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12.ゼインの孤独
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朝食の席にいたのはカーディンと王妃のふたりだけで、オルフェウスは来なかった。正確には来られなかったのだ。カーディンの話によると、オルフェウスは朝から体調がすぐれず自室で寝込んでいるらしい。
それを知ったハルは、オルフェウスの見舞いにいくことにした。カーディンが「オルフェウスはハルに会いたがっていたよ」と言っていたからだ。短い時間なら負担にならないだろうし、もし面会が難しいようなら引き返せばいい。
そう思ってオルフェウスの部屋に向かっていたとき、オルフェウスがちょうど部屋から出てきた。ハルは驚いてオルフェウスに駆け寄る。
「オルフェウスさま、体調はよろしいのですか?」
オルフェウスは少しやつれた顔をしていたが、「大丈夫だよ。少し風に当たろうと思ってさ」と弱々しく微笑んだ。
オルフェウスは白色のローブを身に着けている。足首まである魔術師ローブのような服は、貴族としては部屋着に近い感覚だ。その服装は、オルフェウスがさっきまで床に伏せていたことを示している。
「私も一緒に行ってよろしいですか?」
「いいの? 嬉しいな。俺もハルと話をしたかったから」
そういえば昨日は忙しくてオルフェウスと話をする機会はほとんどなかった。散歩がてらにゆっくりオルフェウスと過ごせるのは、ハルにとっても嬉しい。
「ゼインはどう? 相変わらず無愛想?」
オルフェウスは開口一番、ゼインのことを聞いてきた。しかもはっきり無愛想と言ってしまうあたり、オルフェウスはゼインのことをよくわかっている。
「はい。すっごく無愛想です。冷たいし、何考えているか全然わからないし、今朝なんて『ゼインさまは最悪です』って言っちゃいましたよ」
ハルがオルフェウスに今朝のことを愚痴ると、オルフェウスは「さすがハルだ」と話を聞いて笑っている。
「だからか」
「え? なんのことです?」
「さっき朝食の給仕係がざわついていたんだ。ゼインの部屋に片づけに行ったら、あのゼインが『ありがとう、おいしかった』と給仕係に言ったんだって。みんなゼインはどうしたんだ、頭でも打ったのかと話をしていたよ」
「えっ……」
たしかにあのときゼインはハルの言うことを聞くと言っていた。それを早速実行に移して給仕係に礼儀をもって接したのだろう。
でも、まさかだ。そんな礼儀正しいことをするゼインの姿がまるで想像できない。
「ゼインは人の言うことなんて聞かない奴なのに。ハルのおかげだよ」
「いえ、私は特になにも……」
ゼインの態度がひどいから注意はしたものの、それを直そうと思ってくれたのはゼイン自身だ。ハルの力じゃない。
「ゼインはさ、今でも人との接触を極力避けているのかもしれない」
オルフェウスは中庭へと出るレンガ造りのアーチ型の出入り口をすり抜けていく。ハルもすぐそのあとに続いた。
「どういうことですか?」
「魔力の暴走を恐れているんじゃないかな……」
「魔力の暴走……?」
「ゼインは魔紋章を持っているくらい、魔力が強いから」
「ゼインさまの魔紋章の話は聞いたことがあります」
それは、手のひらに魔法陣と同じ効力を発揮する紋章を浮かび上がらせることのできる能力のことだ。
魔紋章持ちの人間は、瞬間移動や、森ひとつを吹き飛ばすこと、人を蘇らせることすらできると古い書物に記されているらしい。そのどれも信憑性のないものばかりだが、そんな伝説が生まれるほど魔力が強いということだ。
「ゼインが魔力の暴走を起こしたのは過去に一度だけだよ。ゼインが七歳のとき、俺に腹を立てたゼインが魔力を暴走させて、俺が吹っ飛ばされて怪我をした。兄弟喧嘩だったんだけど、ゼインの抑えきれなかった感情が魔力を暴発させたらしいんだ」
「そんなことがあったのですかっ?」
「うん」
オルフェウスはそのときの傷だと言って、袖をまくり、左腕の火傷のような小さな痕をみせてくれた。ゼインが責任を感じて魔法で痕を消そうと何度も試みたが、強い魔力でつけられた傷痕は消えなかったらしい。
「それ以来、ゼインはひとりで行動することが増えた。食事もそのときからひとりがいいと言って部屋で食べるようになった。俺はまったく気にしてないのに」
オルフェウスは気にしていなくても、ゼインは自分自身の力をコントロールできなかったことが恐ろしかったのかもしれない。オルフェウスを傷つける気など、ゼインにはなかっただろうから。
それにしても、七歳からずっとひとりだなんて可哀想に思ってしまう。だからゼインは口数が少ないのだろう。人と話した経験が乏しいのかもしれない。
力が強すぎるゆえの孤独をゼインはずっと味わってきたのだ。
それを知ったハルは、オルフェウスの見舞いにいくことにした。カーディンが「オルフェウスはハルに会いたがっていたよ」と言っていたからだ。短い時間なら負担にならないだろうし、もし面会が難しいようなら引き返せばいい。
そう思ってオルフェウスの部屋に向かっていたとき、オルフェウスがちょうど部屋から出てきた。ハルは驚いてオルフェウスに駆け寄る。
「オルフェウスさま、体調はよろしいのですか?」
オルフェウスは少しやつれた顔をしていたが、「大丈夫だよ。少し風に当たろうと思ってさ」と弱々しく微笑んだ。
オルフェウスは白色のローブを身に着けている。足首まである魔術師ローブのような服は、貴族としては部屋着に近い感覚だ。その服装は、オルフェウスがさっきまで床に伏せていたことを示している。
「私も一緒に行ってよろしいですか?」
「いいの? 嬉しいな。俺もハルと話をしたかったから」
そういえば昨日は忙しくてオルフェウスと話をする機会はほとんどなかった。散歩がてらにゆっくりオルフェウスと過ごせるのは、ハルにとっても嬉しい。
「ゼインはどう? 相変わらず無愛想?」
オルフェウスは開口一番、ゼインのことを聞いてきた。しかもはっきり無愛想と言ってしまうあたり、オルフェウスはゼインのことをよくわかっている。
「はい。すっごく無愛想です。冷たいし、何考えているか全然わからないし、今朝なんて『ゼインさまは最悪です』って言っちゃいましたよ」
ハルがオルフェウスに今朝のことを愚痴ると、オルフェウスは「さすがハルだ」と話を聞いて笑っている。
「だからか」
「え? なんのことです?」
「さっき朝食の給仕係がざわついていたんだ。ゼインの部屋に片づけに行ったら、あのゼインが『ありがとう、おいしかった』と給仕係に言ったんだって。みんなゼインはどうしたんだ、頭でも打ったのかと話をしていたよ」
「えっ……」
たしかにあのときゼインはハルの言うことを聞くと言っていた。それを早速実行に移して給仕係に礼儀をもって接したのだろう。
でも、まさかだ。そんな礼儀正しいことをするゼインの姿がまるで想像できない。
「ゼインは人の言うことなんて聞かない奴なのに。ハルのおかげだよ」
「いえ、私は特になにも……」
ゼインの態度がひどいから注意はしたものの、それを直そうと思ってくれたのはゼイン自身だ。ハルの力じゃない。
「ゼインはさ、今でも人との接触を極力避けているのかもしれない」
オルフェウスは中庭へと出るレンガ造りのアーチ型の出入り口をすり抜けていく。ハルもすぐそのあとに続いた。
「どういうことですか?」
「魔力の暴走を恐れているんじゃないかな……」
「魔力の暴走……?」
「ゼインは魔紋章を持っているくらい、魔力が強いから」
「ゼインさまの魔紋章の話は聞いたことがあります」
それは、手のひらに魔法陣と同じ効力を発揮する紋章を浮かび上がらせることのできる能力のことだ。
魔紋章持ちの人間は、瞬間移動や、森ひとつを吹き飛ばすこと、人を蘇らせることすらできると古い書物に記されているらしい。そのどれも信憑性のないものばかりだが、そんな伝説が生まれるほど魔力が強いということだ。
「ゼインが魔力の暴走を起こしたのは過去に一度だけだよ。ゼインが七歳のとき、俺に腹を立てたゼインが魔力を暴走させて、俺が吹っ飛ばされて怪我をした。兄弟喧嘩だったんだけど、ゼインの抑えきれなかった感情が魔力を暴発させたらしいんだ」
「そんなことがあったのですかっ?」
「うん」
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「それ以来、ゼインはひとりで行動することが増えた。食事もそのときからひとりがいいと言って部屋で食べるようになった。俺はまったく気にしてないのに」
オルフェウスは気にしていなくても、ゼインは自分自身の力をコントロールできなかったことが恐ろしかったのかもしれない。オルフェウスを傷つける気など、ゼインにはなかっただろうから。
それにしても、七歳からずっとひとりだなんて可哀想に思ってしまう。だからゼインは口数が少ないのだろう。人と話した経験が乏しいのかもしれない。
力が強すぎるゆえの孤独をゼインはずっと味わってきたのだ。
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