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17.高い評価
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休日であったため、案内を終えた私は買い物をして家に帰った。
その後日出勤した私は、再びギルバートさんと対面していた。どうやら彼は、しばらくこちらに留まるようだ。
「いや、先日は本当にありがとうございました。お陰様で助かりましたよ」
「お役に立てたなら何よりです。でも、後から考えてみると少し疑問がありますね。ギルバートさんは、何度かはこちらを訪ねてきているはずですよね?」
「え? ああ……」
休憩時間、私はギルバートさんと話をしていた。
私を見つけた彼が、話しかけてきてくれたのである。
そんな彼に対して、私は疑問を投げかけていた。ラナキンス商会の場所がわからない。彼のような立場の人間がそんなことになったのは、考えてみれば変なのである。
「恥ずかしながら、僕は方向音痴なんです。この町のことも知っているはずなのですが、どうしてか道に迷ってしまって……」
「方向音痴ですか……」
「ええ、だから本当に助かりました。あの時はあなたの優しさが、身に染みましたよ」
ギルバートさんの説明に、私は出会った時のことを思い出していた。
確かに彼は、本当に嬉しそうな顔をしていた。方向音痴の彼にとって、私の助けはそれ程ありがたかったということだろうか。
「貴族の方は高慢であるなんて思っていましたが、今回の出来事でそれが偏見の極みであるということがよくわかりましたよ」
「偏見ですか? でも、案外そうでもないかもしれませんよ? 私が知っている限り、貴族というのは高慢な人ばかりですから」
「でも、あなたは違うでしょう?」
「そう思っていただけているなら嬉しいですけれど、でもそれはきっと、追い出されたからなのだと思います。改めて振り返ってみると、私も典型的な貴族だったような気がしますから」
ギルバートさんからの評価は、嬉しいものだった。
ただ、私も高慢な貴族の端くれであっただろう。平民として暮らすことによって、私はそれを改めて理解した。
私達の生活が、誰によって支えられているのか。貴族として暮らしていた時は、そんなことはまったく考えていなかった。それを考えられるようになったのは、確実にここで暮らし始めてからである。
「そうなのでしょうか? 僕からすると、とても信じられないことですが……」
「ふふ、ギルバートさんは私のことを高く評価してくださっているようですね?」
「別に高く評価しているわけではないと思いますよ。これは正当なる評価です。僕は実際に助けていただきましたからね」
「それだけなのに評価が高いと思っているのです」
「そうでしょうかね?」
私の言葉に、ギルバートさんは笑顔を浮かべていた。
その少し子供っぽさも含んだ笑みに、私も思わず苦笑いしてしまうのだった。
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