1 / 3
プロローグ
しおりを挟む「――――兄上。これから、あなたが愚かにも婚約を破棄したロベリア・サティスレシア公爵令嬢の無実を証明してみせましょう」
オレの名前はレン・アルバス。
この国の第一王子、アルストロメリア殿下の従者だ。
先に言うと、オレの主人はアホだ。
それはもうめちゃくちゃにアホである。
――――どのぐらいアホかというと、元婚約者である公爵令嬢と、腹違いの弟である第二王子に夜会の場で追い詰められるぐらいにはアホだ。
「ロベリアは、学院で"聖女"たるリリーに嫌がらせをしていたとされ、三ヶ月前に婚約破棄を宣言されました。ですが、"嫌がらせ"自体が、冤罪なのですよ、兄上。ロベリアは、嫌がらせなどしていません」
第二王子、ブーゲンビリア殿下が、端正な顔に淡々と怒りを乗せながら言った。
その傍には、ブーゲンビリア殿下の髪色と同じ、黒いドレスを身に纏った令嬢の姿。時の人であるロベリア・サティスレシア公爵令嬢である。
「………冤罪?」
眉を吊り上げたのが、俺の主人であるアルストロメリア殿下。太陽に祝福されたような金髪と、海底を切り取ったようなブルーの瞳を持つ王子様である。
アルストロメリア殿下の後ろで少し怯えたようにしているスカイブルーのドレスのご令嬢が、先ほどから何度も話に登場している「リリー」。
"聖女様"と呼ばれていて、光の魔法を使うことができる少女だ。
第一王子と、聖女。
第二王子と、公爵令嬢。
役者はバッチリ揃っている。
「まず、一つ目。学院で、ロベリアが聖女リリーを突き飛ばしたとされる件。これに関しては、"そのような事実はなかった"とする目撃者がおります」
「…………ええ、その通りです」
現れた証言者に、場はざわついた。
王立学院の教師だったからだ。生半可な令嬢では、買収を疑われるやもしれない。だが、教師は爵位持ちの高位貴族の次男や三男がなる職だし、積み上げた信用というものが違う。
実際、この教師も伯爵家の次男だ。
「私はその場に居合わせました。素直に申し上げますが、そのような事実はありませんでした。聖女様が、足を自ら滑らせたのです」
「なっ…………!」
「待ってください、私は、本当にロベリア様に――――」
教師の証言に、いかにもな反応を示したのが、アルストロメリア殿下と聖女リリーである。なんで負け確定みたいな反応しかできねえんだ、コイツらは。
「まさか、本当に……?」
「確かに、あの罪状には思うところがあったが……」
ざわめきを発する貴族たち。
オレは、口を抑えた。喉の奥でくつりと漏れた笑みをなんとかぐっと、抑え込もうとしたが、まあ、無理だった。
「ふ、く、く、くくっ、くく……!!」
あーだめだ、笑いが止まらねえ。
いきなり笑い出したオレを、ブーゲンビリア殿下が睨み付けた。
「……口を慎め、レン・アルバス。第一王子の従者といえ、平民の貴様に発言が許されている場ではない」
「ああ、くく、そうですね。申し訳ありません。爵位持ちでもない、ただの騎士のオレが、貴族の皆々様の前で発言をしようということが、愚かでした!」
オレは、一歩進み出た。
アルストロメリア殿下が、やめろと言いたげにオレを見たが、止まる気はない。
「でも、主人の危機ですから。この矮小な私め、命を賭して望まなければと、そう思ったワケですよ。ブーゲンビリア殿下。まあなんか色々長そうなんで、途中で遮っちまいましたが、つまりあんたが言いたい事は、こうですよね?」
オレが言葉を紡げば、ロベリア公爵令嬢様が、怯えるようにブーゲンビリア殿下の服の裾をつまんだ。ああ全く、嫌な女だ。
「"ロベリアにリリーが冤罪を着せた!なのに、アルストロメリア殿下はそれを見抜けず、愚かにも婚約破棄をした!"――――次期国王としては致命的だ"ってね」
「…………そこまでは言っていないが、次期国王にしては軽率な判断ではないか?とは、思わざるを得ないだろう?あくまで、客観的に」
「はは、客観的にね。そのフィールドで戦いたいなら、いいでしょう!貴方が証明したいのは無罪。ならば、オレが証明するのは、"有罪"!我が主人の目が曇ってなどいないという、その証明!」
オレは、夜会に参列する王侯貴族たちを睨み付けた。どいつもこいつも、踊らされる馬鹿共ばかり。
だが、貴族たちは、平民のオレが発言することを止めもしない。面白がっている、いい証拠だ。
第一王子の従者と、第二王子が対立を始めたのだから。こんなに面白いことはない。ここでの立ち振る舞いが、アルストロメリア殿下の今後を決めるのだ。
――――なら、踊ってやる。
この茶番劇を、最も痛快なショーに変えてやるよ。
オレは、片足を引いて、胸の前に手を当てると恭しく一礼をした。
「――――このオレが、"本当に嫌がらせが存在した"証拠を、お見せ致しましょう!」
29
あなたにおすすめの小説
「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました
ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」
王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。
誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。
「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」
笑い声が響く。
取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。
胸が痛んだ。
けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。
何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました
さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。
そんな事ある日、父が、
何も言わず、メイドして働いてこい、
と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。
そこで、やっと人として愛される事を知る。
ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。
そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。
やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。
その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。
前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。
また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m
気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました
みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。
前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。
同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。
それは立派な『不正行為』だ!
柊
恋愛
宮廷治癒師を目指すオリビア・ガーディナー。宮廷騎士団を目指す幼馴染ノエル・スコフィールドと試験前に少々ナーバスな気分になっていたところに、男たちに囲まれたエミリー・ハイドがやってくる。多人数をあっという間に治す治癒能力を持っている彼女を男たちは褒めたたえるが、オリビアは複雑な気分で……。
※小説家になろう、pixiv、カクヨムにも同じものを投稿しています。
私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます
・めぐめぐ・
恋愛
公爵令嬢であるアンティローゼは、婚約者エリオットの想い人であるルシア伯爵令嬢に嫌がらせをしていたことが原因で婚約破棄され、彼に突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んでしまった。
気が付くと闇の世界にいた。
そこで彼女は、不思議な男の声によってこの世界の真実を知る。
この世界が恋愛小説であり《読者》という存在の影響下にあることを。
そしてアンティローゼが《悪役令嬢》であり、彼女が《悪役令嬢》である限り、断罪され死ぬ運命から逃れることができないことを――
全てを知った彼女は決意した。
「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」
※全12話 約15,000字。完結してるのでエタりません♪
※よくある悪役令嬢設定です。
※頭空っぽにして読んでね!
※ご都合主義です。
※息抜きと勢いで書いた作品なので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです(笑)
【完結】運命の赤い糸が見えるようになりまして。
櫻野くるみ
恋愛
伯爵令嬢のアリシアは目を瞬かせていた。
なぜなら、突然赤い糸が見えるようになってしまったからだ。
糸は、幼馴染のジェシカの小指からびろーんと垂れていて——。
大切な幼馴染のために、くっつけおばさん……もとい、くっつけ令嬢になることを決意したアリシア。
自分の小指に赤い糸が見えないことを気にかけつつも、周囲の幸せのために行動を始める。
すると、アリシア本人にも——?
赤い糸が見えるようになったアリシアが、ハッピーエンドを迎えるお話です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【婚約者がいるなんて知りませんが!?】おバカ王子となんとか別れたい私
チュンぽよ
恋愛
おバカな王子が、健気で誠実な婚約者を捨てて、カフェで出会っただけの平凡な女に乗り換えてしまう。そんな世界の登場人物に転生してしまった女の子の物語。
【完結】最後に笑ったのは誰だったのだろうか。
金峯蓮華
恋愛
「最後に笑うのは貴方様なのですよ。何かあってもどんなことがあっても最後に笑うのは貴方様なのです」
あの時、占い師は私が引いたカードをめくりそう言った。
そのカードには笑っている大きな口の絵が書いてあった。
最後に笑うというのはどういうことなのか、まだ幼かった私にはよくわからなかった。
架空の異世界の物語です。
さて、本当に最後に笑えるのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる