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しおりを挟む「確認したいんだけど、煌さんときちんと腹を割って話すっていう選択肢はないんだな?」
「……うん」
怪我をさせた責任を取らなくても良いと、約束を守ってくれなくても良いといくら言っても、煌はきっと納得してくれないだろうと知っている唯が、下を見ながら頷く。
それを見ては、めんどくさい奴ら。と雫が眉間を皺を寄せ、それから溜め息を吐いた。
「仕方ないから、俺が協力してやる」
「っ! じゃあ、僕の話を聞き入れてくれるアルファさんを紹介してくれるの!?」
だなんて途端にパァッと表情を明るくし、唯が期待でキラキラと瞳を輝かせる。
その眩しさとは裏腹にあまりにも恐ろしい事を発言していると自覚がない唯の様子がやはりちぐはぐで、雫は唯のおでこにすっと指を伸ばし、デコピンをした。
「あうっ!!」
「ちげぇよ。そんな危ない事させられる訳ないだろ。それに、幼馴染みとしてこれからも側に居る気なんだろ? それなのにすぐお前が番を解除されたってなったら、煌さんは余計お前の面倒を一生見るって言うと思うけどね」
「……う、た、たしかに」
「だから、お前の覚悟云々は置いといて、その作戦は全てにおいてゴミ。却下」
「ゴ、ゴミッ!?」
全てにおいてゴミ。だなんて強い言葉で否定された唯が、一生懸命考えたのに!? とショックで目を見開く。
しかし当たり前だと言わんばかりに雫は唯を睨みながら、口を開いた。
「それに何も別に今日明日でどうこうしないとって話でもないだろ。付き合うでも、ましてや番になるって言ったわけでもなく、好きな人が居るって言っただけなんだし」
「……あ、確かにそうだね」
雫の言葉にパチパチと瞬きをし、それはそうだ。と唯が考えつきもしなかったというような表情をする。
それに、どうなってんだお前の頭は。と雫が呆れれば、唯は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「えへへ。ほんとだよね」
「何をそんなに焦ってたんだか」
「そうだよねぇ」
同意するよう笑い、しかし唯がどこか名残惜しむような表情をしては、少しだけ俯く。
「……実はね、明日が僕の二十歳の誕生日なんだ。その日に番になろうって煌くんとずっと話してて。だから、その日にようやく番になれるんだってずっと夢見てたから、二十歳に番になるって変に固定観念みたくなっちゃってたのかも。もう煌くんと番にはなれないし、何の意味もないのにね。あはは」
だなんて言っては、パッと顔をあげ、あっけらかんと笑う唯。
念願の夢があと一歩で叶うという時に、突然突き付けられた真実。それを脳では理解しているのに心が拒否しているのか、それが変な勘違いと焦りを起こしていたのかもしれない。と唯は何とも言えない気持ちになりながらも、今の自分の間抜けさにポリポリと恥ずかしそうに頬を掻いた。
「……うーん、でもその作戦が出来ないとなると僕はどうすれば……、僕が誰かと番にならないと煌くんが幸せになれるチャンスがどんどん遅れちゃうしなぁ……」
なんて、またしても自分の事を蔑ろにするような発言をしつつ、唯がうんうんと唸っている。
そんな唯を見て、本当にどこまでも馬鹿な奴だな。と思いながらも、雫はふと閃き、にやりと笑った。
「俺のこと、煌さんに話した事ある?」
「え、うんもちろん! すっごく優しくて綺麗な人と友達になれたって!」
「っ……、お前よくそんな事恥ずかしげもなく人に言えるな……」
「えぇ、だって事実だし」
「……まぁいいや。じゃあ俺がキツネって事は?」
「それは言った事ないかなぁ」
「おっ、よし。それは更に好都合だわ」
「へ?」
「お前、今日の夜暇?」
「え、うん」
「よし。じゃあ七時にここの前に集合な」
携帯を取り出し、トントン。と画面を叩いては、ここ。と示す雫。
その突然なお誘いに唯が一瞬だけ呆け、画面を覗き込み、それから首を傾げた。
「どこに行くの?」
「まぁまぁ」
不思議がる唯に何も言わず、雫はにやにやと笑うばかりで。
その何かを含んだような笑みに、唯は少しばかり嫌な予感で冷や汗を掻きつつ、分かった。と頷いたのだった。
***
──そうして、突然訳も分からぬまま約束をされ、唯が家からさほど遠くない場所で待つ事、数分。
普段夜に出歩く事などあまりなく、そしてそういう時は必ず煌が側に居た唯は、初めての心細さに思わずギュッとリュックサックの紐を強く握り、雫が来るのを待った。
空はもうすっかり藍色に染まり、星が瞬き始めている。
けれどその美しさを隠すよう街の電光掲示板が所狭しと並び明るく輝いていて、人々は絶えず歩き流れ続けているその忙しない様子に、唯はそわそわと落ち着かない様子のまま、辺りを見回した。
沢山の知らない人と、様々な匂い。
それに唯が酔いそうになった頃、ようやく雫が姿を現し、唯は堪らず駆け寄った。
「しずくくぅん!!」
わっと泣き出しそうになりながら、唯が雫に抱きつく。
そんな熱烈な態度に雫は予想外だったのかピシリと固まり、ぎょっと目を見開いた。
「遅いよぉ!! 誘ってくれたの雫くんなのに!!」
だなんて不満を漏らしながらも、ぎゅむぎゅむと抱きついてくる唯。
そのパーソナルスペースも何もないゼロ距離と素直に気持ちを伝えてくる唯に、雫は最初びっくりとした顔をしていたが、徐々に表情を柔らかくした。
……こいつは本当に俺とは真逆の世界で生きてきたんだな。
なんて雫は思いながらも、気まずそうにキョロキョロと視線をさ迷わせ、手をおろおろとさせたあと、それでも最後はそっと優しく唯の背中に手を置いたのだった。
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