私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

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29.彼が望む私は

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「王家としては、オルファン侯爵家の正当なる後継者であるあなたを引き入れることで、周辺の地域の安寧を保ちたい。それが今回の事態を最も丸く収める方法だからだ」

 ルーアス殿下は、淡々と言葉を述べる。その理論というものは、納得できるものであった。
 第二王子である彼は、オルファン侯爵家を背負える人だ。立場としても能力としても、適任者だといえる。
 私にとっても、良い話だ。彼の助力があれば、オルファン侯爵家を守れると思う。なんとも魅力的な提案である。

「アルティア嬢、どうかしたのか?」
「あ、いえ……」

 しかし私は、その提案にすぐに頷くことができなかった。
 それは先程までのように、オルファン侯爵家の一員としての思想からではない。
 私は、隣にいるフレイル様の方を見る。彼の先程の言葉を思い出して、私は至極個人的な感情からルーアス殿下の提案に、頷けなかったのだ。

「アルティア嬢……」
「……」

 そんな私に対して、フレイル様は少し悲しそうにしながらも、力強く頷いてくれた。
 それを見て、私は理解する。彼が望む私とは、どういったものであるかということを。

「……わかりました。ルーアス殿下の提案をお受けします」
「ふむ……」

 フレイル様は、誇りを重んじる私に敬意を抱いてくれていた。
 それなら私は、その敬意に準じるべきだろう。だから、フレイル様の提案に受け入れる選択をした。そもそも感情を抜きにすれば、そうするべき提案である。迷ったことの方が、間違いだったといえるだろう。

 ただ私の言葉に、ルーアス殿下は不満そうにしているように見える。
 それに私は、少し怯んでしまう。一瞬躊躇ったことで、彼を怒らせてしまったのだろうか。

「なんというか、まるで私が悪者であるかのようだな」
「……え?」
「いや、あなた達を見ているとそう思ってしまう。これは少し、困ってしまうな」

 ルーアス殿下は、言っている通り困ったような顔をしながらも、どこか楽しそうに笑っていた。
 その表情に、私はフレイル様と顔を見合わせる。ルーアス殿下の言葉の意味が、よくわからなかったからだ。

「ルーアス殿下、一体どうしたのですか?」
「時には合理性を捨てるべき時もあるということだ。アルティア嬢、あなたは立派な令嬢だ。私も少なからず尊敬の念を抱いている。しかしあなたに必要なのは、私ではないということだろう。それはあなた自身が、一番わかっていることではないか?」
「それは……」

 ルーアス殿下の質問が、何を表しているかは考えるまでもなかった。
 私は、隣にいるフレイル様の方を見る。すると彼も、複雑そうな表情を浮かべていた。
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