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まずお母様を味方に付けますわよ
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「あの馬鹿王子が慌てる顔が目に浮かぶようですわね」
婚約破棄を伝える手紙を封蝋で封印し、アンに手渡す。
この手紙が留学先にいる馬鹿王子に届くまで大体十日はかかるはずである。
「婚約者の方から婚約破棄を言い渡された王子なんて前代未聞の騒ぎになるでしょうね」
事を知った馬鹿王子がどう行動するかはわからないが、もし慌てて帰ってくるにしても二十日近くはかかるだろう。
なので私はそれまでに婚約破棄を完璧なものにするため、早速王子から今まで送りつけられてきた手紙の束を握りしめて根回しを始めます。
まずはお父様……の前にお母様を味方に付けなければ。
私は屋敷を出て行くアンを見送った後、お母様の部屋に向かいました。
今日は特に貴族の集まりなどの予定は入っていなかったはずなので、この時間なら部屋で読書でもしているはずです。
「お母様、いらっしゃいますか?」
「あら、メアリー。珍しいですわね」
私がお母様の部屋に直接出向く事はここ数年ほとんどありませんでした。
昔はよく訪れては本を読み聞かせて貰ったり、趣味の裁縫などを教えて貰ったりしたものですが、思春期を超えそういうことも徐々に少なくなっていったのです。
なので、私が自分の部屋にやって来た事に喜んでいるのがその声音でわかりました。
ですが、今日私がお母様を訪ねたのはお母様が喜ぶような内容ではないのです。
その事に少し罪悪感を覚えつつ、私は部屋の中に入りました。
「お母様。実は私、馬鹿王――ポール様との婚約を破棄させて頂こうと思っておりますの」
私がそう口にした途端、今まで嬉しそうな笑みを浮かべて私の話を聞いていたお母様の顔が固まりました。
そして、テーブルの上に置かれたティーカップにゆっくり手を伸ばすと、震える手でゆっくりと紅茶を一口飲んだのです。
カチャカチャ。
お母様はそのままティーカップをテーブルの上に戻すと、固まったままの笑顔で私に確認します。
「よく聞こえなかったわ。もう一度お願いできる?」
嘘です。
その顔と震えている手を見れば、私の言葉をしっかり聞いていた事がバレバレです。
でもお母様が信じたくない気持ちもわかります。
王子との婚約を、王子や王家側からでなく、子爵令嬢の方から破棄するなどと誰が信じられましょう。
「私、メアリー=フォックスは、ポール=クリフォード王子との婚約を破棄させて頂く事に決めましたの」
「どうして?」
「あの人がとてつもない馬鹿王子だからですわ」
あ。
つい勢いで私とアンしか知らないあの王子に対する呼び名を使ってしまいました。
ですが、今更それを取り繕う必要は無いでしょう。
「メアリー、あのような立派なポール様のどこが『馬鹿王子』なのですか?」
お母様は困惑気味にそう問いかけてきます。
そう、あの馬鹿王子ポールは非常に外面が良いのです。
容姿端麗で頭脳明晰。
王都の貴族学園では常にトップの成績を収め、教師や学生たちにも非常に覚えが良い生徒でした。
身分の高い者にも低い者にも分け隔て無く接し、それでいて誰からも反感を買わない聖人。
それが皆の共通認識なのです。
ただ、外面に関しては私も人の事はいえません。
世間の人たちが知るメアリー=フォックスは、まさに『聖女』そのもの。
だからこそ『聖人』と『聖女』の婚約が発表されたときには国中の人々から祝福の言葉を頂いたものです。
「お母様は知らないのです。いいえ、私とアン以外の人たちは誰一人としてあの馬鹿王子の本性を知らなかったのです」
「本性? メアリー、貴方は一体何を知っているというのです?」
お母様は私の言葉を聞いて「信じられない」と言った表情を浮かべています。
あの偽聖人の外面しか知らないお母様には、私の言った事は想像も付かないのでしょう。
いいでしょう。
それなら真実をお母様に見せてあげますわ。
婚約破棄を伝える手紙を封蝋で封印し、アンに手渡す。
この手紙が留学先にいる馬鹿王子に届くまで大体十日はかかるはずである。
「婚約者の方から婚約破棄を言い渡された王子なんて前代未聞の騒ぎになるでしょうね」
事を知った馬鹿王子がどう行動するかはわからないが、もし慌てて帰ってくるにしても二十日近くはかかるだろう。
なので私はそれまでに婚約破棄を完璧なものにするため、早速王子から今まで送りつけられてきた手紙の束を握りしめて根回しを始めます。
まずはお父様……の前にお母様を味方に付けなければ。
私は屋敷を出て行くアンを見送った後、お母様の部屋に向かいました。
今日は特に貴族の集まりなどの予定は入っていなかったはずなので、この時間なら部屋で読書でもしているはずです。
「お母様、いらっしゃいますか?」
「あら、メアリー。珍しいですわね」
私がお母様の部屋に直接出向く事はここ数年ほとんどありませんでした。
昔はよく訪れては本を読み聞かせて貰ったり、趣味の裁縫などを教えて貰ったりしたものですが、思春期を超えそういうことも徐々に少なくなっていったのです。
なので、私が自分の部屋にやって来た事に喜んでいるのがその声音でわかりました。
ですが、今日私がお母様を訪ねたのはお母様が喜ぶような内容ではないのです。
その事に少し罪悪感を覚えつつ、私は部屋の中に入りました。
「お母様。実は私、馬鹿王――ポール様との婚約を破棄させて頂こうと思っておりますの」
私がそう口にした途端、今まで嬉しそうな笑みを浮かべて私の話を聞いていたお母様の顔が固まりました。
そして、テーブルの上に置かれたティーカップにゆっくり手を伸ばすと、震える手でゆっくりと紅茶を一口飲んだのです。
カチャカチャ。
お母様はそのままティーカップをテーブルの上に戻すと、固まったままの笑顔で私に確認します。
「よく聞こえなかったわ。もう一度お願いできる?」
嘘です。
その顔と震えている手を見れば、私の言葉をしっかり聞いていた事がバレバレです。
でもお母様が信じたくない気持ちもわかります。
王子との婚約を、王子や王家側からでなく、子爵令嬢の方から破棄するなどと誰が信じられましょう。
「私、メアリー=フォックスは、ポール=クリフォード王子との婚約を破棄させて頂く事に決めましたの」
「どうして?」
「あの人がとてつもない馬鹿王子だからですわ」
あ。
つい勢いで私とアンしか知らないあの王子に対する呼び名を使ってしまいました。
ですが、今更それを取り繕う必要は無いでしょう。
「メアリー、あのような立派なポール様のどこが『馬鹿王子』なのですか?」
お母様は困惑気味にそう問いかけてきます。
そう、あの馬鹿王子ポールは非常に外面が良いのです。
容姿端麗で頭脳明晰。
王都の貴族学園では常にトップの成績を収め、教師や学生たちにも非常に覚えが良い生徒でした。
身分の高い者にも低い者にも分け隔て無く接し、それでいて誰からも反感を買わない聖人。
それが皆の共通認識なのです。
ただ、外面に関しては私も人の事はいえません。
世間の人たちが知るメアリー=フォックスは、まさに『聖女』そのもの。
だからこそ『聖人』と『聖女』の婚約が発表されたときには国中の人々から祝福の言葉を頂いたものです。
「お母様は知らないのです。いいえ、私とアン以外の人たちは誰一人としてあの馬鹿王子の本性を知らなかったのです」
「本性? メアリー、貴方は一体何を知っているというのです?」
お母様は私の言葉を聞いて「信じられない」と言った表情を浮かべています。
あの偽聖人の外面しか知らないお母様には、私の言った事は想像も付かないのでしょう。
いいでしょう。
それなら真実をお母様に見せてあげますわ。
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