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前編
しおりを挟む「……では、言ってみるがいい。まずは、突き飛ばしの件からだ。明確に、伯爵家のご出身であるクレイ殿がこう言っておられるのだ」
「まあ、証人としての信憑性は疑ってませんよ。なら、疑うべきは証言の内容です。確か、あの突き飛ばし事件は"5限の直後"の放課後に起きたんでしたね?で、クレイ先生はそれを目撃されたと」
クレイと呼ばれた教師は、厳かに頷いた。爵位も立派、纏う雰囲気も重厚。彼が嘘の証言をするとはとても思えない。――――まあ、役者にしては悪くない選出じゃないかとは思う。
「んでもフツーに、目撃すんの無理なんすよ。だって、クレイ先生、東棟で5限担当してたじゃないですか。んで…事件が起きたの、西棟でしょ?物理的に間に合わない」
こんな馬鹿げたアリバイの無さを出させないでほしい、悲しくなる。とはいえ、言い逃れはまだ出来そうだ。
「それは――――」
「あ、なーるほど!」
オレは、ブーゲンビリア殿下が口を開こうとしたタイミングを見計らって、言葉を被せた。
ブーゲンビリア殿下の"背後"に、転移魔法で立つ。
「こんな風に、"転移魔法"をお使いになられた?なるほど、確かにそれなら分かります」
ブーゲンビリア殿下の麗しの黒髪をさらりと背後から撫ぜれば、怒りの形相で振り払われた。おお、怖。
クレイ教諭は、はくはくと青筋を立てている。魔法教師の癖に、コネで就職したコイツに、転移魔法などという高度な術式が使えないことなんて、とっくに知っているのだ。
「……ふむ、ご自分ではお使いになられない?失礼致しました。では、どなたかとご一緒に転移された?……ちょうどいい、聞いてみましょう、この中に、あの事件の日、クレイ教諭とご一緒に転移された方は――――」
「っ、もういい!やめろ、レン」
遮ったのは、アルストロメリア殿下だった。
主人に言われれば、仕方がない。オレは肩をすくめて、これ見よがしに転移魔法で、ホールのど真ん中に戻った。
「…たかがそれだけで、ロベリアが"本当に嫌がらせをしていた"と言ったつもりか?クレイ教諭は嘘の証言をされたかもしれないが、」
「ぶ、ブーゲンビリア殿下!?それは、話が違……!」
「だが!」
ブーゲンビリア殿下は、クレイ教諭を無視して声を荒げた。
おいおい、勢いで押し通す気かよ、この王子様。
「まだ無罪の証拠はある。これは極めて悪質だ……聖女リリーに、ロベリアが男をけしかけたというものだ。皆様、覚えておられるか?学院の裏庭で、聖女リリーが男に無理矢理襲われ、あわや純潔を散らされる所であった。……が、その後、この男がロベリアの名を吐いたというものだ」
聖女にとって、未婚の象徴である純潔は極めて重要視される。突き落としという明確な危害に加え、これは極めて悪質とされ、ロベリア嬢は我が主人、アルストロメリア様に婚約破棄を宣言された。
「が、皆様。これを見てほしい。これがその後、見つかった聖女リリーの"手紙"だ――――見ろ!『今夜、裏庭で待っています』と、そう書いてある。筆跡鑑定の結果、これは聖女リリーのものだと証明された。彼女は、最初から男を雇い、ロベリアの仕業に見せかけようとしたのだ!」
「いや、そいつ、ロベリア嬢と接点ありまくりっすよ」
すぐさま返せば、会場がざわめきを見せた。真っ当に戸惑っている貴族もいれば、ゴシップ気分の貴族も多い。まあ、貴族なんてこんなもんだろう。皆々様を満足させた方が主役だ。
「あー、まず、男の名前なんですけどね。カーク・"ヴァレント"っていいます」
再びのどよめき。オレは口角を上げる。それはそうだろう、少し"詳しい"貴族なら、ヴァレントの姓を知らぬわけがない。
「そう、ロベリア嬢のサティスレシア公爵家の番犬で有名な、影の一族、"ヴァレント家"の人間です。ちょっと"お話し"したら吐いてくれましたよ。手紙も、こいつが捏造したそうです。筆跡捏造の得意な影の一族とか、使い勝手良すぎますよね。どんだけ暗躍してきたことか……おっと、失礼。これは脱線でした」
思い出すと今でも笑えそうだ。影の一族だとか言われている癖に、自分がされる拷問には弱い。まさか一枚で洗いざらい吐くとは思わなかった。
「ま、でも、あくまで影の一族は影の一族。サティスレシア公爵家との接点をちゃんと証明してもらわないとね、ってことで。カーク・ヴァレントに、証拠を撮ってきてもらいました。それがこちら」
オレは指をパチンと鳴らした。
こういうのは、演出も大切なのだ。手元の魔道具に魔力を注ぐと、大広間の空中あたりに映像を投影する。最新鋭の小型魔道具だ。録音・録画が出来ることから、"不貞の証拠を恐れた貴族の皆様"により発売停止に追い込まれた代物だったが、こっそりと入手しておいたのだ。
『よくやったわ、カーク。あなたはロベリア様の仕業だとしっかり証言してくれた。己の破滅すら厭わずに……』
『ロベリア様。…自分は、…』
『皆まで言わなくていいわ。あなたが欲しい報酬は、分かっておりますもの…』
暗がりの部屋で、カークとロベリアが話している。ロベリアが、ネグリジェの胸元にそっと手をかけた。これ以上は目に毒だろう。オレは、映像を次へ飛ばした。場面が変わる――――そこにいるのは、ブーゲンビリア殿下と、ロベリア嬢だ。ロベリア嬢がブーゲンビリア殿下の首に手を回しながら、くすくす笑っている。
『だがこの計画。一度君が汚名を着ることになるぞ、ロベリア。目的の本懐は、"冤罪を見抜けなかった兄上の愚かさの証明"ということだろう?つまり、君がした嫌がらせを後から"冤罪"ということにしなければいけない』
『ふふ、そもそも、あの聖女様は気に食わなかったから、いじめてやりたかったんですもの。それに、そうしないとブーゲンビリア様が"国王に"なれないでしょ?私、転生ま……んっ、ずっと前から、アルストロメリア殿下よりも、ブーゲンビリア様が好きでしたの。アルストロメリア殿下を廃嫡して、ブーゲンビリア様が王位に立たれるには、これしかありませんわ』
『ロベリア……ああ、ああ、そうだな。妾腹の息子の兄上が王になるだなんて、間違っている。俺が、王になるべきだ。そして君が、王妃になるんだ』
ロベリア嬢がくすくす笑った。にたりと、口を歪ませる。
『そう、必要な演出ですわ――――あのアルストロメリア殿下に、"ざまあみろ"と、そう言うためのね!』
ため息を吐いて、オレは映像を消した。
「冤罪とか言い出したのはただの茶番ですよ。嫌がらせは実際に存在していて、ただそれを冤罪に見せかける証拠をでっち上げただけ。これは、"冤罪を見抜けなかった"アルストロメリア様を作り上げて、継承者から引き摺り下ろすための、悪質な――――ガキじみた謀略です」
意識して、淡々とした声を出した。
「…………き、さま……」
ブーゲンビリア殿下は、口をはくはくさせて黙っている。ここまで確固たる証拠が出た以上、何も返せる言葉がないのだろう。アルストロメリア殿下が、オレの後ろまで歩いてきた。
「……レン、ありがとう。だが…」
「いいや、まだ続けます。アルストロメリア殿下、あなたを陥れようとした人間を、ここで逃してたまるか」
オレは、メインディッシュの方に目を向けた。ブーゲンビリア殿下の横で、ぷるぷると震えているロベリア・サティスレシアの方だ。
「何か申し開きはあるかい?ロベリア・サティスレシア嬢」
「……………………キャラ…せ、…に」
拳を握り込みながら、何やら言葉を発した。聞き取れなかったので、オレは首を傾げる。
「何よ、何よ、何よ、あんたなんか、アルストロメリアの横にひっついてる、攻略不能のサブキャラの癖にっ!!なんで、あたしの邪魔をするのよ、折角悪役令嬢になったのよ!?あたしが――――あたしの物語になるはずでしょおっ!?」
公爵令嬢がいきなり、髪を振り乱して、凄まじい形相で叫び出した。外ヅラだけは綺麗だっただけに、落差が凄まじい。
「あたっ……あたし、ブーゲンビリア推しだったんだもん!推しのブーゲンビリアと結婚して、王妃になりたかったんだもん!なら、アルストロメリアにざまあ王子になってもらって、リリーが消えるのが、無難ってもんじゃないの!?」
「…………」
「何よ、それをよってたかって……!!ぶ、ブーゲンビリアだって、あたしのアイデアに乗っかった癖に!」
「な…!ロベリア、俺を売る気か!?」
「うるさい、うるさい、うるさい!!何よ、そういうもんでしょ!?消えれば、消えればよかったのよ、リリーも、アルストロメリアも!そもそも、アルストロメリアなんて、バカ王子なんだから、この国に相応しくないでしょ!?この国はあたしの――――」
「――――口を慎めよ」
自分で思っていたよりも、低い声が出た。だが、止めようもなかった。どんな罵詈雑言を吐くかと思っていたが、まさか、よりによって一番のオレの地雷を言うとは思わなかった。
「アルストロメリア殿下が、この国に相応しくない?……ふざけるな。馬鹿も休み休み言え」
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