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村を出てから、どれくらいの時間が経っただろう。俺は、ただひたすらに森の中をさまよっていた。道なんてどうでもよかった。どこへ向かえばいいのかもわからなかった。ただ、故郷から遠ざかりたかった。あんなにつらくて、悲しい場所から。
リュックの中には、わずかな食料と、俺の薬草師としてのすべてだった道具と図鑑が詰まっている。村を出て数日、食料はもう底をつきかけていた。お腹はペコペコだし、体は疲労で限界だった。
「もう…ダメだ…」
ガクリと膝から力が抜けて、俺は木の根元に座り込んだ。喉はカラカラに乾き、視界がぼやけてくる。このまま、ここで誰にも知られずに死んでいくのかな。そんなことを考えたら、また涙が出てきた。もう、泣くことにも疲れてしまったはずなのに。
その時、森の奥から、パチパチと薪が燃える音が聞こえた。誰かが、この森で野営している?俺は最後の力を振り絞って、その音のする方へ向かって歩き出した。
音の正体は、小さな焚き火だった。そのそばには、一人の女性が座っている。深い青色のローブを身につけ、銀色の長い髪を揺らしていた。彼女のそばには、たくさんの魔法の道具が並んでいた。杖、不思議な模様が描かれた巻物、光を放つ石。ああ、きっとこの人は魔法使いなんだ。
俺は声をかけようとしたけど、うまく声が出なかった。喉がカラカラで、息を吸うだけで肺が痛い。それに、体が震えて、もう一歩も動けなかった。その場で崩れ落ちる俺に、彼女が気づいた。
「あら?どうしたの、あなた?」
彼女は驚いた顔で俺に駆け寄ってきてくれた。その声は、森の鳥のさえずりのように、どこか透き通っていて優しかった。
「大丈夫?ずいぶん弱っているみたいね。まずはこれでも飲んで」
彼女は、小さな水筒を差し出してくれた。俺はそれに飛びつくようにして、喉が痛くなるほど水を飲んだ。ああ、生き返る。
「ありがとう…ございます…」
「いいのよ。一人でこんな森をさまようなんて、何かあったの?」
彼女は、俺の隣にそっと座ってくれた。その隣にいると、不思議と心が落ち着く。警戒心なんて、まるで湧いてこなかった。
「いえ、その…ちょっと故郷を出てきたんです」
俺は、アイラのことや、村を追放されたこと、すべてを話した。彼女はただ黙って、俺の話を聞いてくれた。誰にも言えなかったつらい気持ちを、知らない人相手に全部話したら、心が少しだけ軽くなった。
話し終わると、彼女はふっと笑った。
「そう。大変だったわね。でも、あなたは少し勘違いしているみたいよ」
「勘違い?」
「ええ。あなたの仕事が地味だって?そんなことないわ。人の命を救う薬草師の仕事が、どうして地味なのよ。むしろ、英雄の仕事じゃない」
俺は驚いて、顔を上げた。そんなことを言ってくれる人なんて、今までいなかったから。
「それに、そのリュックの中身、見てもいいかしら?」
彼女は俺のカバンを指差した。俺は頷いて、そっとカバンを開ける。中には、俺が大切にしていた薬草の図鑑や、調合途中の薬、それに、村からこっそり持ってきた、少しだけ珍しい薬草の葉が入っていた。
彼女は目をキラキラさせて、俺のカバンをのぞき込んだ。
「まあ、これは…!すごいわ、こんな薬草、このあたりじゃ見かけないはずよ。それに、この調合、何に使ったの?」
彼女は、俺がフィン用に作っていた特製の薬に興味津々だった。
「ああ、それは…村長の息子が、生まれつき体が弱くて…発作を起こしやすかったので、その…」
「この薬草とこの薬草を組み合わせて、熱を抑えていたの?すごい!こんな発想、普通の薬草師にはできないわ!」
彼女は、俺が地味だと言われた薬の、その調合の素晴らしさを、まるで自分のことのように喜んでくれた。
「私の名前は、エリーゼ。魔術師よ。この森で、新しい薬の材料になる魔法の草を探していたの」
彼女は、そう言って微笑んだ。
「あなたの薬は、魔術と同じくらい、いや、それ以上に素晴らしい力を持っているわ。……どう?私と一緒に、旅をしてみない?」
俺は、エリーゼの言葉に驚いた。まさか、こんな出会いがあるなんて。
「でも…俺は…役立たずだって…」
「役立たずなんかじゃないわ。あなたには、才能がある。素晴らしい才能が。それを誰も見つけてくれなかっただけ。でも、私は見つけたわ。私の魔術と、あなたの薬草の知識を組み合わせれば、もっとすごいものが作れるはずよ!」
エリーゼの言葉は、まるで魔法のように、俺の心に希望の光を灯してくれた。今まで、自分はなんてちっぽけで、ダメな人間なんだろうって思っていた。でも、この目の前の女性は、俺の能力を信じてくれている。
「私と一緒に来たら、あなたの才能を最大限に生かせるように、最高の環境を用意してあげる。どう?一緒に、この世界を変えるような薬を作ってみない?」
エリーゼの瞳は、未来への期待に満ちていた。俺は、迷うことなく頷いた。
「はい!行きます!エリーゼさん、俺…あなたの力になりたいです!」
そう言って頭を下げると、彼女は嬉しそうに笑った。
「そうこなくっちゃ!でも、敬語はなしでいいわ。私はただの旅人だから。それに、私たちはもう、仲間よ」
エリーゼは、そう言って俺の手を握ってくれた。彼女の手は温かかった。その温かさが、俺の心にじんわりと染み渡っていく。
「さあ、じゃあ早速出発しましょうか!まずは、次の町を目指して。そこには、珍しい薬草がたくさんあるって話よ!」
エリーゼは、俺のリュックを背負い直して、スタスタと歩き出した。俺は、彼女の後ろ姿を見つめながら、これから始まる新しい旅に、少しだけ胸をときめかせた。
リュックの中には、わずかな食料と、俺の薬草師としてのすべてだった道具と図鑑が詰まっている。村を出て数日、食料はもう底をつきかけていた。お腹はペコペコだし、体は疲労で限界だった。
「もう…ダメだ…」
ガクリと膝から力が抜けて、俺は木の根元に座り込んだ。喉はカラカラに乾き、視界がぼやけてくる。このまま、ここで誰にも知られずに死んでいくのかな。そんなことを考えたら、また涙が出てきた。もう、泣くことにも疲れてしまったはずなのに。
その時、森の奥から、パチパチと薪が燃える音が聞こえた。誰かが、この森で野営している?俺は最後の力を振り絞って、その音のする方へ向かって歩き出した。
音の正体は、小さな焚き火だった。そのそばには、一人の女性が座っている。深い青色のローブを身につけ、銀色の長い髪を揺らしていた。彼女のそばには、たくさんの魔法の道具が並んでいた。杖、不思議な模様が描かれた巻物、光を放つ石。ああ、きっとこの人は魔法使いなんだ。
俺は声をかけようとしたけど、うまく声が出なかった。喉がカラカラで、息を吸うだけで肺が痛い。それに、体が震えて、もう一歩も動けなかった。その場で崩れ落ちる俺に、彼女が気づいた。
「あら?どうしたの、あなた?」
彼女は驚いた顔で俺に駆け寄ってきてくれた。その声は、森の鳥のさえずりのように、どこか透き通っていて優しかった。
「大丈夫?ずいぶん弱っているみたいね。まずはこれでも飲んで」
彼女は、小さな水筒を差し出してくれた。俺はそれに飛びつくようにして、喉が痛くなるほど水を飲んだ。ああ、生き返る。
「ありがとう…ございます…」
「いいのよ。一人でこんな森をさまようなんて、何かあったの?」
彼女は、俺の隣にそっと座ってくれた。その隣にいると、不思議と心が落ち着く。警戒心なんて、まるで湧いてこなかった。
「いえ、その…ちょっと故郷を出てきたんです」
俺は、アイラのことや、村を追放されたこと、すべてを話した。彼女はただ黙って、俺の話を聞いてくれた。誰にも言えなかったつらい気持ちを、知らない人相手に全部話したら、心が少しだけ軽くなった。
話し終わると、彼女はふっと笑った。
「そう。大変だったわね。でも、あなたは少し勘違いしているみたいよ」
「勘違い?」
「ええ。あなたの仕事が地味だって?そんなことないわ。人の命を救う薬草師の仕事が、どうして地味なのよ。むしろ、英雄の仕事じゃない」
俺は驚いて、顔を上げた。そんなことを言ってくれる人なんて、今までいなかったから。
「それに、そのリュックの中身、見てもいいかしら?」
彼女は俺のカバンを指差した。俺は頷いて、そっとカバンを開ける。中には、俺が大切にしていた薬草の図鑑や、調合途中の薬、それに、村からこっそり持ってきた、少しだけ珍しい薬草の葉が入っていた。
彼女は目をキラキラさせて、俺のカバンをのぞき込んだ。
「まあ、これは…!すごいわ、こんな薬草、このあたりじゃ見かけないはずよ。それに、この調合、何に使ったの?」
彼女は、俺がフィン用に作っていた特製の薬に興味津々だった。
「ああ、それは…村長の息子が、生まれつき体が弱くて…発作を起こしやすかったので、その…」
「この薬草とこの薬草を組み合わせて、熱を抑えていたの?すごい!こんな発想、普通の薬草師にはできないわ!」
彼女は、俺が地味だと言われた薬の、その調合の素晴らしさを、まるで自分のことのように喜んでくれた。
「私の名前は、エリーゼ。魔術師よ。この森で、新しい薬の材料になる魔法の草を探していたの」
彼女は、そう言って微笑んだ。
「あなたの薬は、魔術と同じくらい、いや、それ以上に素晴らしい力を持っているわ。……どう?私と一緒に、旅をしてみない?」
俺は、エリーゼの言葉に驚いた。まさか、こんな出会いがあるなんて。
「でも…俺は…役立たずだって…」
「役立たずなんかじゃないわ。あなたには、才能がある。素晴らしい才能が。それを誰も見つけてくれなかっただけ。でも、私は見つけたわ。私の魔術と、あなたの薬草の知識を組み合わせれば、もっとすごいものが作れるはずよ!」
エリーゼの言葉は、まるで魔法のように、俺の心に希望の光を灯してくれた。今まで、自分はなんてちっぽけで、ダメな人間なんだろうって思っていた。でも、この目の前の女性は、俺の能力を信じてくれている。
「私と一緒に来たら、あなたの才能を最大限に生かせるように、最高の環境を用意してあげる。どう?一緒に、この世界を変えるような薬を作ってみない?」
エリーゼの瞳は、未来への期待に満ちていた。俺は、迷うことなく頷いた。
「はい!行きます!エリーゼさん、俺…あなたの力になりたいです!」
そう言って頭を下げると、彼女は嬉しそうに笑った。
「そうこなくっちゃ!でも、敬語はなしでいいわ。私はただの旅人だから。それに、私たちはもう、仲間よ」
エリーゼは、そう言って俺の手を握ってくれた。彼女の手は温かかった。その温かさが、俺の心にじんわりと染み渡っていく。
「さあ、じゃあ早速出発しましょうか!まずは、次の町を目指して。そこには、珍しい薬草がたくさんあるって話よ!」
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