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14.根比べ
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ゼインと結婚してから二日目の夜を迎える。今夜のハルは湯浴みのあと、ごく普通の室内着を着た。透け透けの服を着たら、今度こそゼインはハルと口を聞いてくれなくなるだろう。
ハルが部屋に戻ると、ゼインは寝室にある長ソファに座り、小さな明かりの下、静かに書物を読んでいた。
「先に寝ろ。俺はこれを読んでから眠ることにする」
ゼインはハルを一瞥しただけで、またすぐに書物に視線を戻す。
先に寝ろ、とはやはりゼインはハルに興味などないのだ。
ハルはズカズカとゼインに近づき、ゼインの座っているソファに座った。
「は? 俺は先に寝ろと言ったが。聞こえなかったのか?」
「聞こえましたよ。ですが私も湯上がりなので少しここで休んでから寝ます」
ここはハルの部屋でもある。どこに座ろうが自由だ。
ゼインはあからさまに嫌な顔をしたが、ハルを無理矢理追い出そうとはせず、そのあとは再び静かに本を読み始めた。
よし。まずゼインの隣にいることには成功した。
「ゼインさま、オルフェウスさまから聞きましたよ。給仕係に『ありがとう』って言ったって」
ゼインからの返事は何もなかった。それでもハルは言葉を続ける。
「それを聞いて、嬉しかったです。ゼインさまは私の話なんて聞いてくれないと思ってたんです。でも、ちゃんと聞いてくれてたんですね。ありがとうございます」
やはりゼインの反応はなにもない。でもハルにはわかる。この言葉もきっとゼインに届いているはずだ。
「俺なんかと話をしてもつまらないだろう? 早く寝ろ」
「いいえ、つまんなくなんかないですよ」
ゼインの追い出し作戦にはのらない。ハルはわざとさらに深くソファに腰をかけた。
「嘘をつくな。お前はオルフェウスと話しているときは、あからさまに楽しそうじゃないか。俺といるときとは大違いだ。昔からお前はオルフェウスばかり……」
そう言われて思い出した。昼間オルフェウスとハルがいることにゼインは気がついていたのだ。
「やっぱり見てたんですね。急いでたんですか? それとも気づいてるくせに無視したんですか?」
「ふたりきりがよかっただろ。……俺がいたら邪魔だろうから」
ゼインは無表情のまま、ハルを見る。
拗ねた子どもみたいなことを言うなんて本当にゼインは可愛げがない。笑えばゼインはとてもいい顔をするのに。
「ゼインさま、いいですかっ」
ハルはゼインの頬をむにっと両手でつまんで無理やり口角を上げさせる。
「ゼインさまもオルフェウスさまも、顔はそっくりなんだから。ゼインさまはもっとにこにこしてっ!」
ゼインは嫌がりもせず、ハルのせいでちょっと変な顔になったままじっと動かない。
「どうしてそんなにいつも不機嫌そうなんですか。ダメですよ、みんな威圧的だって思っちゃいますし、せっかくの男前が台無しです」
ハルはゼインから手を離す。ハルの目の前にいるゼインは、いつもどおり整った顔をしている。
美貌も才能も持ち合わせているのだから、あとはこの性格さえなんとかしたら完璧なのに。
「顔だけはオルフェウスと一緒だからな……」
そう呟くゼインは嫌気が差したような顔をしていた。双子で同じ顔なのは当然だ。しかもふたりとも美形なのだから何に不満があるのだろう。
「ハルヴァード」
ゼインが急に真剣な顔をして迫ってきた。
「は、はい……なんでしょう」
ハルは思わず身構える。
「あいつに、どこまで許したんだ?」
ゼインから静かな怒りのようなものを感じる。それと同時に、なぜか悲しそうにもみえた。
「あ、あの……」
「ずっとオルフェウスの婚約者だっただろ。それで、結局あいつとどこまでしたんだ?」
「どこまでって……何も……」
ハルは言葉がうまく出てこない。オルフェウスは婚約者だったが、恋人みたいなことは何もしていない。
「何も、ないです……ゼインさまが思われているようなことは何も……」
なんだろう。ゼインは花嫁の純潔を重んじているのだろうか。
「……そうか。妙なことを聞いて悪かった」
ゼインはサッと視線を外し、ハルに背を向けてしまった。
「いいですよ、なんでも聞いてください。ゼインさまは私の夫ですから」
またゼインからの返事がない。でも大丈夫だとわかる。ゼインに気持ちは伝わったはずだ。
ハルは近くにあった本棚から適当な本を選んで手にする。そして再びゼインの隣に座って本を読み始めた。
「ハルヴァード、さっさと寝ろ。俺に合わせる必要はない」
「合わせてませんよ、私が本が読みたいのですっ」
ハルは眠い頭を振って目を覚まし、根性で本を読み始めた。どちらが先に眠くなるか、今夜はゼインとの根比べだ。
ハルが部屋に戻ると、ゼインは寝室にある長ソファに座り、小さな明かりの下、静かに書物を読んでいた。
「先に寝ろ。俺はこれを読んでから眠ることにする」
ゼインはハルを一瞥しただけで、またすぐに書物に視線を戻す。
先に寝ろ、とはやはりゼインはハルに興味などないのだ。
ハルはズカズカとゼインに近づき、ゼインの座っているソファに座った。
「は? 俺は先に寝ろと言ったが。聞こえなかったのか?」
「聞こえましたよ。ですが私も湯上がりなので少しここで休んでから寝ます」
ここはハルの部屋でもある。どこに座ろうが自由だ。
ゼインはあからさまに嫌な顔をしたが、ハルを無理矢理追い出そうとはせず、そのあとは再び静かに本を読み始めた。
よし。まずゼインの隣にいることには成功した。
「ゼインさま、オルフェウスさまから聞きましたよ。給仕係に『ありがとう』って言ったって」
ゼインからの返事は何もなかった。それでもハルは言葉を続ける。
「それを聞いて、嬉しかったです。ゼインさまは私の話なんて聞いてくれないと思ってたんです。でも、ちゃんと聞いてくれてたんですね。ありがとうございます」
やはりゼインの反応はなにもない。でもハルにはわかる。この言葉もきっとゼインに届いているはずだ。
「俺なんかと話をしてもつまらないだろう? 早く寝ろ」
「いいえ、つまんなくなんかないですよ」
ゼインの追い出し作戦にはのらない。ハルはわざとさらに深くソファに腰をかけた。
「嘘をつくな。お前はオルフェウスと話しているときは、あからさまに楽しそうじゃないか。俺といるときとは大違いだ。昔からお前はオルフェウスばかり……」
そう言われて思い出した。昼間オルフェウスとハルがいることにゼインは気がついていたのだ。
「やっぱり見てたんですね。急いでたんですか? それとも気づいてるくせに無視したんですか?」
「ふたりきりがよかっただろ。……俺がいたら邪魔だろうから」
ゼインは無表情のまま、ハルを見る。
拗ねた子どもみたいなことを言うなんて本当にゼインは可愛げがない。笑えばゼインはとてもいい顔をするのに。
「ゼインさま、いいですかっ」
ハルはゼインの頬をむにっと両手でつまんで無理やり口角を上げさせる。
「ゼインさまもオルフェウスさまも、顔はそっくりなんだから。ゼインさまはもっとにこにこしてっ!」
ゼインは嫌がりもせず、ハルのせいでちょっと変な顔になったままじっと動かない。
「どうしてそんなにいつも不機嫌そうなんですか。ダメですよ、みんな威圧的だって思っちゃいますし、せっかくの男前が台無しです」
ハルはゼインから手を離す。ハルの目の前にいるゼインは、いつもどおり整った顔をしている。
美貌も才能も持ち合わせているのだから、あとはこの性格さえなんとかしたら完璧なのに。
「顔だけはオルフェウスと一緒だからな……」
そう呟くゼインは嫌気が差したような顔をしていた。双子で同じ顔なのは当然だ。しかもふたりとも美形なのだから何に不満があるのだろう。
「ハルヴァード」
ゼインが急に真剣な顔をして迫ってきた。
「は、はい……なんでしょう」
ハルは思わず身構える。
「あいつに、どこまで許したんだ?」
ゼインから静かな怒りのようなものを感じる。それと同時に、なぜか悲しそうにもみえた。
「あ、あの……」
「ずっとオルフェウスの婚約者だっただろ。それで、結局あいつとどこまでしたんだ?」
「どこまでって……何も……」
ハルは言葉がうまく出てこない。オルフェウスは婚約者だったが、恋人みたいなことは何もしていない。
「何も、ないです……ゼインさまが思われているようなことは何も……」
なんだろう。ゼインは花嫁の純潔を重んじているのだろうか。
「……そうか。妙なことを聞いて悪かった」
ゼインはサッと視線を外し、ハルに背を向けてしまった。
「いいですよ、なんでも聞いてください。ゼインさまは私の夫ですから」
またゼインからの返事がない。でも大丈夫だとわかる。ゼインに気持ちは伝わったはずだ。
ハルは近くにあった本棚から適当な本を選んで手にする。そして再びゼインの隣に座って本を読み始めた。
「ハルヴァード、さっさと寝ろ。俺に合わせる必要はない」
「合わせてませんよ、私が本が読みたいのですっ」
ハルは眠い頭を振って目を覚まし、根性で本を読み始めた。どちらが先に眠くなるか、今夜はゼインとの根比べだ。
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