコ閉じる」
俺とネージュの軽口も緊張を紛らわせるためのものに過ぎなかった。胸の奥には、じわじわと広がる不安が張りついている。
むやみやたらと動くことはできない。これは、「知っているはずの物語」には存在しない出来事だ。情報が欲しい。
奇石を通じて伝わってくる空気もざわついていた。誰も事態を理解できず、ただ不安が校舎全体を覆う。
「ネージュ、通信はオープンのままで」
《了解》
そのとき、またしても大地を揺るがすような轟音が走った。
梁が軋み、窓枠ががたがたと震える。
《レオ! 動いたぞ! ガーゴイルが壁から外れて……校舎の屋根を目指して登り出した!》キアランの声が奇石越しに裏返る。《バカでけえーっ! なんだあいつ! 彫刻だったはずなのに、ところどころ石がひび割れ、中から肉体? らしきものがのぞいてやがる! 体も一回り、いや二回りも大きく膨れ上がって……羽を広げた! 粉塵が舞い上がり、空気が震える! 飛び立とうとしてる!?》
轟音に引きずられるように、近くに居る学生たちの悲鳴が奇石越しに届く。怒鳴りに近い叫びが幾重にも重なり、耳に刺さるような恐怖の合唱となって伝わってきた。
その直後、キアランの声がさらに高まった。
《ま、待て……! 旧礼拝堂の扉から人影が飛び出してきた! ……血だらけだ。頭から血を流して……あれは――》息をのむ間が挟まる。《――エドマンドじゃないか!? エドマンド・アショーカ!》
「なんだとっ」
「えっ……エドマンド!?」
レオに続いて、アルチュールが思わず声を張り上げた。
俺は一瞬、誰のことだったか思い出せずにいたが、すぐに脳裏に浮かぶ。
エドマンド・アショーカ。
アルチュールのグラン・フレール――学院で彼の兄の役割を担う二年生。
༺ ༒ ༻
――時間を少し遡る。
学院の旧礼拝堂。本校舎から少し離れた石造りの建物は、学生たちにとっては「近づくな」とだけ告げられた場所であり、日常から切り離された沈黙の区画だ。薄暗い祭壇には、色褪せたステンドグラスから斜めに光が差し込み、舞う塵を青く照らしている。
そこで、ひとりの影が跪いていた。
彼は、セレスタンたちにとっては寮の先輩であり、レオにとっては同じ寮に住む同級生のひとり。
エドマンドの前に立つのは、翼を広げ、微笑を浮かべる白大理石の天使像。その眼差しは柔らかく、しかし石であるがゆえに永遠に沈黙を守っている。
額に汗を浮かべ、祈るように両手を組みながら彼は静かに呟く。
「……どうか、答えてくれ。もう一度だけ……妹よ、目を覚ましてくれ……」
その声は、長く押し殺してきた痛みを滲ませて震え、祭壇の空気はその懇願を吸い込むように、いっそう冷たく沈黙した。
༺ ༒ ༻
レオの奇石からはまだざらついた雑音と、遠くで上がる叫び声が途切れ途切れに流れ込んでいる。
「先生たちは居るか?」
《もちろんだ。既にデュボアが障壁を張りながら学生たちの避難誘導をしているし、オベール警備官と、その指揮下にいるガルディアンたちが戦闘態勢に入ったのを目視できる》
――ただ、この学院にいつもいるはずの二人が、今はいない。
『ソルスティス寮』寮監、ルシアン・ボンシャンは水害が起こった地域のその後の浄化状況を確認するために、日帰りで視察に出ている。『レスポワール寮』寮監、ジャン・ピエール・カナードもまた、城に張り巡らされた魔力防壁や結界の点検に朝から呼ばれていて、まだ戻っていないはず。ホールの鍵を借りに行った時、デュボアと少し雑談していた際に、何気なくそんな話が出たのだが……、よりによって、二人の留守中に。
そこへ、寮棟全体に低く澄んだ声が響いた。魔導通信による避難指示だ。
《全学生は直ちに寮棟の地下避難区画へ移動せよ。各寮室は特殊防壁によって守られているため、基本的に安全が確保されるが、使い魔、伝書使の雛を飼育している者は、同伴して避難させること》
その通達とともに、寮の廊下には統率された幾人もの足音が響きはじめた。
寮監補佐を務める三年生は二人、二年生にも二人おり、長期休暇中を除き、誰かが不在でも必ず誰かが残って全室を開閉できる特別なクレ・ジュメルを管理している。今も彼らの一人がその鍵を手に、留守の部屋を順に開け、取り残された雛たちを保護して回っているのだろう。
レオは手にしていた剣をアルチュールに渡すと、椅子の背にかけていた自分のジャケットを取って羽織り、ゆっくりとホール内を見渡した。
「……状況がはっきりしない以上、無闇に飛び出すのは危険だ」
その声は落ち着いていたが、わずかに張り詰めている。
俺たち一年は息を呑む。
ナタンが小声で「でも、もし学院が襲われているのなら……」と口にしかけたとき、レオは首を横に振った。
「だからこそだ。まずは上級生の俺が確認してくる。本来、俺も地下に行かなきゃならないんだが、エドマンドのことがある。お前たちはここに残れ。……それから、自分たちの伝書使を忘れるな。避難区画に連れていくのは、お前たちの役目だ」
「レオ、それなら俺も……」
アルチュールが顔を上げ、言いかける。彼にとってエドマンドはグラン・フレール。危険の中に置いたままじっとしていられるはずがなかった。
だがレオは軽く片手を上げて制した。
「一年生の務めは、何よりも自分の身を守り、そして預かっている存在を守ることだ。……俺は先輩として、後輩を無駄に危険に晒すわけにはいかない」
その言葉には抗えない力があった。
俺も、アルチュールも、リシャールも、ナタンも――思わず唇を噛む。
レオは踵を返し、扉の方へ歩き出した。
だが俺の胸はざわつき、思わず声が出る。
「レオ!」
振り返ったレオの瞳には、静かな決意が宿っていた。
「状況を見て戻るだけだ。無茶はしない」
そう告げると、レオは扉に手をかけ、ゆっくりと開けて外へ踏み出す。
細く差し込む昼の光が、廊下の床に鋭い影を落とした。
その背中を見送る俺の喉は、ひりつくように渇いていた。
扉が閉まる音が重く響いた。
その瞬間、自分の心臓の音が、耳に近いところで跳ねたように感じられた。
そのまま黙ってレオの言葉に従い、何もせずにいればよかったのかもしれない。だが、胸の奥でざわめく思いはあまりに強く、じっとしていることを許してはくれなかった。無意識のうちに体が前へと傾き、思考は次々と可能性をめぐる。立ち止まることも、躊躇することも、もはや許されない瞬間だという感覚が全身を覆っていた。
「……リシャール殿下、ネージュたちをお願いします」
声に出した自分に、内心で驚いた。まるで別人のように低く、落ち着いた響きがそこにあった。震えることもためらうこともなく、ただ静かに意志を伝えた。
「ナタン、殿下を頼む」
二人は一瞬言葉を失ったように見つめ返してきたが、やがてリシャールが口元にわずかな笑みを浮かべた。それは不敵とも誇らしげとも取れる、王族にしか似合わない笑みであり、彼なりの矜持を示すものだった。続いてナタンも強く唇を結んだ。
正直なところ、殿下がやすやすと引き下がるとは思ってはいなかった。むしろ、王族たるもの前線に立って戦わねばならない――そんな言葉を口にするのではないかと予想していたのだ。だが彼は何も言わず、ただ笑みで返した。
もしかしたら、何か考えがあるのだろう。
だが、今はそれを気にして立ち止まっている時間はない。
リシャール殿下は、『受け殿下』のときもそれなりに強かった。ただ守られるだけの存在ではなく、窮地に立たされれば必ず自ら反撃を返す気骨を持っていた。そして現在――攻めオーラを纏う彼の姿は、かつてよりも確実に強く、鋭くなっている。
また、ナタンは、冷静な判断力と機転の早さにおいて、俺たちの中でも抜きん出ている。動揺している場面でも状況を分析し、最適な行動を選び取る。殿下のそばにナタンを置いておけば、軽率な判断に流されることもないはずだ。
俺は隣に立つアルチュールへと視線を向けた。
「行こう。……それと、今、手にしているエクラ・ダシエを持ってきてくれ」
「セレス、これは訓練用の剣で――」
アルチュールがためらいを見せる。
「分かってる。切れはしない。けど……考えがある」
アルチュールはわずかに目を見開いたが、次の瞬間にはすぐ動いた。壁際に置いていた二振り分の鞘を取りに行き、まず自分の剣を滑らせるように納める。続けて俺のも差し出してきた。
俺はそれを受け取り、持っていた剥き出しの刃をゆっくりと鞘に収める。金属が擦れる乾いた音が、張りつめた空気の中でひどく鮮明に響いた。
最後に、二人して腰ひもへ鞘を通し、しっかりと帯刀する。
ただ手に持っていたときよりも、剣はぐっと身体の一部になった気がした。手に持っていたときよりもずっと重みを感じる――それは物理的な重さではなく、責任と覚悟の重さだった。
俺たちは互いに無言の合図を交わし、レオの後を追ってホールの扉へと向かう。
廊下に出た瞬間、地下へ向かう生徒たちのざわめきと足音が渦を巻くように押し寄せる。泣き声、叫び声が交錯し、恐怖と混乱のにおいがその場を満たしていた。
俺とアルチュールは駆け出した。石畳の床に靴音が反響し、どこか遠くで扉が次々と閉ざされる重い音が響いていた。
人の流れに逆らうように、俺たちは肩をすり抜け、前へと進む。
すれ違いざま振り返る視線には訝しさもあったが、構ってなどいられなかった。
アルチュールが小声で「レオは……エドマンドは、どこだ」と呟く。
その額には薄く汗がにじんでいた。
俺も息を整えながら、前方へ目を走らせる。
回廊を抜けると、陽射しに揺れる空気の中、風が鋭く頬を叩いた。レオは木の影に身を潜め、視線の先を凝らしている。足を止める俺とアルチュール。
旧礼拝堂側に面した本校舎の頂に身を乗り出すように佇むガーゴイルは、翼をわずかに広げ、石像とは思えぬ猛禽のごとき迫力を纏い生々しい姿で今にも飛びかかろうとする気配を漂わせていた。
下ではガルディアンたちが半円状に布陣し、怪物を逃さぬように取り囲んでいる。
その中央近くに、呆然と立ち尽くすエドマンドの姿が――。
オベール警備官たちの声が届いているはずなのに、振り返ろうとしない。半狂乱のまま、名前らしきものを叫び続け、その声は裏返り途切れ途切れに宙へと散っていく。
握りしめた左手は不自然に赤紫へと変色していた。一瞬、血に濡れているのかと思ったが、違う。まるで体の内側から滲み出すように、皮膚そのものが変化している。
隣でアルチュールが短く呟き、低い声で呪文を紡いだ。
「ヴォワレゾ」
風のざわめきが耳をくすぐり、乱れたエドマンドの叫びが言葉の輪郭を伴って俺たちの耳に届く。
この魔法は簡単ではあるが、使い手の潜在的魔力量によって精度が変わる。魔力の豊富な者ほど声の細部まで正確に取り出せるが、少ない者には断片的な響きしか捕らえられない。使い手の魔力次第で“情報量”が天と地ほど違うのだ。
近衛師団に入団を希望する者は、まずこの検査でふるいにかけられる。どれだけの音を正確に捕らえられるかが、そのまま選別の基準になるのだ。精度が低ければ、初期段階で足切りされる。
アルチュールが小さく息をつき、俺の耳元で囁いた。
「イシャニ……、エドマンドが呼んでいるのは、彼の妹の名前だ」アルチュールは重ねて言う。「去年、亡くなっている」
思わず息を呑んだ。
どういうことだ……?
そのとき、避難誘導を終えたヴィクター・デュボアが神殿の方角から駆けてきた。司祭たちの退避を見届けてきたのだろう。交差する二本の剣を背にしたその姿は陽射しを受けて輝き、戦場から舞い戻った騎士のように精悍だ。
普段は、人懐こい笑みを絶やさない温厚な男――そう思っていた。だが、今の彼には一片の柔らかさもない。静かな佇まいの奥底からにじむのは、鋼のように冷ややかな緊張と、圧倒的な存在感。
その登場を合図としたかのように、ガルディアンたちが陣を狭める。
と同時に、ガーゴイルが咆哮を上げ、口から火球を放ちながらエドマンド目掛け飛びかかって来た。
「まずはお前を足止めだ」
低く、力強いデュボアの声が響いた。彼の身体が一瞬のうちにガーゴイルの進路を遮り、剣を抜きながら魔道障壁を展開させ、怪物の進撃を押し返す。
爆音が辺りを裂いた。轟きとともに、地面が微かに震え、空気が振動する。耳鳴りが走るほどの衝撃波だ。
しかし、陣の中央に居たオベール警備官も怯まない。彼の動きは、人のものではなかった。白磁のような右手と両脚が無音で地を蹴り、滑るようにエドマンドへ迫る。舞台で操られる人形のように正確で、異様に速い。盾を前に構えると、表面に魔道障壁が広がり、ガーゴイルの火球をデュボアと共に屈指の精度で弾き返す。
――あの盾もオベール自身の仕組みなのだろう、と俺は思った。単なる魔道具ではなく、魔法と機構が融合した異形の防具。彼の技師としての才が、戦場で光を放つ瞬間。
直後、エドマンド・アショーカの身体はオベールの腕に捕らえられていた。冷徹に見える動きでありながら、抱きとめる仕草は揺るぎなく優しい。
「何をしているんだ、エドマンド!」
「やめろ……! やめてくれ!」
押さえつけられたエドマンドが必死に暴れる。声は涙に震え、腕を振り払おうともがくが、オベールの右手の拘束は鉄よりも強固だった。
「殺すな、あれは……!」
叫びは爆音にかき消され、抵抗は長くは続かない。恐慌と疲労で力が抜け、やがて彼の身体はぐったりと力を失い、嗚咽を漏らすばかりになった。
その間、デュボアは瞬時に間合いを詰め、ガーゴイルの片翼めがけて剣を振るっていた。
――鋼と魔力が一体化した一閃。刃が触れた瞬間、甲冑のように硬い翼が断裂音を上げ、ひび割れた鉄板のように裂ける。ガーゴイルはバランスを崩し、制御の効かない飛行で暴れたが、デュボアの冷徹な一撃がその動きを制限する。
爆風や衝撃に揉まれる中でもデュボアの動きは揺らがない。鋭い剣筋は確実に翼を切り裂き、怪物の飛行能力を奪うことで、この局面をより安定させた。
これほどの剣さばき。人の身で、ここまで圧倒できるものなのか……。
戦闘は制御下にあった。そう思わせるほど、学院の守備戦力は盤石に見えた。俺とアルチュールが割り込む余地などない。
彼ら――ガルディアンも、校舎敷地内の神殿含め学院全体の安全を守る存在。圧倒的な戦闘力と統制力を誇り、外敵を寄せつけぬ堅牢さを備えている。そして、一たび侵入者が現れれば、どんな相手であろうと迷いなく立ち向かう。
だが、俺の胸の奥には別の引っかかりがあった。
エドマンドが旧礼拝堂から出てきたのを、レオの伝書使キアランが見ている。ならば、中で何があったのか?
「……行こう」俺はアルチュールに声を落として言った。「遠回りして旧礼拝堂に入る。あそこに手がかりになるものがあるはずだ」
二人で視線を交わし、木立の陰を伝って回り込む。
古びた礼拝堂は、本校舎の影に寄り添うように沈黙していた。人の気配はなく、使われなくなった扉には埃がたまり、錆びた取っ手が陽光を反射して鈍く光っている。互いに短く息を整え、アルチュールが手を掛けた。
軋む音とともに、重々しい扉がゆっくりと開く。
やがてそこで目にしたものは、床に描かれた巨大な魔法陣――乾いた血の色が縁を染め、中心には割れた女神像の欠片が散らばっている。
「これは……」
思わず言葉を失う。
そのとき、背後から低く響く声がした。
「使い魔の契約魔法……。二年生が最近習ったばかりの術式だな」
振り向くとそこにはレオが居た。彼は魔法陣を一瞥し、歩を進めながら眉を寄せて言った。
俺たちのあとを追ってきたのだろう。
「だが、これは……その範疇を逸脱している。魔獣や生物ではなく――造形物に命を宿そうとする余分な線の重なり……」彼の視線が、陣の中央に残されていた小さなロケットペンダントに留まる。「……そして、これは……中身は空だな。ここに、エドマンドの妹の……遺骨の一部が入っていた」
アルチュールは目を見開き、俺は脳裏に赤紫に変色したエドマンドの左手を思い浮かべる。あの腕の色……、もしや、禁忌に触れ呪われた証。
少なくとも、俺が知る『ドメーヌ・ル・ワンジェ王国の薔薇 金の君と黒の騎士』の物語には、そんな術を犯した者は登場しなかった。
だが、このセレンタンの本体に宿る記憶は違う。禁忌の存在も、その末路も、知識として深く刻まれている。
重苦しい沈黙を破ったのは、アルチュールだった。
「……前から思っていたのですが。レオ、あなた、二年生でエドマンドと唯一、親しかったですよね」
「ああ。中庭でよく薬草を摘んで、一緒に研究していた。あいつは妹を病で亡くしたことで、薬草学と治癒魔法にのめり込んでいたんだ。俺も……少しは力になれるかと思って。もともと留学生だったあいつには、学院に知り合いもいなかったしな」
薬草に関してなら、レオは間違いなく学年で……、いや、学内で一番だろう。背後には専門家であるデュボアの指導があり、その知識の深さは学生の域を遥かに超えている。
ネージュに消化に良い木の実をわざわざ摘んできてくれたり、俺自身にはリラックス効果のある薬草を詰めた小さなサシェをくれたりもした。軽薄そうな笑顔に似合わぬ繊細で温かな気遣いを持つ努力家――それが俺のグラン・フレールだ。
《セレス、今、分かっていることだけ教えてくれ》
ネージュの声が響く。
「……本校舎の側面、旧礼拝堂側に設置されているガーゴイルが動いた。ここからは見えない」
旧礼拝堂は、かねてから耐震基準に適合していないとされ、今年の四月から正式に立入禁止となっていた。内部の調度品や資料はまだ運び出されておらず、長い年月をそのまま封じ込めた空間だ。
《ガーゴイル? 旧礼拝堂?》ネージュが急に声を潜める。《こんな事件……、出て来なかったよな?》
俺が彼の孵化に必要な魔力を卵に注いだことで、転生前の俺の記憶を共有しているネージュもまた、この異常事態が『物語には存在しない出来事』だと即座に察したようだ。
「ああ、まいったな。対処の方法が全く分からない……」
《セレス、慎重に動いてくれよ。気を付けろ! 絶対に無茶して怪我なんかするな! いいな! 絶対だぞ!》
「中身、オッサンかと思ったら、お父さんかよ」
《今夜、無事に帰って来たら、薄い絵本を読んで子守歌を歌ってやるからな》
「これは、やる気出て来るわー、カッコ、棒、カッコ閉じる」
俺とネージュの軽口も緊張を紛らわせるためのものに過ぎなかった。胸の奥には、じわじわと広がる不安が張りついている。
むやみやたらと動くことはできない。これは、「知っているはずの物語」には存在しない出来事だ。情報が欲しい。
奇石を通じて伝わってくる空気もざわついていた。誰も事態を理解できず、ただ不安が校舎全体を覆う。
「ネージュ、通信はオープンのままで」
《了解》
そのとき、またしても大地を揺るがすような轟音が走った。
梁が軋み、窓枠ががたがたと震える。
《レオ! 動いたぞ! ガーゴイルが壁から外れて……校舎の屋根を目指して登り出した!》キアランの声が奇石越しに裏返る。《バカでけえーっ! なんだあいつ! 彫刻だったはずなのに、ところどころ石がひび割れ、中から肉体? らしきものがのぞいてやがる! 体も一回り、いや二回りも大きく膨れ上がって……羽を広げた! 粉塵が舞い上がり、空気が震える! 飛び立とうとしてる!?》
轟音に引きずられるように、近くに居る学生たちの悲鳴が奇石越しに届く。怒鳴りに近い叫びが幾重にも重なり、耳に刺さるような恐怖の合唱となって伝わってきた。
その直後、キアランの声がさらに高まった。
《ま、待て……! 旧礼拝堂の扉から人影が飛び出してきた! ……血だらけだ。頭から血を流して……あれは――》息をのむ間が挟まる。《――エドマンドじゃないか!? エドマンド・アショーカ!》
「なんだとっ」
「えっ……エドマンド!?」
レオに続いて、アルチュールが思わず声を張り上げた。
俺は一瞬、誰のことだったか思い出せずにいたが、すぐに脳裏に浮かぶ。
エドマンド・アショーカ。
アルチュールのグラン・フレール――学院で彼の兄の役割を担う二年生。
༺ ༒ ༻
――時間を少し遡る。
学院の旧礼拝堂。本校舎から少し離れた石造りの建物は、学生たちにとっては「近づくな」とだけ告げられた場所であり、日常から切り離された沈黙の区画だ。薄暗い祭壇には、色褪せたステンドグラスから斜めに光が差し込み、舞う塵を青く照らしている。
そこで、ひとりの影が跪いていた。
彼は、セレスタンたちにとっては寮の先輩であり、レオにとっては同じ寮に住む同級生のひとり。
エドマンドの前に立つのは、翼を広げ、微笑を浮かべる白大理石の天使像。その眼差しは柔らかく、しかし石であるがゆえに永遠に沈黙を守っている。
額に汗を浮かべ、祈るように両手を組みながら彼は静かに呟く。
「……どうか、答えてくれ。もう一度だけ……妹よ、目を覚ましてくれ……」
その声は、長く押し殺してきた痛みを滲ませて震え、祭壇の空気はその懇願を吸い込むように、いっそう冷たく沈黙した。
༺ ༒ ༻
レオの奇石からはまだざらついた雑音と、遠くで上がる叫び声が途切れ途切れに流れ込んでいる。
「先生たちは居るか?」
《もちろんだ。既にデュボアが障壁を張りながら学生たちの避難誘導をしているし、オベール警備官と、その指揮下にいるガルディアンたちが戦闘態勢に入ったのを目視できる》
――ただ、この学院にいつもいるはずの二人が、今はいない。
『ソルスティス寮』寮監、ルシアン・ボンシャンは水害が起こった地域のその後の浄化状況を確認するために、日帰りで視察に出ている。『レスポワール寮』寮監、ジャン・ピエール・カナードもまた、城に張り巡らされた魔力防壁や結界の点検に朝から呼ばれていて、まだ戻っていないはず。ホールの鍵を借りに行った時、デュボアと少し雑談していた際に、何気なくそんな話が出たのだが……、よりによって、二人の留守中に。
そこへ、寮棟全体に低く澄んだ声が響いた。魔導通信による避難指示だ。
《全学生は直ちに寮棟の地下避難区画へ移動せよ。各寮室は特殊防壁によって守られているため、基本的に安全が確保されるが、使い魔、伝書使の雛を飼育している者は、同伴して避難させること》
その通達とともに、寮の廊下には統率された幾人もの足音が響きはじめた。
寮監補佐を務める三年生は二人、二年生にも二人おり、長期休暇中を除き、誰かが不在でも必ず誰かが残って全室を開閉できる特別なクレ・ジュメルを管理している。今も彼らの一人がその鍵を手に、留守の部屋を順に開け、取り残された雛たちを保護して回っているのだろう。
レオは手にしていた剣をアルチュールに渡すと、椅子の背にかけていた自分のジャケットを取って羽織り、ゆっくりとホール内を見渡した。
「……状況がはっきりしない以上、無闇に飛び出すのは危険だ」
その声は落ち着いていたが、わずかに張り詰めている。
俺たち一年は息を呑む。
ナタンが小声で「でも、もし学院が襲われているのなら……」と口にしかけたとき、レオは首を横に振った。
「だからこそだ。まずは上級生の俺が確認してくる。本来、俺も地下に行かなきゃならないんだが、エドマンドのことがある。お前たちはここに残れ。……それから、自分たちの伝書使を忘れるな。避難区画に連れていくのは、お前たちの役目だ」
「レオ、それなら俺も……」
アルチュールが顔を上げ、言いかける。彼にとってエドマンドはグラン・フレール。危険の中に置いたままじっとしていられるはずがなかった。
だがレオは軽く片手を上げて制した。
「一年生の務めは、何よりも自分の身を守り、そして預かっている存在を守ることだ。……俺は先輩として、後輩を無駄に危険に晒すわけにはいかない」
その言葉には抗えない力があった。
俺も、アルチュールも、リシャールも、ナタンも――思わず唇を噛む。
レオは踵を返し、扉の方へ歩き出した。
だが俺の胸はざわつき、思わず声が出る。
「レオ!」
振り返ったレオの瞳には、静かな決意が宿っていた。
「状況を見て戻るだけだ。無茶はしない」
そう告げると、レオは扉に手をかけ、ゆっくりと開けて外へ踏み出す。
細く差し込む昼の光が、廊下の床に鋭い影を落とした。
その背中を見送る俺の喉は、ひりつくように渇いていた。
扉が閉まる音が重く響いた。
その瞬間、自分の心臓の音が、耳に近いところで跳ねたように感じられた。
そのまま黙ってレオの言葉に従い、何もせずにいればよかったのかもしれない。だが、胸の奥でざわめく思いはあまりに強く、じっとしていることを許してはくれなかった。無意識のうちに体が前へと傾き、思考は次々と可能性をめぐる。立ち止まることも、躊躇することも、もはや許されない瞬間だという感覚が全身を覆っていた。
「……リシャール殿下、ネージュたちをお願いします」
声に出した自分に、内心で驚いた。まるで別人のように低く、落ち着いた響きがそこにあった。震えることもためらうこともなく、ただ静かに意志を伝えた。
「ナタン、殿下を頼む」
二人は一瞬言葉を失ったように見つめ返してきたが、やがてリシャールが口元にわずかな笑みを浮かべた。それは不敵とも誇らしげとも取れる、王族にしか似合わない笑みであり、彼なりの矜持を示すものだった。続いてナタンも強く唇を結んだ。
正直なところ、殿下がやすやすと引き下がるとは思ってはいなかった。むしろ、王族たるもの前線に立って戦わねばならない――そんな言葉を口にするのではないかと予想していたのだ。だが彼は何も言わず、ただ笑みで返した。
もしかしたら、何か考えがあるのだろう。
だが、今はそれを気にして立ち止まっている時間はない。
リシャール殿下は、『受け殿下』のときもそれなりに強かった。ただ守られるだけの存在ではなく、窮地に立たされれば必ず自ら反撃を返す気骨を持っていた。そして現在――攻めオーラを纏う彼の姿は、かつてよりも確実に強く、鋭くなっている。
また、ナタンは、冷静な判断力と機転の早さにおいて、俺たちの中でも抜きん出ている。動揺している場面でも状況を分析し、最適な行動を選び取る。殿下のそばにナタンを置いておけば、軽率な判断に流されることもないはずだ。
俺は隣に立つアルチュールへと視線を向けた。
「行こう。……それと、今、手にしているエクラ・ダシエを持ってきてくれ」
「セレス、これは訓練用の剣で――」
アルチュールがためらいを見せる。
「分かってる。切れはしない。けど……考えがある」
アルチュールはわずかに目を見開いたが、次の瞬間にはすぐ動いた。壁際に置いていた二振り分の鞘を取りに行き、まず自分の剣を滑らせるように納める。続けて俺のも差し出してきた。
俺はそれを受け取り、持っていた剥き出しの刃をゆっくりと鞘に収める。金属が擦れる乾いた音が、張りつめた空気の中でひどく鮮明に響いた。
最後に、二人して腰ひもへ鞘を通し、しっかりと帯刀する。
ただ手に持っていたときよりも、剣はぐっと身体の一部になった気がした。手に持っていたときよりもずっと重みを感じる――それは物理的な重さではなく、責任と覚悟の重さだった。
俺たちは互いに無言の合図を交わし、レオの後を追ってホールの扉へと向かう。
廊下に出た瞬間、地下へ向かう生徒たちのざわめきと足音が渦を巻くように押し寄せる。泣き声、叫び声が交錯し、恐怖と混乱のにおいがその場を満たしていた。
俺とアルチュールは駆け出した。石畳の床に靴音が反響し、どこか遠くで扉が次々と閉ざされる重い音が響いていた。
人の流れに逆らうように、俺たちは肩をすり抜け、前へと進む。
すれ違いざま振り返る視線には訝しさもあったが、構ってなどいられなかった。
アルチュールが小声で「レオは……エドマンドは、どこだ」と呟く。
その額には薄く汗がにじんでいた。
俺も息を整えながら、前方へ目を走らせる。
回廊を抜けると、陽射しに揺れる空気の中、風が鋭く頬を叩いた。レオは木の影に身を潜め、視線の先を凝らしている。足を止める俺とアルチュール。
旧礼拝堂側に面した本校舎の頂に身を乗り出すように佇むガーゴイルは、翼をわずかに広げ、石像とは思えぬ猛禽のごとき迫力を纏い生々しい姿で今にも飛びかかろうとする気配を漂わせていた。
下ではガルディアンたちが半円状に布陣し、怪物を逃さぬように取り囲んでいる。
その中央近くに、呆然と立ち尽くすエドマンドの姿が――。
オベール警備官たちの声が届いているはずなのに、振り返ろうとしない。半狂乱のまま、名前らしきものを叫び続け、その声は裏返り途切れ途切れに宙へと散っていく。
握りしめた左手は不自然に赤紫へと変色していた。一瞬、血に濡れているのかと思ったが、違う。まるで体の内側から滲み出すように、皮膚そのものが変化している。
隣でアルチュールが短く呟き、低い声で呪文を紡いだ。
「ヴォワレゾ」
風のざわめきが耳をくすぐり、乱れたエドマンドの叫びが言葉の輪郭を伴って俺たちの耳に届く。
この魔法は簡単ではあるが、使い手の潜在的魔力量によって精度が変わる。魔力の豊富な者ほど声の細部まで正確に取り出せるが、少ない者には断片的な響きしか捕らえられない。使い手の魔力次第で“情報量”が天と地ほど違うのだ。
近衛師団に入団を希望する者は、まずこの検査でふるいにかけられる。どれだけの音を正確に捕らえられるかが、そのまま選別の基準になるのだ。精度が低ければ、初期段階で足切りされる。
アルチュールが小さく息をつき、俺の耳元で囁いた。
「イシャニ……、エドマンドが呼んでいるのは、彼の妹の名前だ」アルチュールは重ねて言う。「去年、亡くなっている」
思わず息を呑んだ。
どういうことだ……?
そのとき、避難誘導を終えたヴィクター・デュボアが神殿の方角から駆けてきた。司祭たちの退避を見届けてきたのだろう。交差する二本の剣を背にしたその姿は陽射しを受けて輝き、戦場から舞い戻った騎士のように精悍だ。
普段は、人懐こい笑みを絶やさない温厚な男――そう思っていた。だが、今の彼には一片の柔らかさもない。静かな佇まいの奥底からにじむのは、鋼のように冷ややかな緊張と、圧倒的な存在感。
その登場を合図としたかのように、ガルディアンたちが陣を狭める。
と同時に、ガーゴイルが咆哮を上げ、口から火球を放ちながらエドマンド目掛け飛びかかって来た。
「まずはお前を足止めだ」
低く、力強いデュボアの声が響いた。彼の身体が一瞬のうちにガーゴイルの進路を遮り、剣を抜きながら魔道障壁を展開させ、怪物の進撃を押し返す。
爆音が辺りを裂いた。轟きとともに、地面が微かに震え、空気が振動する。耳鳴りが走るほどの衝撃波だ。
しかし、陣の中央に居たオベール警備官も怯まない。彼の動きは、人のものではなかった。白磁のような右手と両脚が無音で地を蹴り、滑るようにエドマンドへ迫る。舞台で操られる人形のように正確で、異様に速い。盾を前に構えると、表面に魔道障壁が広がり、ガーゴイルの火球をデュボアと共に屈指の精度で弾き返す。
――あの盾もオベール自身の仕組みなのだろう、と俺は思った。単なる魔道具ではなく、魔法と機構が融合した異形の防具。彼の技師としての才が、戦場で光を放つ瞬間。
直後、エドマンド・アショーカの身体はオベールの腕に捕らえられていた。冷徹に見える動きでありながら、抱きとめる仕草は揺るぎなく優しい。
「何をしているんだ、エドマンド!」
「やめろ……! やめてくれ!」
押さえつけられたエドマンドが必死に暴れる。声は涙に震え、腕を振り払おうともがくが、オベールの右手の拘束は鉄よりも強固だった。
「殺すな、あれは……!」
叫びは爆音にかき消され、抵抗は長くは続かない。恐慌と疲労で力が抜け、やがて彼の身体はぐったりと力を失い、嗚咽を漏らすばかりになった。
その間、デュボアは瞬時に間合いを詰め、ガーゴイルの片翼めがけて剣を振るっていた。
――鋼と魔力が一体化した一閃。刃が触れた瞬間、甲冑のように硬い翼が断裂音を上げ、ひび割れた鉄板のように裂ける。ガーゴイルはバランスを崩し、制御の効かない飛行で暴れたが、デュボアの冷徹な一撃がその動きを制限する。
爆風や衝撃に揉まれる中でもデュボアの動きは揺らがない。鋭い剣筋は確実に翼を切り裂き、怪物の飛行能力を奪うことで、この局面をより安定させた。
これほどの剣さばき。人の身で、ここまで圧倒できるものなのか……。
戦闘は制御下にあった。そう思わせるほど、学院の守備戦力は盤石に見えた。俺とアルチュールが割り込む余地などない。
彼ら――ガルディアンも、校舎敷地内の神殿含め学院全体の安全を守る存在。圧倒的な戦闘力と統制力を誇り、外敵を寄せつけぬ堅牢さを備えている。そして、一たび侵入者が現れれば、どんな相手であろうと迷いなく立ち向かう。
だが、俺の胸の奥には別の引っかかりがあった。
エドマンドが旧礼拝堂から出てきたのを、レオの伝書使キアランが見ている。ならば、中で何があったのか?
「……行こう」俺はアルチュールに声を落として言った。「遠回りして旧礼拝堂に入る。あそこに手がかりになるものがあるはずだ」
二人で視線を交わし、木立の陰を伝って回り込む。
古びた礼拝堂は、本校舎の影に寄り添うように沈黙していた。人の気配はなく、使われなくなった扉には埃がたまり、錆びた取っ手が陽光を反射して鈍く光っている。互いに短く息を整え、アルチュールが手を掛けた。
軋む音とともに、重々しい扉がゆっくりと開く。
やがてそこで目にしたものは、床に描かれた巨大な魔法陣――乾いた血の色が縁を染め、中心には割れた女神像の欠片が散らばっている。
「これは……」
思わず言葉を失う。
そのとき、背後から低く響く声がした。
「使い魔の契約魔法……。二年生が最近習ったばかりの術式だな」
振り向くとそこにはレオが居た。彼は魔法陣を一瞥し、歩を進めながら眉を寄せて言った。
俺たちのあとを追ってきたのだろう。
「だが、これは……その範疇を逸脱している。魔獣や生物ではなく――造形物に命を宿そうとする余分な線の重なり……」彼の視線が、陣の中央に残されていた小さなロケットペンダントに留まる。「……そして、これは……中身は空だな。ここに、エドマンドの妹の……遺骨の一部が入っていた」
アルチュールは目を見開き、俺は脳裏に赤紫に変色したエドマンドの左手を思い浮かべる。あの腕の色……、もしや、禁忌に触れ呪われた証。
少なくとも、俺が知る『ドメーヌ・ル・ワンジェ王国の薔薇 金の君と黒の騎士』の物語には、そんな術を犯した者は登場しなかった。
だが、このセレンタンの本体に宿る記憶は違う。禁忌の存在も、その末路も、知識として深く刻まれている。
重苦しい沈黙を破ったのは、アルチュールだった。
「……前から思っていたのですが。レオ、あなた、二年生でエドマンドと唯一、親しかったですよね」
「ああ。中庭でよく薬草を摘んで、一緒に研究していた。あいつは妹を病で亡くしたことで、薬草学と治癒魔法にのめり込んでいたんだ。俺も……少しは力になれるかと思って。もともと留学生だったあいつには、学院に知り合いもいなかったしな」
薬草に関してなら、レオは間違いなく学年で……、いや、学内で一番だろう。背後には専門家であるデュボアの指導があり、その知識の深さは学生の域を遥かに超えている。
ネージュに消化に良い木の実をわざわざ摘んできてくれたり、俺自身にはリラックス効果のある薬草を詰めた小さなサシェをくれたりもした。軽薄そうな笑顔に似合わぬ繊細で温かな気遣いを持つ努力家――それが俺のグラン・フレールだ。
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