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2 特別な時間
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「だから手伝わさせてくれ。買い物に付き合うよ。荷物持ちくらいにはなるだろ?」
「有馬……」
有馬を巻き込むのは申し訳ないと思った。でも、正直な気持ち、有馬に手伝ってもらえたら助かる。今だって、俺の荷物を肩代わりしてくれてすごく楽だ。
「よかったね、にいに! お友達がお手伝いしてくれるの嬉しいねぇ」
無邪気な結月の言葉に俺は「うん……」と小さく頷き返す。
申し訳なかったけど、有馬を手放したくなかったんだ。
遠慮して、このまま有馬を帰したくなかった。
「じゃ、じゃあさ。買い物だけ、お願いします」
「なんで急に敬語?」
「あ、ごめん。有馬、神って思って」
「神っ?」
「マジで神。ありがとな!」
俺は明るく振る舞う。いつもの調子にしないと感動して泣いてしまいそうだった。そのくらい、有馬の優しさが身に沁みて嬉しかった。
それから俺たちはスーパーで買い物を済ませる。途中、有馬が結月を見ててくれたから楽だった。ひとりとふたりってこんなに違うんだなと実感した。
結月もすっかり落ち着いて、自分で歩いてくれてるし、俺が買ってやったラムネを握りしめてご機嫌だ。
スーパーの買い物袋を下げている有馬は、俺の家まで付き合うって言ってくれた。
疲れた身体で結月を連れて歩くいつもの帰り道が、有馬がそばにいるだけで全然違う。
なんか、すげぇ楽しい。
景色が違って見える。ただの住宅街なのにノスタルジックに思えてきて、すごく綺麗だ。
「へぇ。有馬は医学部目指してるんだ。やっぱレベルが違うな」
日は沈み、夜の青と夕焼けのオレンジ色が相まった夕暮れの中、俺たちはいろんな話をした。で、成績ナンバーワンの有馬は、秀才くんのセオリーどおりに国公立大の医学部を目指しているらしい。
「なんで? なんで医者になりたいと思ったの?」
何気なく俺が聞いたのに、有馬は黙ってしまった。なんか、答えに悩んでる感じ。
「父さんが医者で、兄貴も医学部だからかな」
「は? なんで? そんなに医者ばっかいるならもう有馬家に医者要らなくね?」
素直な気持ちで言ったのに、有馬は「その発想はなかったな」と苦笑いだ。
「なんとなく、じゃダメかな。俺も理由がよくわからない」
「いいよいいよ、なんとなくで」
有馬って面白いやつだな。なんとなくでそんな難しい大学目指せるやついるんだ。
「そんなもんだよ。有馬。俺も自分で自分がよくわからないから」
ぽん、と慰めるように有馬の肩を叩く。
「好きとか嫌いとか、そこに線引きなんてないのかなって思うから。よく言うじゃん。サッカーを好きで始めたのに苦しくなるときがあるとかさ。チョコが好きだったのに、めっちゃ食いまくったら飽きたとかさ。でもそれでいい。有馬は理由がわからないって言ってても、あるんだよ。そこにお前の『好き』が。お前が心動かされる何かが。だから有馬はそれを選んだ。もちろん自分の意思で」
やりたいこと。将来の夢。好きなこと、嫌いなこと。
俺も進路希望は出すけど、なりたい自分なんて正直よくわからない。
でも俺は高校に行って勉強してる。目の前の与えられた課題やテストに、なんでこんなことしてんだろって思いながらもそれを投げ出そうとはしない。
曖昧な中、俺は何者かを目指しているんだ。今日は何食べよう、どの道を歩こう。毎日小さな選択肢をいくつも与えられ、そのたびに自分の意思で道を選んでいるんだ。
大切な家族を守りながら。
「俺の好きなこと、か……」
有馬はぽつりと呟いた。優等生の有馬は、俺みたいに適当に生きたりしないのかな。知らんけど。
「有馬……」
有馬を巻き込むのは申し訳ないと思った。でも、正直な気持ち、有馬に手伝ってもらえたら助かる。今だって、俺の荷物を肩代わりしてくれてすごく楽だ。
「よかったね、にいに! お友達がお手伝いしてくれるの嬉しいねぇ」
無邪気な結月の言葉に俺は「うん……」と小さく頷き返す。
申し訳なかったけど、有馬を手放したくなかったんだ。
遠慮して、このまま有馬を帰したくなかった。
「じゃ、じゃあさ。買い物だけ、お願いします」
「なんで急に敬語?」
「あ、ごめん。有馬、神って思って」
「神っ?」
「マジで神。ありがとな!」
俺は明るく振る舞う。いつもの調子にしないと感動して泣いてしまいそうだった。そのくらい、有馬の優しさが身に沁みて嬉しかった。
それから俺たちはスーパーで買い物を済ませる。途中、有馬が結月を見ててくれたから楽だった。ひとりとふたりってこんなに違うんだなと実感した。
結月もすっかり落ち着いて、自分で歩いてくれてるし、俺が買ってやったラムネを握りしめてご機嫌だ。
スーパーの買い物袋を下げている有馬は、俺の家まで付き合うって言ってくれた。
疲れた身体で結月を連れて歩くいつもの帰り道が、有馬がそばにいるだけで全然違う。
なんか、すげぇ楽しい。
景色が違って見える。ただの住宅街なのにノスタルジックに思えてきて、すごく綺麗だ。
「へぇ。有馬は医学部目指してるんだ。やっぱレベルが違うな」
日は沈み、夜の青と夕焼けのオレンジ色が相まった夕暮れの中、俺たちはいろんな話をした。で、成績ナンバーワンの有馬は、秀才くんのセオリーどおりに国公立大の医学部を目指しているらしい。
「なんで? なんで医者になりたいと思ったの?」
何気なく俺が聞いたのに、有馬は黙ってしまった。なんか、答えに悩んでる感じ。
「父さんが医者で、兄貴も医学部だからかな」
「は? なんで? そんなに医者ばっかいるならもう有馬家に医者要らなくね?」
素直な気持ちで言ったのに、有馬は「その発想はなかったな」と苦笑いだ。
「なんとなく、じゃダメかな。俺も理由がよくわからない」
「いいよいいよ、なんとなくで」
有馬って面白いやつだな。なんとなくでそんな難しい大学目指せるやついるんだ。
「そんなもんだよ。有馬。俺も自分で自分がよくわからないから」
ぽん、と慰めるように有馬の肩を叩く。
「好きとか嫌いとか、そこに線引きなんてないのかなって思うから。よく言うじゃん。サッカーを好きで始めたのに苦しくなるときがあるとかさ。チョコが好きだったのに、めっちゃ食いまくったら飽きたとかさ。でもそれでいい。有馬は理由がわからないって言ってても、あるんだよ。そこにお前の『好き』が。お前が心動かされる何かが。だから有馬はそれを選んだ。もちろん自分の意思で」
やりたいこと。将来の夢。好きなこと、嫌いなこと。
俺も進路希望は出すけど、なりたい自分なんて正直よくわからない。
でも俺は高校に行って勉強してる。目の前の与えられた課題やテストに、なんでこんなことしてんだろって思いながらもそれを投げ出そうとはしない。
曖昧な中、俺は何者かを目指しているんだ。今日は何食べよう、どの道を歩こう。毎日小さな選択肢をいくつも与えられ、そのたびに自分の意思で道を選んでいるんだ。
大切な家族を守りながら。
「俺の好きなこと、か……」
有馬はぽつりと呟いた。優等生の有馬は、俺みたいに適当に生きたりしないのかな。知らんけど。
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