勝手に私が不幸だと決めつけて同情しないでいただけませんか?

木山楽斗

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14.婚約の申し出

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 お父様の話し合いたいという要請に、ラガルス伯爵家は快く応じてくれた。
 しばらく経ってから、オーデン伯爵家に二人の人物が訪ねてきた。ラガルス伯爵とルベルス様である。

 訪ねて来た二人と、私はお父様とともに対峙することになった。
 そこで感じたのは、二人の視線である。彼らの視線は、私の顔の痣に向いているのだ。

「なるほど、これがオーデン伯爵家の令嬢か」
「ええ、父上。彼女こそが、エレティア嬢です」
「ほう……」

 ルベルス様の言葉に、ラガルス伯爵は笑みを浮かべていた。
 それは、私のことをどこか馬鹿にした笑みだ。私に対する侮蔑の感情が、彼の表情にははっきりと表れている。

 その時点で、二人が私にとって好感が持てる人物ではないことが理解できた。
 この二人は、恐らく私を見下してみている。それなのに婚約を申し込んできたという事実は、考えるべきだろう。何かしらの思惑が隠れているかもしれない。

「考えたな。確かにこれならこのラガルス伯爵家の評価は上がる」
「……」

 ラガルス伯爵家の言葉に、私のお父様は眉をひそめていた。
 お父様はどちらかというと、穏やかな人である。滅多に怒らない温厚で優しい人だ。
 そのお父様が今、鋭い視線をラガルス伯爵に向けている。そのことに私は、少しだけ息を呑むことになった。

「エレティア嬢、こういうことを指摘するのは僕としても少々心苦しいことではあるが、しかしそれでも指摘しなければならないだろう。君のその痣のことだ」
「……もちろん、わかっています。この痣があることによって、私に色々な災難があったことは事実ですから」

 そこでルベルス様が、私の痣のことについて触れてきた。
 それ自体は、別に咎める必要があることとも思わない。婚約するのだから、避けては通れない問題であるからだ。

「自分で言うのもなんだが、僕は中々に慈悲深き男だ。君の境遇に対しては、正直言って同情している。可哀想な君は、きっと婚約者探しも難航していたことだろう。そこで僕は、君に手を差し伸べることに決めたのだ」

 続くルベルス様の言葉に、私は言葉を詰まらせることになった。
 彼は、とても晴れやかな表情で語っている。その言葉の内容に、嘘がある訳ではなさそうだ。
 恐らく彼は、本気で思っているのだろう。可哀想な私と婚約を結んでやると、明らかな上から目線でそう思っているのだ。

 そしてラガルス伯爵は、そんな私を娶ることによって、家の評価を高めようと画策している。
 この二人が持ち掛けてきた婚約は明るいものではない。私はそれを改めて理解するのだった。
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