そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗

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 私は、今日もごろごろして過ごすつもりでした。
 部屋のドアが壊れて、別の部屋に移っても、私の生活に特に変化はない。そう思っていました。
 しかし、私の平和な日常を乱す存在が現れました。現聖女であるフェルムーナ・エルキアードが、私を訪ねて来たのです。

「で、何の用なんですか?」
「実は、あなたに相談がありまして……」
「相談……残念ながら、私はそういうのは苦手なんです。帰ってもらっていいですか?」
「シャルリナ、そう言わずに聞いてあげて」
「はあ、まあ、お姉様がそういうなら聞いてあげるだけはいいですけど……」

 フェルムーナ・エルキアードとの話し合いには、お姉様も参加してもらっています。
 というか、お姉様から同席させて欲しいと言ってきたのです。きっと、私をフォローしようとか、そういうことを考えているのでしょう。
 お姉様は、とても優しい人ですね。そういう所が、私は好きです。
 でも、今回に限って、その優しさは引っ込めておいて欲しかったですね。フェルムーナ・エルキアードは絶対に面倒なことを言ってきますよ。

「おほん。それでは、言わせてもらいますけど、聖女の仕事って、大変過ぎではありませんか?」
「え?」
「私、もう耐えられませんわ。いくら理想があったからといって、あんな大変な仕事はできません」

 彼女の言葉に、私は少し驚きました。
 意外と、根を上げるのが早いんですねこの人。あれだけなりたいとか言っていたんですから、もう少しくらい頑張るかと思っていたんですけど。
 まったく、私でももう少し頑張ったというのに、根気がない人ですね。あんなに鬱陶しい絡み方をしておいて、すぐにこれなんて信じられませんよ。
 まあ、でも、少しすっきりしました。現実を知って、いい気味って感じです。やっぱり、理想ばかりでは、駄目なんですよ。

「……まあ、あなたに耐えられなかったというなら仕方ありませんね。やめればいいんじゃないですか?」
「やめる……確かに、それも一つの選択ですけど、私は別の手段に頼るべきだと思っています」
「別の手段?」
「聖女の待遇の改善を求めるべきだと思うのです。あなたの力を貸していただけませんか? 一緒に、聖女の職務を正しい方向に導きましょう」
「うわあっ……」

 そこで、フェルムーナ・エルキアードは立ち上がりました。
 また、甘っちょろい理想論を振りかざそうということですか。ああ、面倒くさい。
 少し言うくらいで改善するなら、誰も苦労しませんよ。こういうのは凝り固まっていて、ちょっとやそっとじゃ変わらないものなんです。
 それをどうにかしようなんて、面倒じゃないですか。何より、どうして私がそんなことをしなければならないのでしょう。

 苦労して、もし聖女の待遇が改善しても、私には利益がないじゃないですか。得するのは、この人やこれから聖女になる人達です。
 なんか、それってむかつきます。私も苦労したんですから、先の人達も苦労してくださいよ。不公平じゃないですか。

「残念ですけど、私はそんなことはしたくありません」
「え?」
「あなたが勝手にやってください。私、もう聖女とかそういうことには関わらないと決めているので」

 私は、きっぱりと断ることにしました。
 早く帰ってくれませんかね、この人。
 ああ、でも、ここからさらに食い下がってくるんでしょうね。聖女だった時も、勝負しなければどうとか変なこと言ってきましたから。

「何を言っているんですか! この国の未来がかかっているのですよ!?」
「未来とか、正直どうでもいいんですよね。それって、私には関係ないじゃないですか」
「人々の未来のために、働きかけようとは思いませんの?」
「ちょっと、最近、体調が悪くてですね……」

 説得は無理そうですね。ここは、体調不良でやり過ごすしかありません。
 こういう理想ばかり掲げる人って、嫌ですね。対応が、面倒くさ過ぎます。
 自分が正しいとか思っているから、説得のしようがありません。こういう時に無難にやり過ごすには、どうしたらいいんでしょうか。

「あの……少しいいかな?」
「え?」
「あら?」

 そこで、お姉様はゆっくりと口を開きました。
 どうやら、何か言いたいことがあるようですね。
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