私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

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20.和やかに笑って

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「お祖父様は、アルティア嬢から威厳を学ばせようとしているのだと思います。それにあなたを同行させれば、民達に釘を刺せると思ったのでしょう」
「……バルフェルト伯爵が、そのようなことを考えていたなんて、想像もしていませんでしたが」
「もちろん、それだけが理由かはわかりません。ただ一端を担っているとは思います。それに関しては、僕の勘ですが」

 バルフェルト伯爵は、立派な貴族である。そんな彼の判断には、私に対する気遣い以外の意図が含まれていても、おかしくはない。
 家族であるフレイル様の勘は、信用できるものだといえる。となると、私を彼に同行させたことには、深い意味があったのかもしれない。

「でも、私は結局の所緊張して、いつもの自分を出せずにいた訳ですからね。フレイル様の助言がなければ、その役目を果たせるかも怪しかった所です」
「いえ、僕はそれ程特別なことを言った訳ではありません。アルティア嬢なら、何も言わずとも気付いていたはずです」
「それは流石に買い被り過ぎですよ」

 フレイル様は、私のことを高く評価してくれている。彼の場合、それはお世辞の類ではなく本心からそう思っているのかもしれない。
 ただ私は、フレイル様の助言がなければ、本当に何もできなかったと思う。いやそれ所か、手痛い失敗をしていた可能性さえある。

「そもそも、私の対応から学べることがあったということに関しても、自分では自信がありません。もちろん、フレイル様が何かを感じ取ってくれたなら良いのですが……」
「アルティア嬢、あなたは少し自分のことを卑下し過ぎですよ。僕はあなたから、既に色々なことを学んでいます」
「それはきっと、フレイル様の感受性が優れているということですよ」
「それこそ、買い被りというものです……」
「それは――」

 段々と熱くなっていた私とフレイル様は、そこで言葉を止めることになった。
 それは自分達の発言というものが、堂々巡りであるということに気が付いたからだ。このまま謙遜して、お互いを褒め称えているなんておかしな話である。

「――やめましょうか。この議論はなんというか、無駄な気がします」
「そうですね。僕達はなんというか、お互いに謙遜し過ぎているのかもしれません」
「ふふっ……」
「あははっ……」

 私達は、思わず笑ってしまっていた。今となっては、どうして熱くなっていたかがわからなくなっていたからだ。それが可笑しかったのである。
 そうやって笑い合うことに対して、私は心地良さというものを感じていた。それはきっと、私の心に余裕ができた、ということなのだろう。
 お母様だけでなく、私にとってもオルファン侯爵家から離れるということは良いことなのかもしれない。私はそんなことを考えながら、笑うのだった。
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