【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第29話 深まる絆

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第29話 深まる絆

東京に戻って三週間が経った。

新しいプロジェクトも軌道に乗り、美咲との日常も完全に元のリズムを取り戻していた。でも「元のリズム」と言っても、以前とは明らかに違う深さがあった。

「佐藤さん、昨日のプレゼンテーション、とても良かったですね」

朝のコーヒーを飲みながら、美咲が昨日の会議について話した。

「ありがとうございます。美咲さんが作ってくれた資料があったからです」

「私の資料が役に立って良かったです」

私たちは今、お互いのプロジェクトでサポートし合う関係になっていた。恋人同士でありながら、仕事のパートナーでもある。

「美咲さんの企画力、本当にすごいです。本社に来て、さらに才能が開花しましたね」

「佐藤さんにそう言ってもらえると、自信が持てます」

美咲の成長ぶりは目を見張るものがあった。以前の控えめだった彼女から、積極的で創造的な企画者へと変わっていた。

---

昼休み、私たちは新しくできたカフェに行ってみることにした。

「ここ、雰囲気いいですね」

「本当に。窓からの眺めも素敵です」

テーブルに座って、私たちは最近のことを話した。

「佐藤さん、今度の国際プロジェクト、大変そうですね」

「そうですね。でも、やりがいがあります」

「海外出張もあるんですか?」

「来月、ロンドンとニューヨークに行く予定です」

美咲の表情が少し曇った。

「長期間ですか?」

「二週間程度の予定です」

「そうですか...」

美咲の不安を察して、私は手を伸ばした。テーブルの上で、私たちの手が重なった。

「美咲さん、大丈夫です。今度は違います」

「違うって?」

「今の僕たちなら、どんな距離も乗り越えられます」

美咲は少し安心したような笑顔を見せた。

「そうですね。もう不安になることはないですよね」

「はい。僕たちは強くなりました」

---

その夜、私は美咲と電話で話していた。最近は、一緒に帰ることが多くなったが、今日は私の方が残業で遅くなってしまった。

「お疲れさまでした」

「美咲さんも。今日も遅くまで働いていたんですか?」

「新しいプロジェクトの準備で。でも、充実しています」

「無理しないでくださいね」

「佐藤さんこそ。最近、すごく忙しそうで」

私たちはお互いを気遣いながら、近況を報告し合った。

「美咲さん」

「はい」

「今度の休日の件ですが、新緑を見に行く話」

「はい、楽しみにしています」

「実は、特別な場所を考えているんです」

「特別な場所?」

「秘密です。でも、きっと気に入ってもらえると思います」

美咲の楽しそうな声が聞こえた。

「秘密なんて、ずるいです」

「当日のお楽しみということで」

---

金曜日の夜、同僚の田中さんから飲み会の誘いがあった。

「佐藤さん、美咲さんも一緒にどうですか?」

最近、私たちが恋人同士だということは、職場でも周知の事実となっていた。特に隠すつもりもなかったし、周りも自然に受け入れてくれていた。

「ありがとうございます。参加させていただきます」

飲み会では、私たちの遠距離恋愛の経験が話題になった。

「大変だったでしょう?」

「正直、辛い時期もありました」

美咲が率直に答える。

「でも、乗り越えられて良かったですね」

「はい。お互いを深く理解できました」

私も続けて答えた。

「素敵な関係ですね」

山田さんが感慨深そうに言った。

「ありがとうございます」

周りの温かい祝福を受けて、私たちは改めて自分たちの関係の特別さを実感した。

---

帰り道、私たちは並んで歩いた。

「今日は楽しかったですね」

「はい。みなさん、私たちのことを応援してくださって」

「美咲さん、僕たち本当に幸せですね」

「そうですね。こんなに幸せでいいのかなって、時々思います」

「いいんですよ。僕たちは、幸せになる権利があります」

駅で別れる時、美咲が振り返った。

「佐藤さん、明日の約束、本当に楽しみです」

「僕も楽しみです。きっと素敵な一日になります」

電車の中で、私は明日のプランを最終確認した。新緑の美しい場所で、美咲に大切な話をしたい。そう思っていた。

指先が触れる距離から始まった私たちの関係は、今では心の奥底まで通じ合う関係になっていた。

そして明日は、さらに新しい段階に進む日になるかもしれない。

そんな予感を抱きながら、私は家路に着いた。胸の内ポケットには、小さな箱が入っていた。明日、この箱を美咲に渡すつもりだった。

長い時間をかけて育んできた愛情を、形にする時が来たのかもしれない。

窓に映る自分の顔が、緊張と期待で輝いているのが見えた。
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