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17.必死の説得
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侍女としての役目を今は休んでいるシェリリアだが、それでも私が呼び出せば王城まで飛んできた。
それは彼女の忠義によるものだろう。責任を取るという決意は曲げてくれないが、それでも私達ヤウダン公爵家の命令は大抵聞いてくれる。
お父様とお母様も、事務の仕事などを振ってセルダン子爵夫妻の行動を抑制しているようだ。放っておいたら、彼らは本当に命を絶ちかねない。
「シェリリア、単刀直入に言わせてもらうわ。命を絶つなんてことはやめなさい。そのようなことをしても、責任などを果たせる訳がないでしょう」
「ユーリア様、しかしソネリアはユーリア様の婚約者をたぶらかしました。そしてラスタード王家とヤウダン公爵家の結束にひびが入るようなことをした。それは許される罪ではありません。セルダン子爵家の命を持って償うしかありません」
私の言葉に、シェリリアはゆっくりと首を横に振った。
彼女はセルダン子爵家の教えに忠実だ。こういった時に命を差し出すことに躊躇いがない。
その部分の柔軟性に関しては、ソネリアの方が好ましいといえる。彼女の横暴さの十分の一くらいでも、シェリリアの中にあってくれれば良いのだが。
「シェリリア嬢、話を聞いていただきたい。セルダン子爵家が命を投げ出すということは、王家にも影響があることです。僕とあなたは同じ立場にあるということを理解していただきたい」
「同じではありません。リオレス殿下の命は、ここで使っていいようなものではありません」
「あなたの命は違うというのですか?」
「ここで私達が命を投げ出せば、ラスタード王国に属する貴族達の意見を曲げることができます。なんだかんだ言っても、命にはそれだけの力があります。ラスタード王国を一つにする。私の命の使い所はここ以外にはありません」
セルダン子爵家は、どうやら戦略的にも命を絶つことが有効だと判断したらしい。
それは確かにそうかもしれない。少なくとも、ヤウダン公爵家への抗議などは多少収まるだろう。そこで命が失われているというのに、批判を続けるとなると逆に批判を受けかねない。
しかしだからといって、その手段はとても肯定できるものではなかった。
ヤウダン公爵家がラスタード王国に合流したのは、平和のためだ。その平和を実現する中で、血が流れていいはずはない。
「……シェリリア嬢、私の話を聞いていただけませんか?」
「……キルクス様」
そこで、キルクス伯爵令息が声を出した。
彼は、シェリリアに対して悲しそうに視線を向けている。
ここは彼に、一旦任せてみることにしよう。キルクス伯爵令息が王城を訪ねてきた日、その日に聞いたことを思い出しながら、私は彼の言葉を待つのだった。
それは彼女の忠義によるものだろう。責任を取るという決意は曲げてくれないが、それでも私達ヤウダン公爵家の命令は大抵聞いてくれる。
お父様とお母様も、事務の仕事などを振ってセルダン子爵夫妻の行動を抑制しているようだ。放っておいたら、彼らは本当に命を絶ちかねない。
「シェリリア、単刀直入に言わせてもらうわ。命を絶つなんてことはやめなさい。そのようなことをしても、責任などを果たせる訳がないでしょう」
「ユーリア様、しかしソネリアはユーリア様の婚約者をたぶらかしました。そしてラスタード王家とヤウダン公爵家の結束にひびが入るようなことをした。それは許される罪ではありません。セルダン子爵家の命を持って償うしかありません」
私の言葉に、シェリリアはゆっくりと首を横に振った。
彼女はセルダン子爵家の教えに忠実だ。こういった時に命を差し出すことに躊躇いがない。
その部分の柔軟性に関しては、ソネリアの方が好ましいといえる。彼女の横暴さの十分の一くらいでも、シェリリアの中にあってくれれば良いのだが。
「シェリリア嬢、話を聞いていただきたい。セルダン子爵家が命を投げ出すということは、王家にも影響があることです。僕とあなたは同じ立場にあるということを理解していただきたい」
「同じではありません。リオレス殿下の命は、ここで使っていいようなものではありません」
「あなたの命は違うというのですか?」
「ここで私達が命を投げ出せば、ラスタード王国に属する貴族達の意見を曲げることができます。なんだかんだ言っても、命にはそれだけの力があります。ラスタード王国を一つにする。私の命の使い所はここ以外にはありません」
セルダン子爵家は、どうやら戦略的にも命を絶つことが有効だと判断したらしい。
それは確かにそうかもしれない。少なくとも、ヤウダン公爵家への抗議などは多少収まるだろう。そこで命が失われているというのに、批判を続けるとなると逆に批判を受けかねない。
しかしだからといって、その手段はとても肯定できるものではなかった。
ヤウダン公爵家がラスタード王国に合流したのは、平和のためだ。その平和を実現する中で、血が流れていいはずはない。
「……シェリリア嬢、私の話を聞いていただけませんか?」
「……キルクス様」
そこで、キルクス伯爵令息が声を出した。
彼は、シェリリアに対して悲しそうに視線を向けている。
ここは彼に、一旦任せてみることにしよう。キルクス伯爵令息が王城を訪ねてきた日、その日に聞いたことを思い出しながら、私は彼の言葉を待つのだった。
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