本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?

木山楽斗

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9.まずいこと

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「な、何故平気なんだ。あんなに派手にのけぞっておいて……」
「あれはわざとだ。殴られると同時に体を動かした」
「なっ、そんなことが……」

 シェリダン様は、武術の心得などがあるのかもしれない。
 殴られる瞬間に体を動かすなんて、きっと簡単なことではないだろう。それを瞬時に判断して行ったというのは、にわかには信じられないことだ。
 ただそうなると、彼はそこまで計算していたように思えてくる。ロンベルト様に手を出させる。その目的で、シェリダン様は煽っていたのかもしれない。

「しかしながら、一発は一発だ。これが高くつくということは、お前でも理解できるだろう」
「そ、それは……」

 シェリダン様の言葉に、ロンベルト様は目を泳がせた。
 幾分か冷静になってきたことにより、彼は自分がやったことがまずいことであると理解したようである。
 当然のことながら、人に手を出すというのは悪いことだ。今回の場合はさらに、相手が侯爵家の令息である。これは大問題だ。

「今回の件に関して、俺は抗議するとしよう」
「ぼ、僕が悪いというのか! 先に口を出してきたのはあなたの方だ!」
「認識の違いがあるようだな。俺からしてみれば、先に色々と言ってきたのはお前の方だ」

 ロンベルト様は、自分が先に突っかかったことをもう忘れているようだった。
 どうやら彼は、自分がやったことを棚に上げることが相当に好きなようだ。

 ロンベルト様は、とことん自分本位な人であるらしい。そのことを今まで私に悟らせなかったというのが、すごいことであるように思えてきた。
 もちろんそれは演技だったのだろうが、その時の彼の方が良い人だったといえる。ずっと演技していれば、一介の紳士でいられたというのに。

「もっとも、お前にはそのようなことを言っても無駄か……さて、どうする? 俺に手を出したことを謝罪するか?」
「しゃ、謝罪なんて誰が……」

 プライドが高いロンベルト様は、謝罪の言葉を口にしなかった。
 それはこの場において、悪手であるとしか言いようがないだろう。ここで謝罪していれば、状況はほんの少しではあるが、良くなかったかもしれない。

「謝罪しないというなら、ディレイル伯爵家にサンダイン侯爵家から正式な抗議が行くというだけだが、お前は今回の件に対する補償ができるのか?」
「そ、それくらいどうということかはない」
「そうか。そういうことなら、今度こそ通してもらおうか。これ以上、お前の愚かさというものを目の当たりにしていたくはない」
「……くっ!」

 ロンベルト様は、隣を通り抜けるシェリダン様に対して悔しそうな顔をしていた。
 それを見ながら、私は思い出す。私もすぐに、ラメルトン伯爵家の屋敷に帰らなければならないということを。
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