私が聖女になったからって、男と出て行ったあなたが今更母親面しないでください。

木山楽斗

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11.才能ある魔法使い

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 魔法使いを志した時は、不安でいっぱいだった。
 私に本当に才能があるのか、そんなことを思っていたこともある。
 しかし、それは杞憂だったといえるだろう。実際の所、私には自分が驚く程の魔法の才能があったのだから。

「……まさか、君とこんな所で会うことになるなんて、思っていなかったな」
「そうですか? 私はいつかそうなるんじゃないかと思っていましたが」
「君は中々に自信家だから、そうか。そういう意味では、私は君を侮っていたといえる」

 私は、王城にてキルスタインさんとそのような話をしていた。
 彼と会ってから、もう六年にもなる。その間にも、キルスタインさんが孤児院を訪ねてきたこともあって、交流はあった。
 ただ、これからはもっと濃密な時間を彼と過ごすことになるだろう。なぜなら今の彼と私の関係は、特別なのだから。

「そうですよ。今の私は聖女なのですから」
「驚くべきこと、ではないのだろうな。君の実力から考えれば、当然といえば当然だ」
「驚いても構いませんよ。これでも、最年少で、それも平民で孤児院の出身ですから。王国でも稀有な存在です」

 私は、王国の聖女という役職を就任することになった。
 国で最も偉大な魔法使い、それが今の私だ。これは誇ってもいいことだろう。

「といっても、聖女は象徴的な側面がありますから、男性の魔法使いよりも優れているとは限りません。例えば、キルスタインさんとか」
「……私は、君よりも自分が優れているとは思っていないさ。いや、というか君は恐らく、男性を含めても一番だろう」
「そう言っていただけると嬉しいです。もっと褒めてくださってもいいですよ。それがキルスタインさんの仕事である訳ですし」
「いや、聖女の補佐の仕事に、褒め称えることは入っていないだろう」
「ああ、そうですか」

 キルスタインさんは、そんな私の補佐ということになっている。
 国で最も偉大な魔法使いの補佐になるということは、彼も優れた魔法使いであるということだ。

「あ、所で、こういう場ではやはりキルスタイン様と呼んだ方がいいですかね?」
「まあ、二人きりの時以外はそうした方がいいだろうか。もっとも、聖女というのは貴族と同等の身分として扱われることが多い。問題ないといえば問題なさそうだが……」
「いいえ、なったばかりの私が変に目をつけられるのも嫌ですから、使い分けさせてもらいます」

 初めて会った時の名残から、私はキルスタインさんのことをさん付けで呼んでいる。
 孤児院の皆に指摘されるまで、私はそのことについて何も考えていなかった。だが、本来キルスタインさんはもっと敬うべき人だ。

 しかし、二人きりの時や事情を知っている人の前なら、という条件付きで彼はその呼び方を許してくれている。その方が親しみがあっていいと、思ってくれているようだ。
 ただ、これからはそんな呼び方も直していかなければならないだろう。この王城でともに仕事をするのだから、意識は切り替えていく必要がありそうだ。
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