【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第30話 完璧な一日

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第30話 完璧な一日

土曜日の朝、私は特別な思いで目を覚ました。

今日は美咲との新緑デートの日。そして、胸のポケットには小さな箱が入っている。今日という日が、私たちにとってどれほど重要な日になるかを思うと、緊張で胸が高鳴った。

待ち合わせ場所で美咲を見つけた時、彼女の美しさに改めて見惚れてしまった。薄い緑色のワンピースに白いカーディガンを羽織って、新緑の季節にぴったりの装いだった。

「お疲れさまでした」

「美咲さん、とても素敵です」

「ありがとうございます。佐藤さんも素敵です」

私たちは電車に乗って、目的地に向かった。

「どちらに行くんですか?」

「高尾山です」

「高尾山!いいですね」

「新緑の季節の高尾山は、本当に美しいんです」

電車の中で、私たちは楽しく会話した。最近の仕事のこと、将来の夢、そして他愛もない日常の話。こんな何気ない時間が、どれほど貴重かを実感していた。

---

高尾山に到着すると、予想通り美しい新緑が迎えてくれた。

「わあ、本当にきれいですね」

美咲が感嘆の声を上げた。

「でしょう?この季節の高尾山が一番好きなんです」

私たちはケーブルカーに乗って、山頂を目指した。途中の景色も素晴らしく、美咲は終始楽しそうだった。

「佐藤さん、こんな素敵な場所を教えてくれてありがとうございます」

「喜んでもらえて良かったです」

山頂で、私たちは東京の街を見渡した。

「こうして見ると、私たちの会社も見えますね」

「どこかで一生懸命働いている人たちがいるんですね」

「でも今日は、仕事のことは忘れましょう」

美咲が笑顔で答えた。

---

昼食は山頂のレストランで取った。窓際の席で、景色を眺めながらの食事は格別だった。

「美味しいですね」

「本当に。景色も料理も最高です」

そんな会話をしながら、私は今日という日の特別さを改めて感じていた。

食事の後、私たちは少し散歩することにした。新緑の小径を歩きながら、自然の美しさを満喫した。

「佐藤さん」

「はい」

「私たち、本当にいろんなことがありましたね」

美咲が振り返るように言った。

「そうですね。最初に隣の席に座った日から、もう一年以上経ちました」

「あの頃は、まさかこんな関係になるなんて思いませんでした」

「僕もです。でも、運命だったのかもしれません」

「運命...素敵な言葉ですね」

私たちは小さな展望台で足を止めた。そこからの景色は息をのむほど美しかった。

「美咲さん」

「はい」

私は意を決して、胸のポケットから小さな箱を取り出した。

美咲の目が大きく開いた。

「佐藤さん、これは...」

「美咲さん、僕と結婚してください」

静かに、でもはっきりとした声で、私は人生で最も大切な言葉を口にした。

美咲の目に涙が浮かんだ。

「佐藤さん...」

「指先が触れる距離から始まった僕たちの関係を、もっと深いものにしたいんです」

「佐藤さん...」

美咲の声が震えていた。

「一緒に人生を歩んでいきませんか?」

長い沈黙があった。私の心臓は激しく鼓動していた。

「はい」

美咲が小さく、でもはっきりと答えた。

「本当ですか?」

「はい。私も佐藤さんと一生一緒にいたいです」

その瞬間、私の世界が変わった。

「ありがとうございます」

私は震える手で、指輪を美咲の指にはめた。小さなダイヤモンドが、新緑の光に美しく輝いていた。

「きれい...」

美咲が指輪を見つめながらつぶやいた。

「美咲さんに似合うように選びました」

「ありがとうございます。大切にします」

私たちは自然に抱き合った。周りの美しい自然に包まれて、人生で最も幸せな瞬間を迎えていた。

---

山を下りる帰り道、私たちは婚約者同士として歩いていた。

「まだ夢みたいです」

美咲が嬉しそうにつぶやいた。

「僕もです。でも現実です」

「本当に、私なんかでいいんですか?」

「美咲さん以外、考えられません」

電車の中で、私たちは将来のことを話した。結婚式のこと、新居のこと、そして二人で築いていく人生のこと。

「佐藤さん、私たちの結婚式、どんな風にしましょうか?」

「美咲さんの希望を聞かせてください」

「家族と親しい友人だけの、温かい式がいいです」

「素晴らしいアイデアです。僕も同じことを考えていました」

---

夕方、私たちは東京駅で別れた。

「今日は本当にありがとうございました。人生で一番幸せな日でした」

「僕も同じです。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

美咲が指輪を見つめながら微笑んだ。その笑顔が、世界で一番美しく見えた。

家に帰る電車の中で、私は今日一日のことを振り返った。完璧な一日だった。美しい自然、美味しい食事、そして人生で最も大切な瞬間。

指先が触れる距離から始まった私たちの物語は、今日新しい章を迎えた。これからは夫婦として、より深い絆で結ばれて人生を歩んでいく。

窓に映る自分の顔が、この上ない幸福感に満ちているのが見えた。

美咲との新しい人生が、明日から始まる。そう思うだけで、胸が熱くなった。
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