私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

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28.試すために

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「いや、すまないな。盛り上がっているようだったから、話しかけずにいたのだが……」

 ルーアス殿下は、こちらにゆっくりと歩いてきて、もといた席にゆったりと腰掛けた。
 その余裕に溢れた仕草に、私もフレイル様も呆気に取られる。お母様はそうでないことから、一応彼が部屋に入って来ていたことを把握してはいたようだ。

「ル、ルーアス殿下、一体いつの間に部屋に?」
「あなたが持論を語り始めた時くらいからだな」
「ほ、ほとんど最初からではありませんか……」
「まあ、出て行った振りをしていただけだからな」

 ルーアス殿下は、笑みを浮かべながら言葉を発していた。
 その笑みというものが、憎たらしい。そもそも席を外すというのが、嘘だったとはどういう了見なのだろうか。欺かれたことにも、私は腹を立てていた。
 しかしその行動というものからは、彼の意図というものが読み取れた。もしかしたらそれも含めて、私のことを推し量っていたということだろうか。

「気付いたようだな? あなたを少し試した。こちらの要求に対して、どう反応するかを知りたかったのだ。バルフェルト伯爵にも、協力してもらった」
「お祖父様は、全てを把握していたのですか?」
「すまぬな」
「バルフェルト伯爵を責めるのは酷というものだ。こちらの要求を断わりにくい立場だからな。ともあれアルティア嬢、あなたには目を見張るものがあるようだ。その点について、私も意見は同じだ」

 そこでルーアス殿下は、フレイル様の方を見た。それは彼と同じように、私にオルファン侯爵家を背負う資質を見出したということだろう。
 第二王子であるルーアス殿下から、そのように評価してもらえるのは光栄ではある。とはいえ、それでも私の力というものは変わらない。

「ルーアス殿下、認めていただけたなら嬉しく思います。しかし、私はオルファン侯爵家を背負えないと思っています。私では守り切ることはできません。力がなさ過ぎます」
「無論、あなた一人ならそうだろう。ただ、王家が支援すると私は述べたはずだ。それはあなたが考えているよりも直接的なものだ。端的に言ってしまえば、私との婚約だ」
「……え?」

 ルーアス殿下は、特に表情を変えることもなく言葉を発していた。
 だがその内容とは、驚くべきことである。私と彼との婚約なんて、考えてもいなかった。
 しかしそれは、当然といえば当然の判断かもしれない。その婚約は、不安定なオルファン侯爵家を一気に盤石にできる。そこまで考えが回らなかった私が、間抜けだったかもしれない。
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