そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗

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 私の部屋に、お姉様がやって来ました。
 恐らく、暴走しているお兄様を止めに来てくれたのでしょう。

「エルード様、シャルリナは悪くないんです」
「……何?」
「あまり大きな声で言えることではありませんが……その、私は、エルード様に手を出してもらいたいと思っていました」
「アルシア……」

 お姉様は、開口一番に大胆なことを言いました。
 それは、恐らく私のためでしょう。私が責められないように、いち早くその気持ちを打ち明けてくれたのです。
 きっと、それは恥ずかしかったでしょう。顔が赤くなっています。それでも言ってくれた彼女の優しさに、私は少し感動しています。

「……お前にそう思わせていたなら、すまなかったな」
「あ、その……」
「俺も認識を改めなければならないようだな……」

 お兄様は、少し落ち込んでいました。
 この人がこのような表情をすることは、非常に珍しいといえるでしょう。
 それだけ、お姉様を悲しませていたことがこの人の中では大きいのです。こういう風に、深い愛情は抱いているんですよね。

「……そもそも、どうして、そんなに手を出さないようにしているんですか? まったく、理解できないんですけど?」
「……あまり言いたいことではなかったが、俺も自分がどこまで耐えられるかわからんのだ」
「……ああ、なるほど、そういうことでしたか」

 どうやら、お兄様は色々と自制したいようです。
 まあ、それは確かに妹や婚約者に言えることではありません。お兄様の態度の理由が、やっと腑に落ちました。

「すまなかったな……お前にも、色々と迷惑をかけてしまった」
「いえ、まあ、お兄様も色々と大変だったということはわかりましたから、許してあげますよ……でも、まあ、貸し一つということにしますか?」
「……正直、お前は俺に貸しをいくつも作っていると思うが」
「……じゃあ、それを一つ取り消しということでいいですよぉ」

 お兄様に貸しを作るチャンスかと思いましたが、そうでもありませんでした。
 いつお兄様に貸しを作ったかはわかりませんが、まあ細かいことは気にしないことにしましょう。お互い、貸し借りとかそういうのはない関係ということにしておく方がいいはずです。

「さて、それじゃあ、俺達は行かせてもらう」
「お楽しみの時間ですか?」
「……どうだろうな」
「おやおや……まあ、お二人でごゆっくり過ごしてください」
「ああ、行くぞ、アルシア」
「あ、えっと……はい」

 それだけ言って、お兄様とお姉様は行ってしまいました。
 とりあえず、一件落着ということでいいのでしょうか。

「あっ……」

 そこで、私は部屋のドアが壊れていることを思い出しました。
 まったく、お兄様は何をやっているんでしょうか。このドアだけで、貸しですよ、絶対。
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