腐男子♥異世界転生

よしの と こひな

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41話 アザレ座の怪人 -9-

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「すみません、こんなドレス姿で……。フェスティバルの出し物を終えた直後に、この男に拉致されました」
 そう言って、ルクレールを指さす。
「拉致とは言い過ぎじゃないか? 迎えに行っただけだ」
「はいはい」

 モーリスは口元を引きつらせ、気まずそうに咳払いした。
「い、いや……その、眼福……というか、とても、貴重な光景で……」
 ルクレールがすっと顔を上げ、鋭い声で言った。
「眼福って言ったな、今」
 モーリスは慌てて視線を逸らし、それから耳まで赤くした。
「しかし、コルベール君。あの課外授業には本来、俺が同行するはずだったのに……、申し訳ない」
「こいつのせいですね。あと、セレスでいいです」
 再びルクレールを指で示すと、当の本人は表情を変えることなく、淡々と口を開く。
「俺が行って正解だっただろう? あのとき、ソルヴォラックス肉食巨大ミミズ相手に、こんな駆け出しに毛が生えた程度の騎士じゃ太刀打ちできなかった。まあ、セレスをあの場から逃がすことぐらいは出来ただろうが、寮監たちが加勢に来るまでにモーリスは高い確率で死んでいた。つまり、俺はこの男の命の恩人だ」
「うっ……!」
 モーリスの肩がわずかに震える。言い返そうとして口を開きかけたものの、結局、言葉が出てこない。図星を突かれたのだろうか。
 ルクレールはそんな彼の反応を面白がることなく、ため息をつく。
「まあ、日々の努力は認めてやる。お前がパイパーをよく世話しているのも知っている」
 俺はモーリスの方に視線を向けた。
「ベルナールさん」
「俺も、モーリスでいいよ」
「じゃあ、モーリスさん、あのとき、パイパーには本当に助けられました。こんな良いヴァルカリオンを、ちゃんと育ててくれて大変感謝しています」
 モーリスは、はにかむように微笑み、小さく頭を下げた。
 そして、少し迷うようにパイパーへ視線を送り、「セレス。その……、よかったら、これからもたまにでいいので、パイパーに会いに来てやってくれないかな? こいつ、本当に課外授業から帰って来てから寂しそうな顔をして元気がなくて……」と俺に向き直って言った。
「もちろん。また会いに来ます」
 俺が頷くと、パイパーが嬉しそうに小さく鼻を鳴らした。
「あ、今度来るときは、ロジェかジュールに案内してもらって一緒に来ます!」
「おい、俺が案内する」
 すかさずルクレールが口を挟む。
「殿下に怒られるだろう。俺に近付くなって言われてるくせに」
「お前が心配しているのは、殿下じゃないだろう? 少し見ない間に色気増しやがって。あいつとどこまでやった?」
「なっ……、人前でそれ言う?」
 俺は思わず声を荒げた。
「舞台で見た瞬間から分かった。前より柔らかくなったというか、妙に艶っぽくなった。今まで聞かないでおいてやったんだよ。お前がロジェかジュールに案内してもらうって言うから」
 俺たちのやり取りを見ていたモーリスが、ぽかんと目をしばたかせ、そして苦笑した。
「……滅茶苦茶、課外授業で仲良くなったんだな、二人とも」
 その言葉に、俺とルクレールは同時に口を閉ざし、ちらりと目を合わせた。
 次の瞬間、パイパーの鼻息混じりの嘶きが、妙にタイミングよく響いた。
「なあ、セレス」
 ルクレールの低い声が響く。
「もう一頭、会わせたいヴァルカリオンがいる」
「もしかして……」
「そうだ。俺のヴァルカリオンに、会ってくれ」

 ――以前、ルクレールが言っていた言葉を思い出す。
 『俺の赤髪と同じ色合いだ。爆走させると、たてがみが風を裂いて燃え立つように揺れ、まるで炎を撒き散らしながら走るような光景になる。火焔の幻獣と見紛うほどにな』

 遺跡で休息を取っていたとき、ルクレールがパイパーの手入れをしていたときの手つきは、驚くほど丁寧だった。

「……分かった。俺も会いたい」
 そう口にすると、ルクレールはわずかに口角を上げた。それは、どこか誇らしげで、けれど少し照れたような笑みだった。

 「パイパー、また来るからな」
 鼻先を撫でて別れを告げると、彼は名残惜しそうに嘶いた。
 モーリスが小さく笑い、「会えて光栄でした」と言って頭を下げ、厩舎の奥へと戻っていく。

 外へ出ると、午後の光が差し込んでいた。
 ルクレールは歩きながら、ちらと俺の足もとに目をやる。
「足は大丈夫か?」
「さっき治療してくれただろ。大丈夫だ」
「ならいい」

 彼が先を歩き、俺はその後ろを追う。
 少し離れた場所に、もう一棟の厩舎が見えてきた。扉の前にはノクターンの紋章が掲げられている。

「ノクターンの騎士団が使う厩舎だ。ここの馬はどれも、テネブリス・ノクターン専用のヴァルカリオン」
 重い鉄扉を押して中へ入ると、空気が一段と静かになった。
 灯りが控えめにともり、奥の柵の向こうで、一頭のヴァルカリオンがゆっくりと首を上げた。
 金属の蹄が床を打つたび、微かな火花が散るような錯覚すらあった。
 その佇まいはまさに――炎を抱いた影。

 ルクレールが近づき、手綱にそっと触れる。
「こいつが、俺のヴァルカリオン、エカルラットだ」
 声はどこか誇らしげで、同時に優しかった。

 炎を宿したような馬――エカルラットは、静かにこちらを見つめていた。
 息を呑むほどに美しい。だが、それ以上に気高さを感じる。

「……触れてもいいか?」
 俺が尋ねると、ルクレールは穏やかに頷いた。
「もちろんだ。お前のことは、もう知っている。俺が散々、語って聞かせた」
 恐る恐る手を伸ばし、首筋に触れると、熱を帯びた毛並みが指先をくすぐった。
「はじめまして、エカルラット」
 そう声をかけると、彼は小さく鼻を鳴らし、頬を寄せてきた。
 まるで挨拶を返すように。
「やっぱり、気に入られたな」
 ルクレールの声には、どこか誇らしさが混じっていた。
 そして、にやりと笑いながら言った。
「乗せてやる」
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