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第15話 「恐れに押し潰されないで”受け入れる強さ”も持って欲しいの」
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「ごめんね、千歳」
片づけをしながら、母がぽつりと口を開いた。
「母さん?」
突然の謝罪に、千歳は手を止めて母を見た。
「私はあなたに”大切なこと”を教えてあげられてなかったのかもしれない。”アルファとの繋がり”を、”番の喜び”を見せてあげられなくて……ごめんね」
「どうして、母さんが謝るんですか?俺は母さんに感謝してるんですよ?俺が競泳辞めずにすんだのも、ここまで頑張って来れたのも、全部母さんのおかげじゃないですか」
始まりは母の”性別なんて関係ないわ。あなたはあなたがやりたいことをすればいい”と言う言葉だった。その言葉が千歳を”水泳”へと導いた。千歳が壁にぶつかる度、時に壁を乗り越える手助けをし、時に立ち直るまで見守ってくれたのは、母だ。その姿勢が、千歳にとっての”自信の源”になった。千歳の人生は、母なくしてはありえなかった。だから、感謝こそすれ、謝られる様なことは何もない。
「そうじゃないの」
母は優しく、真剣な目で千歳を見つめた。自ずと千歳の背筋も伸びる。
「千歳、あなたは本当に頑張って来たわ。母さん自慢の息子よ。何度壁にぶつかっても諦めずに努力し、オリンピックでメダルを取る程の選手に成長した。競技以外もすごいわ。何をやらせても、3人の中で1番上手だったものね」
母は過去を懐かしむ様に言った。
「あなたが『番契約』について真剣に考えているのも、立派なことだと思うわ。『番契約』は簡単に結ぶべきじゃない。お互いが信頼し合い、尊重し合える関係でなければ、上手く行かないって言うのは、正にその通りだと思う」
母は、決して千歳を否定しなかった。千歳の言葉を否定しない様に言葉を選んで、話しを続けて行く。
「でもね?ちょっと『番』に関しては語弊があるから、訂正させて欲しいの」
「?」
何が語弊なのだろうか?千歳にとって、『番契約』とは”鎖”であり、”牢獄”だ。アルファが千歳の”世界”を、”自由”を奪うべく押し付けて来る障害に過ぎない。何より”オメガだけがリスクを負わなければならない”と言う仕組みが気に入らない。
「千歳、『番』と言う関係は、”従属”するものでも、”束縛”するものでもないのよ。もちろん、そう言う使い方をするアルファもいるけど、そんな”冷たい側面”ばかりじゃない。互いに寄り添い合い、支え合う”絆”でもあるのよ」
「『番契約』が?」
一方的にオメガを縛り付ける代物が、”絆”とはどう言うことだろうか?千歳は首を傾げた。
「そうよ。少なくとも、あなたの”自由”や”夢”を奪う物ではないわ。それだけはわかって欲しい。それに……半身を喪って辛いのはアルファだって同じなのよ」
「(どう言うこと……ですか?)」
アルファは『番』のオメガを失っても、次の『番』を作れる。加えて、オメガと違って、医療の世話にもならないはずだ。
「アルファだって、私達と同じ”人”なのよ?不安や弱さを抱えているのは、皆同じ。だから、大切な人を喪ったら誰だって悲しいものなのよ」
無言の千歳に、母は優しく微笑む。
「私も昔、あなたと同じ様にアルファに対して警戒心があったわ。特にあの頃は、オメガは結婚するしかなくて……いつか来る『番契約』の日を、暗鬱な気持ちで待ってた。でもね、”あの人”……”あなたのお父さん”と出会って、その考えが変わったの。だって、お父さんはとても私に優しかったもの」
千歳は父を写真でしか知らない。兄をやんちゃにした雰囲気の人だった様に思う。
「私が”バース性に関係ない育て方をしたい”って言った時、すぐ頷いてくれたのよ?だから、私は”自分の意思”を持って子育てが出来たの。決して、”自分を殺された”ことはなかった。彼は、私に”自分の意思”を持たせてくれたの」
「父さんが?」
母の言葉は意外だった。その言葉が正しければ、父もまた、千歳を形作ってくれたと言うことになる。
「少なくとも、私達の『番契約』は、”依存”でも”束縛”でもなかった。お互いがそれぞれに出来ることをして、支え合うことだった。ただ、あの頃は、オメガに出来ることが今と比べて、ずっと限られてたから、外から見たら”不自由”に見えたかもしれないけどね?」
母は寂しそうに笑った。しかし、真剣な目で話を続けた。
「千歳、何度も言うけど、あなたはすごいわ。”自分の意思を形にする声”がある。”何度叩かれても折れない意思”がある。”逆境に立ち向かう勇気”がある。”独り”で戦うには、もう十分過ぎる力を持ってる。でも、”独り”で出来ることには限界があるのよ」
「……わかってます、そんなこと」
千歳にだってわかっているのだ。でも、それ以外方法なんてなかったのだから、仕方がないではないか。特に、アルファには隙なんて見せられない。僅かでも綻びを見せれば、そこから崩されそうで……怖い。
「千歳、落ち着いて」
母は、優しく千歳の手に触れた。千歳は気付かない内に、強く握り締めていた様だ。
「何度も嫌な思いも、怖い思いもしたんだものね……あなたが不安になる気持ちはわかるし、その不安をすぐに消せとは言わない。でも、そんな不誠実で冷たい人ばかりじゃないのよ」
「……知ってます」
千歳は、これまで会って来たアルファ達を思い出す。嫌な奴が多かったのは事実だ。でも、中学時代の部長はいい人だったし、大会で会ったライバル選手にも真っ直ぐな闘志を向けて来た人は少なくない。オリンピックで金メダルを奪って行ったアメリカ人の選手は”水泳好きな人は皆好き!”と言う、ある意味究極の平等主義者だった。何より、夏樹と過ごす時間は悪いものではなかった。寧ろ、楽しかったぐらいだ。
「そうでしょう?だって、夏樹君のことだって、”友達”だと思ってるんだものね。素敵なスタートだと思うわ。だから、今、その気持ちに蓋をしないで。恐れに押し潰されないで”受け入れる強さ”も持って欲しいの」
「……”受け入れる強さ”って何ですか?」
千歳の人生とは、”戦い”と同義だ。右の頬を殴る相手の顔面を殴り返すことは得意だが、左の頬を差し出す殊勝な精神は持ち合わせていない。そう言う”オメガの美徳”は、競泳の世界で生きると決めた千歳が、真っ先に捨てたものだったから。
「”信頼を築く勇気”のことよ。お互いを尊重すること。自分の弱さを見せること。相手の弱さを受け入れること……そして、相手に委ねること。心の中の柔らかい部分を見せるのは苦しいことかもしれないけど、それが出来たら、きっとあなたはもっと強くなれるわ。”みっともないところを見せる”のって、ある意味”カッコつける”より勇気がいることだから」
「そう……ですね」
口で言うのは簡単だが、千歳にとってこれほど難しいことはない。本心を見せた瞬間、”やっぱり、オメガだな”と言われるのが嫌だった。
「大丈夫、『オメガ』って世間が言ってるより、ずっと強い生き物なのよ?伊達に”劣等性”なんて蔑まれながら、この時代まで生き残ってないわ。ただ、強さのベクトルが違うだけ。オメガにはオメガの武器がある。オメガだからこそ出来ることがある。それにね?どんなに蔑まれたって、アルファはオメガがいなくちゃ生きられない生き物なのよ」
アルファはオメガが相手でなければ、子供が作れない。自身にとって都合がいい社会を維持する、自身の優位性を引き継がせる後続が作れない。だが、オメガは相手がアルファである必要はない。相手の性に関係なく、繁殖が可能なのだ。”オメガはアルファがいなければ生きられない”のではなく、”オメガがいないとアルファは生まれることすらできない”の方が真実だとも言える。
また、医学や社会的認知が進んだ上、千歳の件で社会活動する能力にも過不足がないことが証明されたことを受け、穏やかで温厚な性格の人が多いオメガは、社会で重宝され始めている。逆に”尊大、高圧的”等のイメージが付き纏うアルファは、能力の優秀さはさておき、他性から敬遠されやすい。同性同士ではマウントし合うが故に交友関係が限定的な物になりやすく、『アルファ』の孤独死のリスクは他性に加えて2倍以上あるとされる。
加えて、社会制度もオメガに対する物の方が充実している。『オメガ』を理由に受けられる保障や支援はあっても、『アルファ』や『ベータ』を理由に受けられる物はない。寧ろ、『アルファ』だと言うと、真っ先に役所の水際作戦の餌食になるとも言われている。
「オメガだけの強さがある様に、アルファとの絆にだって素晴らしい部分があるの。私は、お父さんからそのことを教えて貰った。”こんなこと”になってしまったけれど、私はお父さんの『番』になったことを後悔したことなんて一度もないわ。お父さんと過ごした日々は、『番』として隣に居られた日々はかけがえのない物だった。私はお父さんのおかげで強くなれたのよ」
母は、笑顔だった。作り笑い等ではなく、取り繕っているわけでもない。本心からの言葉と表情だった。
「(そう言えば、父さんの昔話をする母さんはいつもこんな顔してましたね……)」
成長に伴い、いつしか兄妹が父のことを聞く機会はなくなっていた。だが、千歳の記憶の中では、父の話題が出た時、母は始終笑顔だった様に思う。
「もちろん、無理強いはしないわ。でも、”友達”なのは確かなのよね?」
「……はい」
千歳は頷いた。これだけは、嘘ではない。
「だったら、少しずつでいい。信じてみて。受け入れてみて。”お互いを支え合える関係”って、きっとあなたが想像しているより、ずっと温かくて、安心出来るものなんだから」
母はそう言って、千歳をそっと抱き締めた。
「(受け入れるって……そんなのどうやったらいいんですか?)」
母の言い分は理解出来た。しかし、どうすればいいのかはわからなかった。
片づけをしながら、母がぽつりと口を開いた。
「母さん?」
突然の謝罪に、千歳は手を止めて母を見た。
「私はあなたに”大切なこと”を教えてあげられてなかったのかもしれない。”アルファとの繋がり”を、”番の喜び”を見せてあげられなくて……ごめんね」
「どうして、母さんが謝るんですか?俺は母さんに感謝してるんですよ?俺が競泳辞めずにすんだのも、ここまで頑張って来れたのも、全部母さんのおかげじゃないですか」
始まりは母の”性別なんて関係ないわ。あなたはあなたがやりたいことをすればいい”と言う言葉だった。その言葉が千歳を”水泳”へと導いた。千歳が壁にぶつかる度、時に壁を乗り越える手助けをし、時に立ち直るまで見守ってくれたのは、母だ。その姿勢が、千歳にとっての”自信の源”になった。千歳の人生は、母なくしてはありえなかった。だから、感謝こそすれ、謝られる様なことは何もない。
「そうじゃないの」
母は優しく、真剣な目で千歳を見つめた。自ずと千歳の背筋も伸びる。
「千歳、あなたは本当に頑張って来たわ。母さん自慢の息子よ。何度壁にぶつかっても諦めずに努力し、オリンピックでメダルを取る程の選手に成長した。競技以外もすごいわ。何をやらせても、3人の中で1番上手だったものね」
母は過去を懐かしむ様に言った。
「あなたが『番契約』について真剣に考えているのも、立派なことだと思うわ。『番契約』は簡単に結ぶべきじゃない。お互いが信頼し合い、尊重し合える関係でなければ、上手く行かないって言うのは、正にその通りだと思う」
母は、決して千歳を否定しなかった。千歳の言葉を否定しない様に言葉を選んで、話しを続けて行く。
「でもね?ちょっと『番』に関しては語弊があるから、訂正させて欲しいの」
「?」
何が語弊なのだろうか?千歳にとって、『番契約』とは”鎖”であり、”牢獄”だ。アルファが千歳の”世界”を、”自由”を奪うべく押し付けて来る障害に過ぎない。何より”オメガだけがリスクを負わなければならない”と言う仕組みが気に入らない。
「千歳、『番』と言う関係は、”従属”するものでも、”束縛”するものでもないのよ。もちろん、そう言う使い方をするアルファもいるけど、そんな”冷たい側面”ばかりじゃない。互いに寄り添い合い、支え合う”絆”でもあるのよ」
「『番契約』が?」
一方的にオメガを縛り付ける代物が、”絆”とはどう言うことだろうか?千歳は首を傾げた。
「そうよ。少なくとも、あなたの”自由”や”夢”を奪う物ではないわ。それだけはわかって欲しい。それに……半身を喪って辛いのはアルファだって同じなのよ」
「(どう言うこと……ですか?)」
アルファは『番』のオメガを失っても、次の『番』を作れる。加えて、オメガと違って、医療の世話にもならないはずだ。
「アルファだって、私達と同じ”人”なのよ?不安や弱さを抱えているのは、皆同じ。だから、大切な人を喪ったら誰だって悲しいものなのよ」
無言の千歳に、母は優しく微笑む。
「私も昔、あなたと同じ様にアルファに対して警戒心があったわ。特にあの頃は、オメガは結婚するしかなくて……いつか来る『番契約』の日を、暗鬱な気持ちで待ってた。でもね、”あの人”……”あなたのお父さん”と出会って、その考えが変わったの。だって、お父さんはとても私に優しかったもの」
千歳は父を写真でしか知らない。兄をやんちゃにした雰囲気の人だった様に思う。
「私が”バース性に関係ない育て方をしたい”って言った時、すぐ頷いてくれたのよ?だから、私は”自分の意思”を持って子育てが出来たの。決して、”自分を殺された”ことはなかった。彼は、私に”自分の意思”を持たせてくれたの」
「父さんが?」
母の言葉は意外だった。その言葉が正しければ、父もまた、千歳を形作ってくれたと言うことになる。
「少なくとも、私達の『番契約』は、”依存”でも”束縛”でもなかった。お互いがそれぞれに出来ることをして、支え合うことだった。ただ、あの頃は、オメガに出来ることが今と比べて、ずっと限られてたから、外から見たら”不自由”に見えたかもしれないけどね?」
母は寂しそうに笑った。しかし、真剣な目で話を続けた。
「千歳、何度も言うけど、あなたはすごいわ。”自分の意思を形にする声”がある。”何度叩かれても折れない意思”がある。”逆境に立ち向かう勇気”がある。”独り”で戦うには、もう十分過ぎる力を持ってる。でも、”独り”で出来ることには限界があるのよ」
「……わかってます、そんなこと」
千歳にだってわかっているのだ。でも、それ以外方法なんてなかったのだから、仕方がないではないか。特に、アルファには隙なんて見せられない。僅かでも綻びを見せれば、そこから崩されそうで……怖い。
「千歳、落ち着いて」
母は、優しく千歳の手に触れた。千歳は気付かない内に、強く握り締めていた様だ。
「何度も嫌な思いも、怖い思いもしたんだものね……あなたが不安になる気持ちはわかるし、その不安をすぐに消せとは言わない。でも、そんな不誠実で冷たい人ばかりじゃないのよ」
「……知ってます」
千歳は、これまで会って来たアルファ達を思い出す。嫌な奴が多かったのは事実だ。でも、中学時代の部長はいい人だったし、大会で会ったライバル選手にも真っ直ぐな闘志を向けて来た人は少なくない。オリンピックで金メダルを奪って行ったアメリカ人の選手は”水泳好きな人は皆好き!”と言う、ある意味究極の平等主義者だった。何より、夏樹と過ごす時間は悪いものではなかった。寧ろ、楽しかったぐらいだ。
「そうでしょう?だって、夏樹君のことだって、”友達”だと思ってるんだものね。素敵なスタートだと思うわ。だから、今、その気持ちに蓋をしないで。恐れに押し潰されないで”受け入れる強さ”も持って欲しいの」
「……”受け入れる強さ”って何ですか?」
千歳の人生とは、”戦い”と同義だ。右の頬を殴る相手の顔面を殴り返すことは得意だが、左の頬を差し出す殊勝な精神は持ち合わせていない。そう言う”オメガの美徳”は、競泳の世界で生きると決めた千歳が、真っ先に捨てたものだったから。
「”信頼を築く勇気”のことよ。お互いを尊重すること。自分の弱さを見せること。相手の弱さを受け入れること……そして、相手に委ねること。心の中の柔らかい部分を見せるのは苦しいことかもしれないけど、それが出来たら、きっとあなたはもっと強くなれるわ。”みっともないところを見せる”のって、ある意味”カッコつける”より勇気がいることだから」
「そう……ですね」
口で言うのは簡単だが、千歳にとってこれほど難しいことはない。本心を見せた瞬間、”やっぱり、オメガだな”と言われるのが嫌だった。
「大丈夫、『オメガ』って世間が言ってるより、ずっと強い生き物なのよ?伊達に”劣等性”なんて蔑まれながら、この時代まで生き残ってないわ。ただ、強さのベクトルが違うだけ。オメガにはオメガの武器がある。オメガだからこそ出来ることがある。それにね?どんなに蔑まれたって、アルファはオメガがいなくちゃ生きられない生き物なのよ」
アルファはオメガが相手でなければ、子供が作れない。自身にとって都合がいい社会を維持する、自身の優位性を引き継がせる後続が作れない。だが、オメガは相手がアルファである必要はない。相手の性に関係なく、繁殖が可能なのだ。”オメガはアルファがいなければ生きられない”のではなく、”オメガがいないとアルファは生まれることすらできない”の方が真実だとも言える。
また、医学や社会的認知が進んだ上、千歳の件で社会活動する能力にも過不足がないことが証明されたことを受け、穏やかで温厚な性格の人が多いオメガは、社会で重宝され始めている。逆に”尊大、高圧的”等のイメージが付き纏うアルファは、能力の優秀さはさておき、他性から敬遠されやすい。同性同士ではマウントし合うが故に交友関係が限定的な物になりやすく、『アルファ』の孤独死のリスクは他性に加えて2倍以上あるとされる。
加えて、社会制度もオメガに対する物の方が充実している。『オメガ』を理由に受けられる保障や支援はあっても、『アルファ』や『ベータ』を理由に受けられる物はない。寧ろ、『アルファ』だと言うと、真っ先に役所の水際作戦の餌食になるとも言われている。
「オメガだけの強さがある様に、アルファとの絆にだって素晴らしい部分があるの。私は、お父さんからそのことを教えて貰った。”こんなこと”になってしまったけれど、私はお父さんの『番』になったことを後悔したことなんて一度もないわ。お父さんと過ごした日々は、『番』として隣に居られた日々はかけがえのない物だった。私はお父さんのおかげで強くなれたのよ」
母は、笑顔だった。作り笑い等ではなく、取り繕っているわけでもない。本心からの言葉と表情だった。
「(そう言えば、父さんの昔話をする母さんはいつもこんな顔してましたね……)」
成長に伴い、いつしか兄妹が父のことを聞く機会はなくなっていた。だが、千歳の記憶の中では、父の話題が出た時、母は始終笑顔だった様に思う。
「もちろん、無理強いはしないわ。でも、”友達”なのは確かなのよね?」
「……はい」
千歳は頷いた。これだけは、嘘ではない。
「だったら、少しずつでいい。信じてみて。受け入れてみて。”お互いを支え合える関係”って、きっとあなたが想像しているより、ずっと温かくて、安心出来るものなんだから」
母はそう言って、千歳をそっと抱き締めた。
「(受け入れるって……そんなのどうやったらいいんですか?)」
母の言い分は理解出来た。しかし、どうすればいいのかはわからなかった。
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