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13.戸惑い
「大丈夫だよ。ゼインの心配はいらないよ」
ハルの悲痛な表情に気がついたのか、オルフェウスが言葉をかけてきた。
「ゼインは八歳でモンスターの討伐隊を率いて戦闘を行っている。十歳のときには魔導開発会議の副議長を務め、十三歳のときには初参加の剣技大会で優勝した」
「すごい……!」
どれもその年でできることじゃない。ゼインのずば抜けた才能と力の強さに恐ろしくなる。
「何もかもが桁違いで、本当に化け物だよ」
そこまで言ってから、「ごめん。化け物というのは決して悪い意味で言ったんじゃないよ」とオルフェウスは断りを入れてきた。
季節外れの冷たい風が吹き、オルフェウスは少し咳き込んだ。
「ゼインはひとりでなんでもできる。困ることなんてないんだ。ゼインは生まれもって選ばれし者なんだよ。俺はこんな身体だし、最初からゼインが王太子になるべきだと思っていたよ」
オルフェウスは微笑む。
本当にオルフェウスは温和な性格だ。王太子の座を弟に取られても、そうあるべきだったとゼインに牙を向けることもない。オルフェウスが怒ったところなど見たことがないし、皆に分け隔てなく優しいから人望も厚い。
「オルフェウスさまがお優しいから、ゼインさまが王太子になられても誰も反対しなかったんでしょう」
「そう? ゼインがすごいんだと思うよ。ゼインには天性の才能がある」
巷では、ゼインの圧倒的な能力と、オルフェウスの慈悲深さを持ち合わせた人が、もっとも次期国王にふさわしいなどと言われている。
「ゼインさまが王太子に決定するまでは、ゼイン派、オルフェウス派ってよく言われてましたよね……」
結果的にゼインが王太子になったが、それまでは双子の王子を比べるようなことがよく言われていた。
「ねぇ、ハルは、どっち? オルフェウス派? ゼイン派?」
「えっ? それを私に聞くんですかっ? オルフェウスさまがっ?」
「うん」
オルフェウスはいたずらっ子みたいに含み笑いをしている。
「答えられませんよ。だって、本人を目の前にしたら、答えはひとつだけになっちゃいます」
まさか本人を目の前にしてオルフェウス派ではないと言えるはずがない。ここは上手にオルフェウスを立ててあげなければ。
「じゃあハルはオルフェウス派ってこと?」
オルフェウスは日の光を浴びて、にこやかに微笑んでいる。
「だからっ! 答えられないって言ったでしょ?」
ハルはオルフェウスの肩を叩く。オルフェウスとじゃれ合って笑い合う。
「そうだよね。ごめん。おかしいな、俺、ハルに褒めてもらいたかったのかなぁ……。あ、あれは……」
会話の途中で、オルフェウスが何かに気がついたようだ。
ハルもつられてオルフェウスの視線の先を追うと、そこには黒い軍服に黒いマントを揺らめかせて歩くゼインがいた。
ゼインはハルとオルフェウスに気がついているはずなのに、一切こちらを見ない。無表情のまま足早に通り過ぎていってしまった。
「ゼインは急いでいたのかな」
オルフェウスは首をかしげている。でもハルはわざと無視されたような気がしてならない。
ゼインに冷たくされるのには慣れている。ゼインはそういう人だとわかっている。
でも、心が傷つかないわけじゃない。
ゼインの小さくなる背中を見送りながら思う。
さっき、どうしてオルフェウスからの質問に答えられなかった……?
ハルの目の前にいるのはオルフェウスだけだったのだから、オルフェウス派だと言えばよかったのに。
積み重なる思い出があるのもオルフェウスだ。いつかの日に、城の裏庭でふたりきりで話したときのことは今でも忘れられない。あれこそハルが初恋に目覚めた瞬間だったと今でも思う。
それなのに、今のハルはオルフェウスよりもゼインのことが気になる。
なぜだろう。接すれば接するほど、ゼインに惹かれていく。気がつけばゼインのことばかり考えている。
「ハルがこの城に来てくれてよかった」
「え……?」
「これからいろいろ楽しくなりそうだ!」
オルフェウスは無邪気に笑っているが、ハルは「どういう意味ですかっ」と詰め寄る。なんか、ハルのことを周りをかき回すうるさい人、みたいに言ってるようだ。
「言葉のとおりだよ。ハルと話をしてたら元気になった。ありがとう」
オルフェウスの艶やかな前髪が風に揺れている。なんだか遊ばれた気がするけれど、オルフェウスが元気になってくれたならいいか、なんて思った。
ハルの悲痛な表情に気がついたのか、オルフェウスが言葉をかけてきた。
「ゼインは八歳でモンスターの討伐隊を率いて戦闘を行っている。十歳のときには魔導開発会議の副議長を務め、十三歳のときには初参加の剣技大会で優勝した」
「すごい……!」
どれもその年でできることじゃない。ゼインのずば抜けた才能と力の強さに恐ろしくなる。
「何もかもが桁違いで、本当に化け物だよ」
そこまで言ってから、「ごめん。化け物というのは決して悪い意味で言ったんじゃないよ」とオルフェウスは断りを入れてきた。
季節外れの冷たい風が吹き、オルフェウスは少し咳き込んだ。
「ゼインはひとりでなんでもできる。困ることなんてないんだ。ゼインは生まれもって選ばれし者なんだよ。俺はこんな身体だし、最初からゼインが王太子になるべきだと思っていたよ」
オルフェウスは微笑む。
本当にオルフェウスは温和な性格だ。王太子の座を弟に取られても、そうあるべきだったとゼインに牙を向けることもない。オルフェウスが怒ったところなど見たことがないし、皆に分け隔てなく優しいから人望も厚い。
「オルフェウスさまがお優しいから、ゼインさまが王太子になられても誰も反対しなかったんでしょう」
「そう? ゼインがすごいんだと思うよ。ゼインには天性の才能がある」
巷では、ゼインの圧倒的な能力と、オルフェウスの慈悲深さを持ち合わせた人が、もっとも次期国王にふさわしいなどと言われている。
「ゼインさまが王太子に決定するまでは、ゼイン派、オルフェウス派ってよく言われてましたよね……」
結果的にゼインが王太子になったが、それまでは双子の王子を比べるようなことがよく言われていた。
「ねぇ、ハルは、どっち? オルフェウス派? ゼイン派?」
「えっ? それを私に聞くんですかっ? オルフェウスさまがっ?」
「うん」
オルフェウスはいたずらっ子みたいに含み笑いをしている。
「答えられませんよ。だって、本人を目の前にしたら、答えはひとつだけになっちゃいます」
まさか本人を目の前にしてオルフェウス派ではないと言えるはずがない。ここは上手にオルフェウスを立ててあげなければ。
「じゃあハルはオルフェウス派ってこと?」
オルフェウスは日の光を浴びて、にこやかに微笑んでいる。
「だからっ! 答えられないって言ったでしょ?」
ハルはオルフェウスの肩を叩く。オルフェウスとじゃれ合って笑い合う。
「そうだよね。ごめん。おかしいな、俺、ハルに褒めてもらいたかったのかなぁ……。あ、あれは……」
会話の途中で、オルフェウスが何かに気がついたようだ。
ハルもつられてオルフェウスの視線の先を追うと、そこには黒い軍服に黒いマントを揺らめかせて歩くゼインがいた。
ゼインはハルとオルフェウスに気がついているはずなのに、一切こちらを見ない。無表情のまま足早に通り過ぎていってしまった。
「ゼインは急いでいたのかな」
オルフェウスは首をかしげている。でもハルはわざと無視されたような気がしてならない。
ゼインに冷たくされるのには慣れている。ゼインはそういう人だとわかっている。
でも、心が傷つかないわけじゃない。
ゼインの小さくなる背中を見送りながら思う。
さっき、どうしてオルフェウスからの質問に答えられなかった……?
ハルの目の前にいるのはオルフェウスだけだったのだから、オルフェウス派だと言えばよかったのに。
積み重なる思い出があるのもオルフェウスだ。いつかの日に、城の裏庭でふたりきりで話したときのことは今でも忘れられない。あれこそハルが初恋に目覚めた瞬間だったと今でも思う。
それなのに、今のハルはオルフェウスよりもゼインのことが気になる。
なぜだろう。接すれば接するほど、ゼインに惹かれていく。気がつけばゼインのことばかり考えている。
「ハルがこの城に来てくれてよかった」
「え……?」
「これからいろいろ楽しくなりそうだ!」
オルフェウスは無邪気に笑っているが、ハルは「どういう意味ですかっ」と詰め寄る。なんか、ハルのことを周りをかき回すうるさい人、みたいに言ってるようだ。
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