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4.庭で起こったこと
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私はハルベルト様に、ボルガン公爵家の屋敷の庭まで連れて来られた。
足を止めた彼は、草木の陰から周囲を見渡している。どうやら、見つかりたくはないようだ。
「あの、ハルベルト様、少しよろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「なんですかって……」
特に説明もなく私を連れまわしているハルベルト様だが、その言葉は端的なものであった。
時間がないと言っていたが、その辺りの事情はまだ変わっていないということだろうか。ここでの停滞も、彼にとっては望む所ではないのかもしれない。
「ソフィーナ嬢、どうか隠れてください」
「え?」
「父上です。見つかったらまずいですからね……」
ハルベルト様に促されて、私はとりあえず身を隠す。
するとそれから程なくして、近くをボルガン公爵が女性とともに通り過ぎて行った。あれが例の踊り子ということだろうか。
「しかし驚いたな、君が訪ねて来るとは……」
「突然すみません。しかしどうしても、ボルガン公爵にお話ししておきたいことがあったので……」
「いやいや、君ならいつでも歓迎だよ」
踊り子らしい女性は、ボルガン公爵と親しそうに話していた。
しかしその表情を見るに、心から笑っている訳ではないような気がする。
隣にいるハルベルト様も、険しい表情をしている。父親の浮気現場は慣れているだろうに、それでもやはり不快なものなのだろうか。
「父上が外を歩くなんて、意外だ……」
「ハルベルト様、事情を説明していただけませんか?」
「あなたにはここから立ち去ってもらいます。馬車は手配してありますから、どうかスウェンリー男爵家にお帰りください」
「……」
ハルベルト様の発言に、私はなんとか声を出さなかった。
しかし、それは驚くべきことであった。今からスウェンリー男爵家の屋敷に戻らされるなんて、思ってもいないことだ。
「こ、困ります、そんなのは……」
「困る? それはボルガン公爵家に取り入るという話ですか? それは元より無理な話です。父上にそのような気はありません」
「それはわかっていました。でも、その……」
スウェンリー男爵家に戻ると、お父様から小言を言われることになるだろう。
ただそれは、特に問題ではない。慣れているし、何も思わず聞き流せるはずだ。
問題なのは、セフィーナのことである。突き放すようなことを言ってから、私は彼女と話していない。しばらく会うことはないだろうし、それで平気だと思って家を出て来た。
今の私は、セフィーナとどういう顔をして話せばいいかわからない。故にできるだけ、実家に戻りたくはないのだ。
「しかし、話したいこととはなんだね?」
「……ボルガン公爵は、私のことを何もご存知ないのですね?」
「む? そうかもしれないな。しかしそれは、これから知っていけば良いことだ。何も問題はあるまい」
「そうやって、誰でも口説いているのですね、あなたは……」
「ぬう?」
私が自分の身の振り方について考えていると、ボルガン公爵と女性の会話の雲行きが、少しおかしくなっていた。
それに気付いたのか、ハルベルト様の表情も変わった。その表情から、現状が良くない状況であるということが伝わってくる。
「許さない、あなただけは絶対に……」
「お前、何を――ふぐっ」
踊り子の女性は、ボルガン公爵の口に素早く布を当てた。
それからすぐに、彼の体から力が抜ける。どうやらあれには、薬物の類が仕込まれていたようだ。
それを見てハルベルト様は、頭を抱えていた。だが彼の表情に、驚きは少ない。
彼にとって女性の行動は、予想外ではあるのだろう。しかし想像の範疇を外れている訳ではない。つまり二人は、繋がっているということなのだろう。
足を止めた彼は、草木の陰から周囲を見渡している。どうやら、見つかりたくはないようだ。
「あの、ハルベルト様、少しよろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「なんですかって……」
特に説明もなく私を連れまわしているハルベルト様だが、その言葉は端的なものであった。
時間がないと言っていたが、その辺りの事情はまだ変わっていないということだろうか。ここでの停滞も、彼にとっては望む所ではないのかもしれない。
「ソフィーナ嬢、どうか隠れてください」
「え?」
「父上です。見つかったらまずいですからね……」
ハルベルト様に促されて、私はとりあえず身を隠す。
するとそれから程なくして、近くをボルガン公爵が女性とともに通り過ぎて行った。あれが例の踊り子ということだろうか。
「しかし驚いたな、君が訪ねて来るとは……」
「突然すみません。しかしどうしても、ボルガン公爵にお話ししておきたいことがあったので……」
「いやいや、君ならいつでも歓迎だよ」
踊り子らしい女性は、ボルガン公爵と親しそうに話していた。
しかしその表情を見るに、心から笑っている訳ではないような気がする。
隣にいるハルベルト様も、険しい表情をしている。父親の浮気現場は慣れているだろうに、それでもやはり不快なものなのだろうか。
「父上が外を歩くなんて、意外だ……」
「ハルベルト様、事情を説明していただけませんか?」
「あなたにはここから立ち去ってもらいます。馬車は手配してありますから、どうかスウェンリー男爵家にお帰りください」
「……」
ハルベルト様の発言に、私はなんとか声を出さなかった。
しかし、それは驚くべきことであった。今からスウェンリー男爵家の屋敷に戻らされるなんて、思ってもいないことだ。
「こ、困ります、そんなのは……」
「困る? それはボルガン公爵家に取り入るという話ですか? それは元より無理な話です。父上にそのような気はありません」
「それはわかっていました。でも、その……」
スウェンリー男爵家に戻ると、お父様から小言を言われることになるだろう。
ただそれは、特に問題ではない。慣れているし、何も思わず聞き流せるはずだ。
問題なのは、セフィーナのことである。突き放すようなことを言ってから、私は彼女と話していない。しばらく会うことはないだろうし、それで平気だと思って家を出て来た。
今の私は、セフィーナとどういう顔をして話せばいいかわからない。故にできるだけ、実家に戻りたくはないのだ。
「しかし、話したいこととはなんだね?」
「……ボルガン公爵は、私のことを何もご存知ないのですね?」
「む? そうかもしれないな。しかしそれは、これから知っていけば良いことだ。何も問題はあるまい」
「そうやって、誰でも口説いているのですね、あなたは……」
「ぬう?」
私が自分の身の振り方について考えていると、ボルガン公爵と女性の会話の雲行きが、少しおかしくなっていた。
それに気付いたのか、ハルベルト様の表情も変わった。その表情から、現状が良くない状況であるということが伝わってくる。
「許さない、あなただけは絶対に……」
「お前、何を――ふぐっ」
踊り子の女性は、ボルガン公爵の口に素早く布を当てた。
それからすぐに、彼の体から力が抜ける。どうやらあれには、薬物の類が仕込まれていたようだ。
それを見てハルベルト様は、頭を抱えていた。だが彼の表情に、驚きは少ない。
彼にとって女性の行動は、予想外ではあるのだろう。しかし想像の範疇を外れている訳ではない。つまり二人は、繋がっているということなのだろう。
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