旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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35.掃除はしたいが

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 諸々と仕事があるらしく、バルハルド様はエルガドとともにレスティア商会に行った。
 その間、私は家に一人ということになる。少し寂しい気もするが、今はこの時間を有効に使いたい所である。

「まあ、やっぱり掃除するべきよね……生活している限り、汚れる訳だし」

 ラプリードのこの家は、それなりの広さがある。掃除をするとなると、中々に骨が折れるというのが正直な所だ。
 とはいえ、貴族の屋敷の大きさを考えれば、そこまで広くはない。別に一人で掃除しても、そこまで時間はかからないだろう。
 問題は、私にそういった能力がないということだろうか。掃除なんて、今までは使用人に任せていた訳であるし。

「そうやって考えてみると、私には生活能力がないものね」

 バルハルド様を見ていると、なんというか自分が情けなくなってくる。
 今まで私は、貴族としての地位に甘えていたのだろう。もう少し自分で何かをするということを、身に着けるべきだ。
 だからこそ掃除などをやる気になった訳である。だが、方法を間違えた結果、何か取り返しのつかないようなことをしてしまう可能性を考えて、今は少し尻込みしてしまっているのだ。

「……あら?」

 そこで私は、戸を叩く音がしていることに気付いた。
 誰かが訪ねて来たのだろうか。これは私が対応しなければならない。
 来客の相手などは、貴族であっても行うために特に緊張する要素はないだろう。しかし一体、誰が訪ねてきたのだろうか。

「今、開けますから、少々お待ちください……」
「おやおや……」
「あ、えっと……」

 私が玄関まで行き戸を開けると、そこには初老の女性がいた。
 その女性は、私の顔を見て目を丸めている。そういう反応をされるとは思っていなかったので、私も少し面食らってしまう。
 ただ、考えてみればその反応はおかしいものでもない。ここがバルハルド様の家だと知っている人にとって、私は訳がわからない人物だからだ。

「どちら様、ですか?」
「ああ、ごめんなさい。私は、パルセットというものですが……」
「パルセットさん……ああ、バルハルド様からお聞きしています。この家の掃除などの管理をしてくださっている方ですよね?」
「ええ、そうですそうです」

 女性の名前を、私は聞いたことがあった。
 バルハルド様が話していたのである。自分がいない間この家を管理している人の名前が、パルセットであるということを。
 ただ、彼女が訪ねて来ると聞いてはいない。バルハルド様なら、予定を間違えるなんてこともないだろうし、どうしたのだろうか。
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