その告白は勘違いです

雨宮里玖

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2 特別な時間

2-7

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「言うわけないだろ」

 有馬ははっきりと言い切った。
 たったひと言。でも、そのひと言は、俺にとってひどく安心できるものだった。
 有馬は信頼できる。俺の味方だと思った。

「七沢、これからスーパーで買い物するのか?」
「あー、うん。夕飯作らないとだから」
「お前が作ってるのか?」
「あぁ。そうだよ。家事は俺の担当だから。……変かな」
「変じゃない。全然変じゃないよ」

 俺と有馬は駅の方角に向かって歩き出す。俺は結月を抱っこ、有馬は俺の荷物に自分の荷物、結月の荷物まで抱えている。

 ふたりで並んで歩きながら、俺は有馬に自分のことを話した。
 義理の父親は土木分野の人でボランティアで海外にいること。母親は男社会の古い体質の残る会社で幹部になったばかりで悪戦苦闘していること。
 俺はそんな家族を支えながら通学していること。

「母さんは俺に結月の面倒より自分のことを優先するよう言うんだけど。でもさ、現実として母さんは仕事を抜けられない。今が頑張りどきなんだ。あと一年もすればきっと母さんに時間ができるんだろうけど、それまでのあいだ俺が手伝いたいって自分から言った」

 少しの沈黙のあと、有馬が口を開いた。

「妹の世話して、家事やってたら、お前、勉強する時間ないな」
「まぁね。でも時間見つけてやってるよ。これでも中学では成績上位だったんだ。高校に入ってからは、まぁ、有馬みたいなやつがゴロゴロいるからな」

 俺は笑い飛ばそうとしたのに、有馬は真面目な態度を崩さない。

「ごめん。俺、何も知らなくて」
「え……?」
「授業サボるのも、宿題やらないのも、七沢がやる気ないせいだって決めつけてた。お前の事情なんて考えもしないで怒ってごめん」

 有馬は俺に視線を向けてくる。同情するでもなく、卑屈になるわけでもない、その優しい眼差しは俺の心を打つ。

「ち、違うって、俺は学校でこのことは黙ってるから。わかんなくて当然だよ。それに、有馬はそんな怒ってないよ、優しいよ」

 言われたことをやってこなくても、有馬は俺を見捨てなかった。友達でもなかった俺の押し売りみたいな約束を律儀に守ってくれた。有馬だって部活に勉強に委員長としての役割に忙しいはずなのに。

「ううん。サボるなとか言ってほんとごめん。七沢は偉いよ、こんなに頑張ってさ。かっこいい」

 そんなふうに有馬に言われて、俺は泣きそうになる。
 なんでだろう。別に誰かに褒められたいから、家のことや妹の世話をしているわけじゃない。俺がやりたくてやっているだけだ。
 でも、理由もわからず、ただ胸が震える。
 有馬が俺のことを知ってくれて、気持ちを寄せてくれたことが、泣けるほど嬉しいと思う。

 そうなんだ。俺の生活は決して楽じゃない。
 朝起きて、朝ごはんと弁当を作って学校に行く。学校が終わったら結月を迎えに行って、買い物して夕飯作って、掃除洗濯をする。そんな中、ギリギリ合格したハイレベル進学校の勉強についていかなきゃいけない。

 俺は男だ。絶対に泣き言は言わない、このくらいこなしてみせると思っていたけど、有馬に認めてもらって思い知る。

 俺、実は結構、無理をしていたのかな。

 家庭の事情があることを学校では隠している。
 学校の成績が悪いことを妹に隠している。

 その、俺だけが抱えていたものを、有馬がわかってくれた。笑ったり、バカにしたりすることもなく、俺の努力を褒めてくれた。
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