【完結】転生令嬢が、オレの殿下を"ざまあ"しようなんて百年早い!〜"ざまあ王子"の従者ですが、やり返します〜

海崎凪斗

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後編

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 アルストロメリア殿下は、アホだ。

 どれぐらいアホかと言われると、王子様である彼から金品を盗もうとした昔のオレに、

「全部、持っていっていいよ」

 そう言った後、オレを自分付きの騎士にしたぐらいのアホだ。

 彼のアホさは、本当に筋金入りだ。

 だから、聖女であるリリーが学院で嫌がらせを受けて、ロベリアとの婚約自体を疑問視する声が上がる中で、オレは忠告した。

「あれ、多分餌っすよ。殿下が釣られたのを見て、殿下を陥れる気だと思います。あの女は相応しくはないですが、あっさり婚約破棄とか言ったら、罠にかかりますよ」

「うん、そうだね……。…なあ、レン。……ずっと考えているんだよね」

「何をです?寄り添うあんたを妬むことしかしない、弟君を陥れる方法をですか?」

 完全に私情だが、オレはブーゲンビリア殿下が嫌いだ。

 アルストロメリア殿下が妾腹、自分が正室の子なのに、アルストロメリア殿下の方が民に慕われていることを妬むだけの王子様。

 アルストロメリア殿下が差し伸べた手を、乱暴に払う弟君。そのくせ、弟だから、アルストロメリア殿下の中で、それなりにいい椅子に座らせてもらっている奴。嫌いにならない理由があまりない。

「レンは本当にブーゲンビリアが嫌いだなあ」

「……ちょっとは仲良くしようと思いましたけど。どう見てもあんたを陥れようとしてるので、好感度が死にました。明らかに動きが怪しいですよ。あんたが婚約破棄を宣言した後、それをひっくり返して、あんたに"真相を見抜けなかった無能"のレッテルを貼って――――あんたと、聖女リリーをまとめて追放する気ですよ」

「うん」

 アルストロメリア殿下は、頷いた。開けっぱなしの窓から、風が吹きこんでいた。

「だからね、このまま、彼らの計画に乗ろうと思うんだ」

「………………………はっ?」

「リリーと話したことはある?彼女はね、びっくりするぐらい普通の子なんだ。このままだと、政争に巻き込まれる。……それに、私もね。第一王子派と、第二王子派の争いは、徐々に激化している。本当なら流れる必要のない血が、沢山流れるだろう。それならば、ブーゲンビリアを王にするべきだと思うんだ。その方が、余計な血は流れずに済む……」

 リリーも、穏やかに過ごせるだろう。……勿論、"冤罪はリリーのでっちあげだった"ともなれば、着せられるだろう汚名は大きすぎる。聖女から退けたとしても、余りあるデメリットだ。それはなんとかしなければと、そう添えて。アルストロメリア殿下は言った。

「………流れるとしても、貴族の薄汚え血ですよ」

「はは、口が悪いぞ。……それだとしても、だ。彼らは…」

 アルストロメリア殿下は、オレを見た。昔、騎士に登用された時のことを思い出した。何故オレみたいな盗人を騎士にしたと、そう問うた時と、同じ瞳をしていた。静謐なブルーサファイア。どこまでも愚かで真っ直ぐな瞳。

「――――私の民だからね」

✴︎

「あの方は、誰よりも民を愛している。なのに、あんたらと来たら、なんだ?自分の出世、自分の未来、自分、自分、自分ばかり!たった一言ですら、他人を慮らなかった」

 ほんの少し。たった一言。謝罪や、そうでなくても、誰かを慮る心があったのなら、容赦してやった。オレもこの口を止められたかもしれない。

「お前たちが、王と王妃?――――ふざけるな。国益を一つたりとも考えない。劣等感に支配された第二王子と、自分のことしか考えていない女が?アルストロメリア殿下を陥れて、あまつさえ、だと?ふざけるな。貴様らに、国を担う資格も、あの方を冒涜する権利も、何一つありはしない」

「――――レン」

 アルストロメリア殿下が、オレを呼び止めた。言い返そうとしたが、黙った。殿下の瞳に、優しさの奥に覗く、確かな決意を見たからだ。

「………………陛下」

 殿下が、静観していた国王に片膝をついた。無罪でも願うつもりかと、普段のオレならそう思って、この王子様のアホさに呆れただろう。

「私は、怒ってはおりません。ですが、此度の事案は、我が国を根幹から揺るがす、反逆に相当する事案と考えます。故に――――」

 一瞬だけ、アルストロメリア殿下は言葉を止めた。だがその後は、澱みなく続ける。

「ロベリア・サティスレシア公爵令嬢には、公爵令嬢としての爵位のはく奪、および、公爵家の領地の接収を。ブーゲンビリアには……第二王子としての地位の剥奪、及び、王位継承権の永久剥奪を言い渡すのが、妥当かと存じます」

「……うむ。そうだな、それが妥当であろう。アルストロメリアよ、其方の意見を採用する」

 国王が重々しく頷いた。場は、水を打ったように静まり返っていた。

「なっ――――ん、ですって!?嘘、嘘よ、あた、…あたしが、転生者のこのあたしが、断罪される側だって言うの!?」

「あ、兄上……冗談ですよね?お優しい兄上が、そんなことをなさるわけ……………っ、できる、わけ……」

 アルストロメリア殿下は、自分に追い縋る二人を、黙って見つめていた。言葉を返すことはなく、踵を返す。もう決着は着いたのだ。敗者を必要以上に痛めつける必要はないと判断されたのだろう。

「レン。リリー。…行こう」

「――――はい、殿下」

 ――――ああ、この方は。
 今、まさに。王の器に、なられたのだ。

 オレは、目頭がじんと熱くなった。

✴︎

「……てか、なんです?あの『待ってください、私は、本当にロベリア様に――――』ってやつ。あんた、一言しか喋ってないじゃないですか」

「だって、変に喋る方が下策じゃないですか。レンさん、わかってないなあ。あれは主演女優級ですよ?」

 深夜。オレは、王宮のバルコニーから、城下町を眺めていた。隣には、今回の"共犯者"である、聖女リリーの姿がある。オレの指摘に、聖女サマは口を尖らせながら反論した。

「まあ、あんたのおかげでうまくいったよ」

「こちらこそです、レンさん」

 ――――何故オレが、ここまで完璧に奴らの陰謀を暴けたのか。
 それは、この聖女の力によるものが大きい。この聖女は、まあにわかには信じ難いが、ぴたりと奴らの陰謀の一端を当ててみせたのだ。

「王国は安泰。アルストロメリア殿下も、王の意識がお目覚めになられて……わたし、ちょっと感動しちゃいました。レンさんあの後ちょっと泣いてましたもんね」

「うるせーですよ。……ホントに、あそこまでするつもりはなかったんだよ。あいつらが、あんまりにも自己中だから」

 今度はオレが口を尖らせる番だった。手すりに腕を預けながら、目を伏せてリリーが言う。

「まあ、ブーゲンビリア殿下は増長されちゃった感じでしたね、完全に……。わたしもあの方があそこまでダークサイドに落ちる前になんとかしようと思ったんですけど、無理でした。あの転生しゃ、……コホン、ロベリア嬢の影響を受けすぎですね。……いや、アルストロメリア殿下がほんと、立派になってよかったです」

「殿下は最初から立派だろ」

「出た、レンさんの殿下全肯定。いや、あの方、優しいけど、王になるにはちょっとアホじゃないですか。…だから許しちゃうかなあと思って心配してたけど、良かったです。まあ、原作でも覚醒するのは"レン"が死んだ時だったしなあ……」

「おい、なんの話をしてるのか相変わらずわからんが、オレが死ぬって言ったか?」

 こいつはよく、テンセイシャとか、ゲンサクとかいう失言をする。おそらく、ロベリアと同じ何かがあるのだろう。

 だが今のはちょっと、聞き捨てならない。
 じとりとリリーを見れば、彼女は肩を竦めた。

 それから少しして、急に、ぷりぷり怒り出した。

「……それにしても、あの人!悪役令嬢のツラ汚しです、あんなの!なんなんですか?悪役令嬢を名乗らないで欲しいです。"悪役令嬢”を名乗るなら、もっと気高く、もっと優雅に、演じきるべきです。あんな下手で品がないの、見てられません。あの人は悪役令嬢気取りの、ただの痛々しい人です。絶対悪役令嬢じゃない。普通に嫌がらせしてくるし。はあ、原作のロベリアはもっと切ない女の子なのに……」

「………まあ、あんたも何かを守りたかったことはわかってるつもりだが」

「うん。わたしは、原作ロベリアが大好きだから。"あの子"を守りたかった。……まあ、レンさんは何を言ってるか分からないと思うけど。ありがとうございました」

「いいよ。こちらこそだ。共犯者だろ?」

 共犯者というのは、利害の一致からなるものだ。

 その点で言えば、ロベリアとブーゲンビリアも立派な共犯者だろう。王になりたい男と、王にしたい女。ロベリアに至っては、「アルストロメリア殿下を破滅させる」という彼女の中にあるシナリオに、やたらと固執しているようだったが。

「……まあ、何はともあれ。あんたの守りたいものは守れて、オレの守りたいアルストロメリア殿下の名誉は守られたわけだろ」

「そうです!殿下を"ざまあ王子"に仕立て上げようっていったって、そうはいかないんですから!」

「全く、その通り!!百年早いわ!ざまあみろ!」

「……言っちゃいましたね?」

「……言っちまったわ。オレが。もう言わない。だって、オレたちは、"ざまあ"って、言う側じゃなくて――――言わせねえ側だもんな」

 バルコニーの上、風が静かに夜を撫でていった。
 王子の従者と、共犯者の聖女。
 この夜の結末を見届けた者たちが、静かに、少し悪い笑顔で、笑い合った。
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