11 / 28
11
しおりを挟む煌と唯が互いへの様々な想いを抱えたまま、呆気なく番の約束を解消した、翌日。
今日は講義が三限目しかなかった唯だったが、朝早くに起き、支度を整え、それから一人でバスに乗って、大学へと向かった。
バスに乗っている間ずっと、このお店煌くんと行った事あるなぁ。や、煌くんと行ってみたいなぁ。なんて窓の外を眺めては考えてしまい、慌てて一人ブンブンと首を振っていた唯は、煌くん離れがまだ出来ないや。なんて落ち込みながらも、意気込むよう、大学内へと足を進めた。
それから数歩行くだけでキョロキョロと視線をさ迷わせ、鼻をクンクンとさせた唯が、突如目を見開き足を止める。
そこで一瞬だけ眉間に皺を寄せたが、しかし唯は想いを絶ち切るよう一度深呼吸をし、足早にその方向へと向かった。
「あ、あの~……、」
「うわっ、え、な、なに……」
「あ、えっと、その、」
「ごめん、俺急いでるから」
「あっ、」
唯がリュックサックの紐をギュッと握りながらおどおどと声を掛けるも、どこか居心地悪そうにそそくさと逃げていく、男の人。
それに思わずホッとしてしまい、唯は今日何度目かも知らぬまま首をブンブンと横に振り、いやいやいや、違うでしょ僕! と自身を奮い立たせた。
──それから唯は大学内をふらふらと歩き回り、鼻をヒクヒクとさせ何人かの人に声をかけていったが、しかし誰もが同じような反応を返して去っていくばかりで。
見事に出端を挫かれた唯が絶望からヨタヨタとした足取りで大学内を歩いていれば、向こうから歩いてきた雫とばったり出会い、声をかけられた。
「……何でお前はまたそんな顔をしてるわけ」
「へぁ……? あ、あぁ、雫くん、おはようぅ……」
普段ならば、知り合いを見かけた瞬間パァッと電球のように明るくなる唯が、しおしおと萎びたまま、気の抜けた返事をする。
それに雫は、……薄気味悪いな。という失礼な感想を抱きながら、ポリポリと頭の後ろを掻きつつ、口を開いた。
「……何かあったんなら、別に、話くらい聞くけど……」
「……へっ」
「な、何だよその顔」
「え、あ、いや、意外で……」
「お前やっぱすげー失礼だわ。それじゃ」
「あぅっ!! まって、まってごめんね!! 違うんだよぉ、嬉しかったんだよぉ!! それに手伝って欲しい事があるんだ!!」
「……なら最初からそう言え」
じゃあ。と踵を返そうとした雫の服をむんずと掴み、行かないで! と喚く唯。
そんな唯に、ようやく少しはいつも通りになったな。と雫は微かに笑いながら、どっか話せる所行くぞ。と歩き出したのだった。
***
「……で、別れた、と?」
「別れたっていうか、僕たちお付き合いしてた訳じゃないんだけど……、でも、そうだね……。うん、ちゃんとケジメを付けたんだ」
──今日はもう講義どころではないとサボり、ゆっくり話せる所に移動しよう。と二人が入った、お洒落で落ち着いたカフェ内。
そこで途中途中言葉を詰まらせながらも、煌が飲み会に行った後に何が起こり、二人の関係がどうなったのかを唯が話していく。
しかし雫はというと、いつかの時と同じよう呆れを通り越して呆気に取られた表情をしては、ズルッとずっこけた。
「……は、はぁ……。なるほど?」
「それでね、ここからが重要なんだけど、」
雫の態度を気にせず、決意が宿る眼差しで唯が一度言葉を区切り、それから一呼吸置いたあと、向かいに座る雫にずずいっと顔を近付けた。
「僕を、仮の番にしてくれる人を探してるんだ」
「……は?」
「ほら、煌くんってすっごく責任感が強いでしょ? だから、僕が誰かと番になるまで、自分の幸せは二の次にしちゃうと思うんだ」
そう話す唯に、いや知らねーよ。と思わずツッコミを入れたくなりながらも雫が黙って聞いていれば、唯はとんでもない事を話し出した。
「きっと、誰かにただ恋人のフリをしてもらうのは駄目なの。番っていう揺るぎない絆を誰かと結ばないと、煌くんは安心出来ないと思うんだよね。だから、誰でも良いから僕のうなじを噛んでくれるアルファの人を探してるんだ」
なんて、本当に何て事のないような口振りで話す唯。
しかし雫はその言葉にぞわりと全身に鳥肌を立たせ、無意味だが咄嗟にタートルネックで覆われている自分の首を両手で守った。
「……は、いや、おかしいだろ……。そんな、誰でも良いって、お前……」
「もちろん煌くんに見せたあとはすぐに番の解除をしてもらうし、お相手さんには絶対迷惑をかけないようにするって決めてるんだけど、でもそういう人を探して朝から声をかけてるんだけど、何だかみんな僕を避けるんだよね……」
「……言いたい事は色々あるけど、それは、そうだろ……」
「えぇ、なんで? この話をする前から避けられちゃうんだよ? そんなに僕って怪しい人に見えるの!?」
どこからどう見ても人畜無害で、なんなら風が吹けば飛ばされてしまいそうなほどぽやぽやとした見た目の唯に、そこじゃないだろと雫は眉間に皺を寄せた。
「そうじゃなくて……、お前、自分が今どんな服着てるのか分かってる?」
「え? ……ハッ!」
「そんなどぎついアルファの匂いさせてるオメガに近寄ってこられても、トラブルに巻き込まれそうだって避けるに決まってるだろ」
唯が無意識で着ていた服、それは煌のパーカーで。
そもそも唯の部屋には煌の服が溢れており(唯が常々煌から服を強奪していたともいう)、本当に無意識に無作為に選んだその服は当たり前に煌の匂いが染み込んでいて、それがアルファの人たちから避けられた原因だと気付いた唯は、頭を抱えた。
「あぁぁ!! 僕ってば何やってるんだろう……!!」
「ほんとだよ。てかほんと怖いってお前。知らないアルファにうなじを噛んでもらおうとするとかあり得ないだろ。それがどういう事か、ちゃんと分かってんの?」
「……分かってるよぉ」
「分かってないよ」
──アルファとオメガにのみ存在する、強い結びつき。
それが番であり、オメガはアルファにうなじを噛まれると、もう一生他の人と番になる事は出来ない。
そしてそれはアルファから番の解除をされた後でも変わらず、何より人生の伴侶を失い狂ってしまうオメガも居る程、番とは強い結びつきなのだ。
それだというのに、どこぞの誰とも知らぬ奴に噛まれすぐに解除されても良いと言う唯に、雫は珍しく真剣な眼差しで、強く否定した。
じっと見つめてくる雫の、少しつり上がった、薄茶色の綺麗な瞳。
その瞳は純粋に唯を心配する憤りに溢れていて、……本当に優しいなぁ。なんて唯はにへらと笑ったあと、それでも真っ直ぐ雫を見つめ返した。
「分かってるよ。ありがとう。でも本当に大丈夫だから」
「っ、なんでそこまで……」
「僕は煌くんの幸せが何よりも第一優先だからだよ」
穏やかに微笑み、そう言いきる唯は、息を飲むほど美しくて。
その神々しいまでの純真さと底知れぬ愛に、雫は目を見開き、それから脱力したよう、笑った。
「……ほんとすごいよお前……」
ぽつり。小さくそう呟いた雫の声は唯に届かず、ん? と唯が首を傾げる。
それに、何でもない。と首を振り、それから雫は、しょうがないな。と言うよう、先ほどの唯と同じようにずずいっと唯へと身を寄せた。
58
あなたにおすすめの小説
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる