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39話 アザレ座の怪人 -7-
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その向こうに、一台の馬車が停まっていた。
黒と銀で統一された装飾。まるで儀礼車のように、厳かで美しい。
「攫いに来たって言ったよな……? 普通、もっと簡素な馬車で来るもんじゃないのか? 目立つだろう」
「お前を乗せるんだぞ?」
あまりにさらりと言われ、思わず息が詰まった。
「俺は女じゃない。こんなことされても喜ばない」
そう返すと、ルクレールは本気で意味が分からないといった顔をした。
「女とか、そういうことじゃない。……家族や仲間は別として、誰か一人のために、今までなにかを用意しようとか考えたことがないんだ」
言葉を失う。どう反応すればいいのか分からず、俺はただ視線を逸らした。
なにを言ってるんだ、この男は――いや、なんで俺がこんなに動揺している。
馬車の扉の前には、ジュール・ド・ベルモンが立っていた。
「コルベール君、先日は、どうもすみませんでした」
「気にしないでください。悪いのは、全部この男です」
そう言いながら、俺はルクレールの首に片腕を回し、鼻先が触れるほどの距離で彼に人差し指を向けた。ルクレールは眉ひとつ動かさず、くすくすと笑っている。
「でも――」
言葉を切って、俺はジュールの方を見据えた。
「もう、声は覚えました。次からは、騙されません」
その一瞬、彼の口元がかすかに綻んだ。
「しかし、ヴァロアさんを手玉に取る人を見るのは初めてです」
「取ってません!」と思わず声が大きくなる。
俺の抗議をよそにルクレールが堪えきれず吹き出した。肩を震わせながら、目尻に笑い皺を寄せている。
「本当に……かわいいな。それに、今日は格別に綺麗だ」
思いがけない言葉に、鼓動が速くなる。
ジュールが小さく咳払いをした。
「すみませんが――」軽く目を伏せながら、柔らかな声で続ける。「その手の仲睦まじいやり取りは、俺の居ないところでお願いできますか」
ルクレールはさらに愉快そうに笑い、俺は真っ赤な顔で彼の頭を軽く小突いた。
ジュールは苦笑を浮かべ、懐中時計をちらりと見やる。
「……そろそろ、出かけませんか」
その言葉を合図のように、ルクレールが俺をそっと地面に降ろし、銀細工の取っ手を引いて馬車のドアを開けた。
「どうぞ、女神殿」
「その呼び方やめろ。あと、乗る前にネージュへ連絡させてくれ」そう言って俺は胸元の奇石に触れると、御者台へ向かおうとしていたジュールを呼び止める。「ベルモンさん、ちょっと待って。うまく説明するのに協力してくれたら、今回の件は全部、水に流します」
「それはありがたい申し出です。喜んで。あと、ジュールで結構ですよ」
サリトゥを感じながら掌に意識を集中。そして俺はペンダントをそっと握り、呪文を唱えた。
「……フェルマ・ヴォカ。こちらセレス」
《こちらネージュ! どうしたセレス。今、丁度レオと楽屋に着いたんだけどお前ぇさんが居ないからこっちから連絡しようかと思っていたところだ――ドレスで用を足すのに手間取っているのか?》
「違うわっ。ネージュ、聞いてくれ。急な話だが、パイパーのところへ行くことになった。これから城の厩舎に向かう。ガルディアンのベルモンさんが同行してくれる」
同行者はジュール一人ではないが、今のところ嘘はついていない。
《えっ……パイパー? セレスが話してくれたあのヴァルカリオンの?》
「少し体調を崩しているらしい。見舞いに行ったら、すぐに戻る」
《……なんか、突然だな》
ネージュの声がわずかに低くなった。いぶかしげというより、何かを嗅ぎ取るような調子だ。彼は妙に勘が鋭い。
その直後、ジュールが穏やかな声で割って入った。
「ネージュ殿。ガルディアン所属、ジュール・ド・ベルモンです。はじめまして。私が急にお願い致しました」
「ネージュ、そこにレオが居たら伝えてくれ」俺はネージュの反応を待たず、続けざまに言葉を重ねた。「水属性班のみんなと、殿下、ナタン、アルチュールに、“パイパーの見舞いのため城へ行く。ガルディアンのベルモンさんが同行。心配無用。なるべく早く戻る予定”と」
《セレス、聞こえてる。了解した》
答えたのはネージュではなく、レオの落ち着いた声だった。
「レオ、助かる。――お願いします」
《ああ。気をつけてな、セレス》
フィネの呪文と共に奇石の光がふっと消え、静けさが戻る。
「俺の名は、出さなかったな」
ルクレールが、どこか楽しげに言う。
「出すか。面倒なことになる」
「賢明だ」
ジュールが軽く会釈し、御者台へと身軽に乗り込む。手綱の革が小さく鳴った。
俺は裾を押さえながら乗り口に足を掛ける。踏み台に触れた瞬間、横から差し出された大きな手が腰を支えた。
「自分で乗れる」
「知ってる。けど、今日は女神だからな」
「殴るぞ」
小さく悪態をつきつつ、俺とルクレールは向かい合って座席に腰を下ろした。
扉が閉まり、車体が揺れる。
「――行こう。パイパーが待っている」
ジュールの「出発します」という声とともに、車輪が静かに動き出した。
༺ ༒ ༻
石畳を踏むたび、規則的な揺れが身体に伝わる。窓の外には、王都が流れていった。
陽光にきらめく屋根瓦と、風に揺れる旗。喧噪の中にも穏やかな光が満ちている。
「……こんなふうに、二人きりになるの、久しぶりだな」
ルクレールの声は、低く穏やかだった。
彼が少し体を傾け、俺の足元に視線を落とす。
指先が靴の留め具に触れ、器用に外して緩めると、ほっとするような空気が足もとを抜けた。
「少しは楽になったか?」
「ああ」
そう答えると、ルクレールは軽く息をつき、俺の足をそっと持ち上げ、抵抗する間もなくそのまま自分の膝の上に乗せた。
「ルクレール?」
「動くな。すぐ済む」
そう言って掌をかざす。
「――トゥレイト」
静かな詠唱のあと、彼の手から淡い光がにじみ、痛みがすっと引いていった。光は体温のように優しく、けれど確かな力を帯びて足を包む。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
馬車の揺れが心地よいリズムを刻む。
ルクレールの視線が、俺を見つめたまま離れない。
そのまましばらく沈黙が流れ、車輪の音だけが静かに響いた。
黒と銀で統一された装飾。まるで儀礼車のように、厳かで美しい。
「攫いに来たって言ったよな……? 普通、もっと簡素な馬車で来るもんじゃないのか? 目立つだろう」
「お前を乗せるんだぞ?」
あまりにさらりと言われ、思わず息が詰まった。
「俺は女じゃない。こんなことされても喜ばない」
そう返すと、ルクレールは本気で意味が分からないといった顔をした。
「女とか、そういうことじゃない。……家族や仲間は別として、誰か一人のために、今までなにかを用意しようとか考えたことがないんだ」
言葉を失う。どう反応すればいいのか分からず、俺はただ視線を逸らした。
なにを言ってるんだ、この男は――いや、なんで俺がこんなに動揺している。
馬車の扉の前には、ジュール・ド・ベルモンが立っていた。
「コルベール君、先日は、どうもすみませんでした」
「気にしないでください。悪いのは、全部この男です」
そう言いながら、俺はルクレールの首に片腕を回し、鼻先が触れるほどの距離で彼に人差し指を向けた。ルクレールは眉ひとつ動かさず、くすくすと笑っている。
「でも――」
言葉を切って、俺はジュールの方を見据えた。
「もう、声は覚えました。次からは、騙されません」
その一瞬、彼の口元がかすかに綻んだ。
「しかし、ヴァロアさんを手玉に取る人を見るのは初めてです」
「取ってません!」と思わず声が大きくなる。
俺の抗議をよそにルクレールが堪えきれず吹き出した。肩を震わせながら、目尻に笑い皺を寄せている。
「本当に……かわいいな。それに、今日は格別に綺麗だ」
思いがけない言葉に、鼓動が速くなる。
ジュールが小さく咳払いをした。
「すみませんが――」軽く目を伏せながら、柔らかな声で続ける。「その手の仲睦まじいやり取りは、俺の居ないところでお願いできますか」
ルクレールはさらに愉快そうに笑い、俺は真っ赤な顔で彼の頭を軽く小突いた。
ジュールは苦笑を浮かべ、懐中時計をちらりと見やる。
「……そろそろ、出かけませんか」
その言葉を合図のように、ルクレールが俺をそっと地面に降ろし、銀細工の取っ手を引いて馬車のドアを開けた。
「どうぞ、女神殿」
「その呼び方やめろ。あと、乗る前にネージュへ連絡させてくれ」そう言って俺は胸元の奇石に触れると、御者台へ向かおうとしていたジュールを呼び止める。「ベルモンさん、ちょっと待って。うまく説明するのに協力してくれたら、今回の件は全部、水に流します」
「それはありがたい申し出です。喜んで。あと、ジュールで結構ですよ」
サリトゥを感じながら掌に意識を集中。そして俺はペンダントをそっと握り、呪文を唱えた。
「……フェルマ・ヴォカ。こちらセレス」
《こちらネージュ! どうしたセレス。今、丁度レオと楽屋に着いたんだけどお前ぇさんが居ないからこっちから連絡しようかと思っていたところだ――ドレスで用を足すのに手間取っているのか?》
「違うわっ。ネージュ、聞いてくれ。急な話だが、パイパーのところへ行くことになった。これから城の厩舎に向かう。ガルディアンのベルモンさんが同行してくれる」
同行者はジュール一人ではないが、今のところ嘘はついていない。
《えっ……パイパー? セレスが話してくれたあのヴァルカリオンの?》
「少し体調を崩しているらしい。見舞いに行ったら、すぐに戻る」
《……なんか、突然だな》
ネージュの声がわずかに低くなった。いぶかしげというより、何かを嗅ぎ取るような調子だ。彼は妙に勘が鋭い。
その直後、ジュールが穏やかな声で割って入った。
「ネージュ殿。ガルディアン所属、ジュール・ド・ベルモンです。はじめまして。私が急にお願い致しました」
「ネージュ、そこにレオが居たら伝えてくれ」俺はネージュの反応を待たず、続けざまに言葉を重ねた。「水属性班のみんなと、殿下、ナタン、アルチュールに、“パイパーの見舞いのため城へ行く。ガルディアンのベルモンさんが同行。心配無用。なるべく早く戻る予定”と」
《セレス、聞こえてる。了解した》
答えたのはネージュではなく、レオの落ち着いた声だった。
「レオ、助かる。――お願いします」
《ああ。気をつけてな、セレス》
フィネの呪文と共に奇石の光がふっと消え、静けさが戻る。
「俺の名は、出さなかったな」
ルクレールが、どこか楽しげに言う。
「出すか。面倒なことになる」
「賢明だ」
ジュールが軽く会釈し、御者台へと身軽に乗り込む。手綱の革が小さく鳴った。
俺は裾を押さえながら乗り口に足を掛ける。踏み台に触れた瞬間、横から差し出された大きな手が腰を支えた。
「自分で乗れる」
「知ってる。けど、今日は女神だからな」
「殴るぞ」
小さく悪態をつきつつ、俺とルクレールは向かい合って座席に腰を下ろした。
扉が閉まり、車体が揺れる。
「――行こう。パイパーが待っている」
ジュールの「出発します」という声とともに、車輪が静かに動き出した。
༺ ༒ ༻
石畳を踏むたび、規則的な揺れが身体に伝わる。窓の外には、王都が流れていった。
陽光にきらめく屋根瓦と、風に揺れる旗。喧噪の中にも穏やかな光が満ちている。
「……こんなふうに、二人きりになるの、久しぶりだな」
ルクレールの声は、低く穏やかだった。
彼が少し体を傾け、俺の足元に視線を落とす。
指先が靴の留め具に触れ、器用に外して緩めると、ほっとするような空気が足もとを抜けた。
「少しは楽になったか?」
「ああ」
そう答えると、ルクレールは軽く息をつき、俺の足をそっと持ち上げ、抵抗する間もなくそのまま自分の膝の上に乗せた。
「ルクレール?」
「動くな。すぐ済む」
そう言って掌をかざす。
「――トゥレイト」
静かな詠唱のあと、彼の手から淡い光がにじみ、痛みがすっと引いていった。光は体温のように優しく、けれど確かな力を帯びて足を包む。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
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