28 / 48
28.試すために
しおりを挟む
「いや、すまないな。盛り上がっているようだったから、話しかけずにいたのだが……」
ルーアス殿下は、こちらにゆっくりと歩いてきて、もといた席にゆったりと腰掛けた。
その余裕に溢れた仕草に、私もフレイル様も呆気に取られる。お母様はそうでないことから、一応彼が部屋に入って来ていたことを把握してはいたようだ。
「ル、ルーアス殿下、一体いつの間に部屋に?」
「あなたが持論を語り始めた時くらいからだな」
「ほ、ほとんど最初からではありませんか……」
「まあ、出て行った振りをしていただけだからな」
ルーアス殿下は、笑みを浮かべながら言葉を発していた。
その笑みというものが、憎たらしい。そもそも席を外すというのが、嘘だったとはどういう了見なのだろうか。欺かれたことにも、私は腹を立てていた。
しかしその行動というものからは、彼の意図というものが読み取れた。もしかしたらそれも含めて、私のことを推し量っていたということだろうか。
「気付いたようだな? あなたを少し試した。こちらの要求に対して、どう反応するかを知りたかったのだ。バルフェルト伯爵にも、協力してもらった」
「お祖父様は、全てを把握していたのですか?」
「すまぬな」
「バルフェルト伯爵を責めるのは酷というものだ。こちらの要求を断わりにくい立場だからな。ともあれアルティア嬢、あなたには目を見張るものがあるようだ。その点について、私も意見は同じだ」
そこでルーアス殿下は、フレイル様の方を見た。それは彼と同じように、私にオルファン侯爵家を背負う資質を見出したということだろう。
第二王子であるルーアス殿下から、そのように評価してもらえるのは光栄ではある。とはいえ、それでも私の力というものは変わらない。
「ルーアス殿下、認めていただけたなら嬉しく思います。しかし、私はオルファン侯爵家を背負えないと思っています。私では守り切ることはできません。力がなさ過ぎます」
「無論、あなた一人ならそうだろう。ただ、王家が支援すると私は述べたはずだ。それはあなたが考えているよりも直接的なものだ。端的に言ってしまえば、私との婚約だ」
「……え?」
ルーアス殿下は、特に表情を変えることもなく言葉を発していた。
だがその内容とは、驚くべきことである。私と彼との婚約なんて、考えてもいなかった。
しかしそれは、当然といえば当然の判断かもしれない。その婚約は、不安定なオルファン侯爵家を一気に盤石にできる。そこまで考えが回らなかった私が、間抜けだったかもしれない。
ルーアス殿下は、こちらにゆっくりと歩いてきて、もといた席にゆったりと腰掛けた。
その余裕に溢れた仕草に、私もフレイル様も呆気に取られる。お母様はそうでないことから、一応彼が部屋に入って来ていたことを把握してはいたようだ。
「ル、ルーアス殿下、一体いつの間に部屋に?」
「あなたが持論を語り始めた時くらいからだな」
「ほ、ほとんど最初からではありませんか……」
「まあ、出て行った振りをしていただけだからな」
ルーアス殿下は、笑みを浮かべながら言葉を発していた。
その笑みというものが、憎たらしい。そもそも席を外すというのが、嘘だったとはどういう了見なのだろうか。欺かれたことにも、私は腹を立てていた。
しかしその行動というものからは、彼の意図というものが読み取れた。もしかしたらそれも含めて、私のことを推し量っていたということだろうか。
「気付いたようだな? あなたを少し試した。こちらの要求に対して、どう反応するかを知りたかったのだ。バルフェルト伯爵にも、協力してもらった」
「お祖父様は、全てを把握していたのですか?」
「すまぬな」
「バルフェルト伯爵を責めるのは酷というものだ。こちらの要求を断わりにくい立場だからな。ともあれアルティア嬢、あなたには目を見張るものがあるようだ。その点について、私も意見は同じだ」
そこでルーアス殿下は、フレイル様の方を見た。それは彼と同じように、私にオルファン侯爵家を背負う資質を見出したということだろう。
第二王子であるルーアス殿下から、そのように評価してもらえるのは光栄ではある。とはいえ、それでも私の力というものは変わらない。
「ルーアス殿下、認めていただけたなら嬉しく思います。しかし、私はオルファン侯爵家を背負えないと思っています。私では守り切ることはできません。力がなさ過ぎます」
「無論、あなた一人ならそうだろう。ただ、王家が支援すると私は述べたはずだ。それはあなたが考えているよりも直接的なものだ。端的に言ってしまえば、私との婚約だ」
「……え?」
ルーアス殿下は、特に表情を変えることもなく言葉を発していた。
だがその内容とは、驚くべきことである。私と彼との婚約なんて、考えてもいなかった。
しかしそれは、当然といえば当然の判断かもしれない。その婚約は、不安定なオルファン侯爵家を一気に盤石にできる。そこまで考えが回らなかった私が、間抜けだったかもしれない。
964
あなたにおすすめの小説
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
【完結】年上令嬢の三歳差は致命傷になりかねない...婚約者が侍女と駆け落ちしまして。
恋せよ恋
恋愛
婚約者が、侍女と駆け落ちした。
知らせを受けた瞬間、胸の奥がひやりと冷えたが——
涙は出なかった。
十八歳のアナベル伯爵令嬢は、静かにティーカップを置いた。
元々愛情などなかった婚約だ。
裏切られた悔しさより、ただ呆れが勝っていた。
だが、新たに結ばれた婚約は......。
彼の名はオーランド。元婚約者アルバートの弟で、
学院一の美形と噂される少年だった。
三歳年下の彼に胸の奥がふわりと揺れる。
その後、駆け落ちしたはずのアルバートが戻ってきて言い放った。
「やり直したいんだ。……アナベル、俺を許してくれ」
自分の都合で裏切り、勝手に戻ってくる男。
そして、誰より一途で誠実に愛を告げる年下の弟君。
アナベルの答えは決まっていた。
わたしの婚約者は——あなたよ。
“おばさん”と笑われても構わない。
この恋は、誰にも譲らない。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。
藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。
サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。
サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。
魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。
父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。
力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。
〖完結〗私との婚約を破棄?私達は婚約していませんよ?
藍川みいな
恋愛
「エリーサ、すまないが君との婚約を破棄させてもらう!」
とあるパーティー会場で突然、ラルフ様から告げられたのですが、
「ラルフ様……私とラルフ様は、婚約なんてしていませんよ?」
確かに昔、婚約をしていましたが、三年前に同じセリフで婚約破棄したじゃないですか。
設定はゆるゆるです。
本編7話+番外編1話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる