寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?

木山楽斗

文字の大きさ
4 / 24

4.決意に満ちた表情

しおりを挟む
 ラウヴァン殿下との対話を終えて帰ってから一週間後、私は父に呼び出されていた。
 その場にはお母様とお兄様もいる。皆の顔は、明るいものではない。何か問題が発生したということは、すぐにわかった。

「お父様、何かあったのですか?」
「悪い知らせだ。シェリリアの婚約は破談となった」
「破談……?」
「……相手はラスタード王国の貴族の子息だった。国王と相談した上で決まった婚約であったが、上手くいかなかったようだ」

 お父様の言葉に、私は固まっていた。
 そこに関しても、過去の因果によって破談になるなんて、納得できるものではない。トップ同士は手を結ぼうと努力しているというのに、どうしてそうなるのだろうか。

「セルダン子爵家は、ヤウダン公爵家に近い立ち位置にある家だ。そちらにラスタード王国側から婿を迎え入れることには重要な意味があったが、残念でならない」
「そうですね……シェリリアは、大丈夫なのでしょうか?」
「それについては問題ないだろう。彼女は強い女性だ」

 私の心配に、お父様は首を横に振った。
 シェリリアのことは、私もよく知っている。確かに彼女は、このくらいでへこたれはしないはずだ。精神面に関しては、心配はいらないのかもしれない。

 ただ侍女に関しては、どうなるのだろうか。それは気になる所だ。
 私は隣に仕えているソネリアの方を見る。普通に考えれば、このまま彼女に続けてもらうことになると思うのだが、セルダン子爵家の側の判断によってはそれも変わるかもしれない。

「セルダン子爵家側は、婿を迎える立場をソネリアに変えるつもりでしょうか? 一度婚約が破談になったシェリリアでは印象が悪いと、そう判断する可能性はあると思いますが……」
「その点に関しては、少し事情がある。それはこの件には関係なく出ていた話だが、ラウヴァン殿下がソネリアを王城に招きたいそうだ」
「ソネリアを?」

 お父様の言葉に、私はかなり驚くことになった。
 ラウヴァン殿下の意図が、よくわからない。ソネリアを王城に招くとは、どういうことだろうか。

「ヤウダン公爵家側の誰かを王城に招くことによって、こちらに対する風潮を和らげたいようだ」
「それは……あまりにもソネリアの負担が大きいのではありませんか? その身一つで、味方もほとんどいない王城に行くなんて」

 お父様からラウヴァン殿下の意図を説明されて、ある程度理解することはできた。
 しかしそれはなんとも、無理がある話のような気がした。ソネリアへの負担が大きいし、上手くいくとは思えない。シェリリアの件からもわかるように、そう簡単に王国側の貴族達の心を変えられるわけではないはずだ。

「……行きます」
「……え?」
「私は行きます、ユーリア様。ヤウダン公爵家のために、私に務めさせてください」

 心配する私をよそに、ソネリアはそのように決意表明してきた。
 私がお父様の方を見ると、首を横に振ってくる。どうやら彼女は事前に話を聞かされており、既に意思を固めているようだ。お父様もあまり乗り気という訳ではないが、王太子立っての提案で本人も乗り気であることから、無下にはできないということなのだろう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

「役立たず」と婚約破棄されたけれど、私の価値に気づいたのは国中であなた一人だけでしたね?

ゆっこ
恋愛
「――リリアーヌ、お前との婚約は今日限りで破棄する」  王城の謁見の間。高い天井に声が響いた。  そう告げたのは、私の婚約者である第二王子アレクシス殿下だった。  周囲の貴族たちがくすくすと笑うのが聞こえる。彼らは、殿下の隣に寄り添う美しい茶髪の令嬢――伯爵令嬢ミリアが勝ち誇ったように微笑んでいるのを見て、もうすべてを察していた。 「理由は……何でしょうか?」  私は静かに問う。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』 突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

二人ともに愛している? ふざけているのですか?

ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」  婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。  馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。 「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」 「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」 「それは……大変ですね」  気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。    エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。 「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」 「そうだよ」 「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」  うん。  デレクは、姿勢をぴんと正した。 「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」 「はい」 「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」  エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。 「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」  違うよ。  デレクは笑った。 「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

処理中です...