地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬

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エリーゼとの旅は、毎日が驚きの連続だった。俺は、これまでの人生で知らなかった世界を次々と知っていくことになった。



エリーゼは、俺が「地味」だと思っていた薬草師の仕事を、まるで宝探しのように楽しんでくれた。



「エド、見て!この『陽光の葉』、その辺で見るものよりずっと葉脈がしっかりしているわ。これを乾燥させて粉にしたら、きっと風邪薬の効果が倍増するはずよ!」



「本当だ!こんなに質の良い陽光の葉、初めて見ました…」



俺がそう言うと、エリーゼは目を輝かせて「でしょう?」って微笑んだ。



彼女は、俺が当たり前にやっていた調合の技術や、薬草の知識を、一つ一つ褒めてくれた。



「すごいわ、エド!この『眠りの花』と『月の雫』を混ぜて、こんなに綺麗な鎮静剤が作れるなんて。魔術師の私でも、この色を出すのは難しいわ」



「そうなんですか?俺は、いつも感覚でやっていただけなので…」



「それが才能ってものよ。魔術師には魔力があるように、あなたには指先の魔力があるの。これは、誰にも真似できないあなただけの魔法よ」



エリーゼは、俺が当たり前にやっていたことを「魔法」だと言ってくれた。そんな風に言われたのは、初めてだった。



俺は、エリーゼの言葉に励まされながら、少しずつ自信を取り戻していった。そして、彼女の知識と俺の知識を組み合わせる実験が始まった。





エリーゼは、魔術師としての知識を惜しみなく俺に教えてくれた。



「エド、魔術はね、物体に秘められた力を引き出すものなの。薬草だって、同じよ。薬草の中にある治癒の力や、解毒の力。それを引き出すのが、あなたの仕事でしょう?」



「はい。薬草を煎じたり、すり潰したりして、力を引き出します」



「じゃあ、そこに魔力を加えてみたらどうかしら?例えば、この『輝く石』は、光の魔力が宿っているわ。この石の粉末を少しだけ、あなたの作った傷薬に混ぜてみて」



俺は、エリーゼの言う通りに、光の魔力が宿った石の粉末を、俺が作った傷薬に混ぜてみた。



すると、傷薬が淡く光り始めた。そして、それをエリーゼが小さな切り傷に塗ると、傷はみるみるうちに塞がっていく。



「すごい…!」



俺もエリーゼも、思わず声を上げた。こんなに早く傷が治るなんて、俺の薬草の知識だけでは考えられないことだった。



「やっぱり!あなたの調合技術と、私の魔力は相性がいいわ!この薬、すごい効果よ!」



それから俺たちは、ありとあらゆる薬草と魔力の組み合わせを試した。



『炎の魔草』を、俺の作った風邪薬に混ぜてみた。すると、薬を飲んだ人の体がポカポカと温かくなり、熱がすぐに引いていく。



『水の精草』を、俺の作った解毒剤に混ぜてみた。すると、どんな強力な毒でも、一瞬で無力化させる奇跡の秘薬が完成した。



俺たちが作った薬は、これまでの常識を覆すものばかりだった。そして、旅の道中、困っている人がいれば、俺たちは迷うことなくその薬を分け与えた。





ある時、俺たちが立ち寄った村で、重い病気に苦しむ男の子がいた。村の医者も薬草師も、もう手の施しようがないと諦めていた病気だ。



男の子の母親は、泣きながら俺たちに助けを求めてきた。



「どうか…どうか、息子を助けてください…!」



「大丈夫です。少しだけ、時間をください」



俺は、母親にそう言って、エリーゼと一緒に薬の調合を始めた。



男の子の病気は、体内の魔力が不安定になる、とても珍しいものだった。俺は、その病気に効く薬草を必死で思い出した。そして、エリーゼが持っていた、魔力を安定させる特別な石と、俺が持っていた薬草を組み合わせた。



夜を徹して調合を続け、ついに薬が完成した。



「これを飲ませてあげて」



俺たちは、完成した薬を男の子の母親に渡した。母親は、信じられないような顔をしながらも、その薬を男の子に飲ませた。



すると、男の子の顔色が見るみるうちに良くなり、翌朝には、すっかり元気になっていた。



「すごい…!本当に治った…!ありがとう、ありがとう…!」



男の子の母親は、何度も何度も俺たちに感謝の言葉を言ってくれた。村の人たちも、俺たちの作った薬に驚き、感謝の言葉をかけてくれた。



「あの病気を治せるなんて…あなたは、奇跡の薬師だ!」



「本当にありがとう!あなたのおかげで、この村の民が救われた!」



「奇跡の薬師エド」、それが、いつしか俺の呼び名になっていた。





俺の名声は、あっという間に広まっていった。



「旅人の薬師がいるらしい。どんな病気でも治す奇跡の薬を作るんだとさ!」



「聞いたか?魔力と薬草を組み合わせる、すごい技術を持っているらしいぞ!」



旅の行く先々で、俺の噂を耳にするようになった。かつて「役立たず」と罵られた俺が、今では「奇跡の薬師」と呼ばれている。その事実が、俺に大きな喜びと自信を与えてくれた。



エリーゼは、そんな俺の姿を見て、自分のことのように喜んでくれた。



「よかったわね、エド。あなたは、本当はすごい才能を持っていたのよ」



「エリーゼさんのおかげです。あなたがいなかったら、俺は今でも、森の中で絶望していたかもしれません」



「いいえ。私は、あなたの才能を見つけただけ。それをここまで大きくしたのは、あなたの努力よ」



エリーゼは、いつも俺の隣で、優しく微笑んでくれた。



旅を続けるうちに、俺はエリーゼのことを、かけがえのない大切な存在だと感じるようになっていた。彼女は、俺の能力を信じてくれた初めての人。そして、俺の人生に、希望の光を灯してくれた人。



俺は、もう二度と「役立たず」にはならない。



この旅で、俺は自分の居場所を見つけた。この世界には、俺の力を必要としてくれる人がたくさんいる。

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