あなたは僕の運命なのだと、

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 煌と唯が互いへの様々な想いを抱えたまま、呆気なく番の約束を解消した、翌日。

 今日は講義が三限目しかなかった唯だったが、朝早くに起き、支度を整え、それから一人でバスに乗って、大学へと向かった。

 バスに乗っている間ずっと、このお店煌くんと行った事あるなぁ。や、煌くんと行ってみたいなぁ。なんて窓の外を眺めては考えてしまい、慌てて一人ブンブンと首を振っていた唯は、煌くん離れがまだ出来ないや。なんて落ち込みながらも、意気込むよう、大学内へと足を進めた。


 それから数歩行くだけでキョロキョロと視線をさ迷わせ、鼻をクンクンとさせた唯が、突如目を見開き足を止める。
 そこで一瞬だけ眉間に皺を寄せたが、しかし唯は想いを絶ち切るよう一度深呼吸をし、足早にその方向へと向かった。


「あ、あの~……、」
「うわっ、え、な、なに……」
「あ、えっと、その、」
「ごめん、俺急いでるから」
「あっ、」

 唯がリュックサックの紐をギュッと握りながらおどおどと声を掛けるも、どこか居心地悪そうにそそくさと逃げていく、男の人。
 それに思わずホッとしてしまい、唯は今日何度目かも知らぬまま首をブンブンと横に振り、いやいやいや、違うでしょ僕! と自身を奮い立たせた。


 ──それから唯は大学内をふらふらと歩き回り、鼻をヒクヒクとさせ何人かの人に声をかけていったが、しかし誰もが同じような反応を返して去っていくばかりで。

 見事に出端を挫かれた唯が絶望からヨタヨタとした足取りで大学内を歩いていれば、向こうから歩いてきた雫とばったり出会い、声をかけられた。

「……何でお前はまたそんな顔をしてるわけ」
「へぁ……? あ、あぁ、雫くん、おはようぅ……」

 普段ならば、知り合いを見かけた瞬間パァッと電球のように明るくなる唯が、しおしおと萎びたまま、気の抜けた返事をする。
 それに雫は、……薄気味悪いな。という失礼な感想を抱きながら、ポリポリと頭の後ろを掻きつつ、口を開いた。

「……何かあったんなら、別に、話くらい聞くけど……」
「……へっ」
「な、何だよその顔」
「え、あ、いや、意外で……」
「お前やっぱすげー失礼だわ。それじゃ」
「あぅっ!! まって、まってごめんね!! 違うんだよぉ、嬉しかったんだよぉ!! それに手伝って欲しい事があるんだ!!」
「……なら最初からそう言え」

 じゃあ。と踵を返そうとした雫の服をむんずと掴み、行かないで! と喚く唯。
 そんな唯に、ようやく少しはいつも通りになったな。と雫は微かに笑いながら、どっか話せる所行くぞ。と歩き出したのだった。




 ***



「……で、別れた、と?」
「別れたっていうか、僕たちお付き合いしてた訳じゃないんだけど……、でも、そうだね……。うん、ちゃんとケジメを付けたんだ」

 ──今日はもう講義どころではないとサボり、ゆっくり話せる所に移動しよう。と二人が入った、お洒落で落ち着いたカフェ内。
 そこで途中途中言葉を詰まらせながらも、煌が飲み会に行った後に何が起こり、二人の関係がどうなったのかを唯が話していく。
 しかし雫はというと、いつかの時と同じよう呆れを通り越して呆気に取られた表情をしては、ズルッとずっこけた。

「……は、はぁ……。なるほど?」
「それでね、ここからが重要なんだけど、」

 雫の態度を気にせず、決意が宿る眼差しで唯が一度言葉を区切り、それから一呼吸置いたあと、向かいに座る雫にずずいっと顔を近付けた。

「僕を、仮の番にしてくれる人を探してるんだ」
「……は?」
「ほら、煌くんってすっごく責任感が強いでしょ? だから、僕が誰かと番になるまで、自分の幸せは二の次にしちゃうと思うんだ」

 そう話す唯に、いや知らねーよ。と思わずツッコミを入れたくなりながらも雫が黙って聞いていれば、唯はとんでもない事を話し出した。

「きっと、誰かにただ恋人のフリをしてもらうのは駄目なの。番っていう揺るぎない絆を誰かと結ばないと、煌くんは安心出来ないと思うんだよね。だから、誰でも良いから僕のうなじを噛んでくれるアルファの人を探してるんだ」

 なんて、本当に何て事のないような口振りで話す唯。
 しかし雫はその言葉にぞわりと全身に鳥肌を立たせ、無意味だが咄嗟にタートルネックで覆われている自分の首を両手で守った。

「……は、いや、おかしいだろ……。そんな、誰でも良いって、お前……」
「もちろん煌くんに見せたあとはすぐに番の解除をしてもらうし、お相手さんには絶対迷惑をかけないようにするって決めてるんだけど、でもそういう人を探して朝から声をかけてるんだけど、何だかみんな僕を避けるんだよね……」
「……言いたい事は色々あるけど、それは、そうだろ……」
「えぇ、なんで? この話をする前から避けられちゃうんだよ? そんなに僕って怪しい人に見えるの!?」

 どこからどう見ても人畜無害で、なんなら風が吹けば飛ばされてしまいそうなほどぽやぽやとした見た目の唯に、そこじゃないだろと雫は眉間に皺を寄せた。

「そうじゃなくて……、お前、自分が今どんな服着てるのか分かってる?」
「え? ……ハッ!」
「そんなどぎついアルファの匂いさせてるオメガに近寄ってこられても、トラブルに巻き込まれそうだって避けるに決まってるだろ」

 唯が無意識で着ていた服、それは煌のパーカーで。
 そもそも唯の部屋には煌の服が溢れており(唯が常々煌から服を強奪していたともいう)、本当に無意識に無作為に選んだその服は当たり前に煌の匂いが染み込んでいて、それがアルファの人たちから避けられた原因だと気付いた唯は、頭を抱えた。

「あぁぁ!! 僕ってば何やってるんだろう……!!」
「ほんとだよ。てかほんと怖いってお前。知らないアルファにうなじを噛んでもらおうとするとかあり得ないだろ。それがどういう事か、ちゃんと分かってんの?」
「……分かってるよぉ」
「分かってないよ」


 ──アルファとオメガにのみ存在する、強い結びつき。

 それが番であり、オメガはアルファにうなじを噛まれると、もう一生他の人と番になる事は出来ない。
 そしてそれはアルファから番の解除をされた後でも変わらず、何より人生の伴侶を失い狂ってしまうオメガも居る程、番とは強い結びつきなのだ。
 それだというのに、どこぞの誰とも知らぬ奴に噛まれすぐに解除されても良いと言う唯に、雫は珍しく真剣な眼差しで、強く否定した。

 じっと見つめてくる雫の、少しつり上がった、薄茶色の綺麗な瞳。

 その瞳は純粋に唯を心配する憤りに溢れていて、……本当に優しいなぁ。なんて唯はにへらと笑ったあと、それでも真っ直ぐ雫を見つめ返した。

「分かってるよ。ありがとう。でも本当に大丈夫だから」
「っ、なんでそこまで……」
「僕は煌くんの幸せが何よりも第一優先だからだよ」

 穏やかに微笑み、そう言いきる唯は、息を飲むほど美しくて。

 その神々しいまでの純真さと底知れぬ愛に、雫は目を見開き、それから脱力したよう、笑った。

「……ほんとすごいよお前……」

 ぽつり。小さくそう呟いた雫の声は唯に届かず、ん? と唯が首を傾げる。
 それに、何でもない。と首を振り、それから雫は、しょうがないな。と言うよう、先ほどの唯と同じようにずずいっと唯へと身を寄せた。




 
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